第187話 雪代家の穏やかな一日
一月六日。新学期まであと二日。
冬休みが終わってしまうけど、この休み中は大分勉強を疎かにしていた。
宿題は研修前にすべて終わらせたが、クリスマスに年末年始や初詣、さらに引っ越しと、イベント盛りだくさんだったからな。
そんなわけで今日は羽依と勉強を頑張ることにした。
雪代家に住んでも、やることは出来るだけ今までと同じにする。朝のルーティンはいつもどおり済ませた。
朝食に俺と羽依はトーストとハムエッグを食べる。美咲さんは俺が作ったオニオンスープだけ飲んだ。
「ふう、胃に優しいねえ。朝はこのぐらいで十分だよ。蒼真がいる間は私の食生活は充実するねえ」
満足そうに微笑む美咲さん。そんな彼女の頭は爆発してるような寝癖だけど、あえて指摘はしない。一緒に住むということは、気を使いすぎない、干渉しすぎない。この辺りを意識していかないといけないらしい。
朝食の後片付けを済ませ、勉強道具を持って羽依の部屋に入る。
「さあ蒼真! 今日はビシビシ行くよっ!」
伊達メガネをかけて女教師的な服に着替えていた羽依。
薄いブラウスに紺色のタイトなスカート姿だ。薄いベージュのストッキングを履いていて、それがまたやたらとツヤツヤして艶めかしい。
「よろしくね羽依。でも、その格好はなんていうか……妙にえっちぃね……」
俺の言葉にメガネをクイッとして、口をとがらせる羽依。
「神聖な勉強をする前にそんな邪な考えでどうするの! 先生許しませんよっ!」
ああ、もう入ってるんだ……。
「すみません先生。じゃあ早速始めましょう」
そうして午前中は勉強に専念した。
相変わらず勉強中の羽依は集中力がすごい。
ちょっと悪戯でもしたいところだけど、それが出来ない。
俺も真剣に取り組むべくテキストの問題を必死に解いた。
ページをめくる音とシャーペンの走る音だけが、部屋の静けさを支配していた
気がつけば14時を過ぎていた。まかないの時間が来たのでお店に降りる。
「羽依ちゃんその服どうしたの~? なんか大人っぽいね!」
先にまかないを食べていたりっちゃんが羽依の格好を見て興奮気味だ。
「私のお古だね。まあそういうプレイをしてたんだろ」
美咲さんが身も蓋もない事を言い放つ。
「プレイってなに!? ちゃんと勉強してたんだよね! 蒼真!」
「うん。ちょっとやりすぎて頭が痛いです……」
「あはっ! なんの勉強してたんだか! さあ食べちゃいな」
今日のまかないはエビピラフに山盛りレタス。巻いて食べるととても美味しい。スープは朝食の残りのオニオンスープだ。
「このスープ、蒼真くんが作ったんだってね。美味しく出来てるね~」
りっちゃんに褒められると妙に嬉しいのは何故だろう。
そんな俺の隣でメガネをずっとクイックイッしてる羽依。
「蒼真はりっちゃんに浮気したね。ギルティー!」
そう言って俺のエビピラフのエビを全部持っていった。
「ちょおおお! 俺なんも言ってないし!」
「目がエロいからだよ蒼真。反省しなさい」
俺のエビを全部口に突っ込んでもぐもぐしながら羽依が責める。
こんな女教師いやすぎる。
「ごちそうさまでした! じゃあ二人とも、仲良くしてね! またね~!」
まかないを食べ終えたりっちゃんが俺たちに手を振って帰宅した。その後姿をじっと見る羽依。
「りっちゃん格好いいなあ……あの身長はやっぱり魅力だよねえ。私ももうちょっと背が高ければなあ~」
これだけ可愛い子でもそういう事思うんだな。
りっちゃんの身長は俺より高く、180cmぐらいはあると思う。確かにスラッとして格好良く、たまに付き合いでモデルもやるらしい。それに比べ、羽依は160cmほど。ちなみに真桜は164cmと羽依より少し高くて美咲さんとほぼ同じぐらいだ。
ようは親しい人の中では一番低いわけだ。
「別にそこまで背が低いわけじゃないでしょ。今だって十分すぎるほど可愛いんだし、贅沢言わないの」
「ぶう、でも可愛いって言ってくれるのは嬉しいから許す!」
「ええ、今まで許されてなかったのか……」
丁度その時、羽依のスマホにLINEの着信が鳴る。内容を確認してにっこりと微笑んだ。
「真桜からだ!こっち帰ってきたんだって。明日新学期の準備するから買い物に行こうってさ」
「そかそか、じゃあ行ってらっしゃい」
さっそく返信する羽依。明日はフリーになったけどバイトもあるし、新学期前に明日もみっちり勉強しておくか。
部屋に戻り羽依と勉強を再開する。
女教師は継続中だけど、集中力が途切れてるのが伝わる。
「ん~今日はもう駄目っぽい。しばらく休憩するね」
「ああ、ゆっくりしててね。俺はもうちょっとだけ続けるね」
羽依がベッドに寝そべりスマホで動画を見はじめる。
ちょっとボリュームが大きいなあ……。
「いえーい彼女ちゃん見てるー?」
突然羽依のスマホから真桜の声が響き、心臓が跳ねる。
「ちょっと! なに見てんの!? 前のビデオ通話保存してた!?」
「んふ、もうかれこれ何度リピったことか。真桜、最高だよ……。明日会えるのすっごく楽しみだなあ……」
羽依がスマホを凝視して息を荒くして興奮している。
ちょっと、いや、かなり怖い。
彼女の性癖の歪みっぷりは限界突破してるようだ。
真桜、明日はピンチだな……。