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第182話 下着とナイフ

 県内最大級を謳うショッピングモールにやってきた。最大ではない。


「蒼真、このブラすごい……隠れてないわよ。下着の役割放棄してるわね」


「そっか。じゃあそれにしよう」


「もうっ、ちゃんと見て!」


 ああもう、失敗した!


 臨時収入でプレゼントを買ってあげたいと伝え、羽依には下着を買ってあげる話をしたら、じゃあ私もと。まあそうなるよな。


 一緒に決めてと言われ、無理やり下着売り場に連れてこられたが、俺が買ってあげる以上一緒に居なくてはならない。


 この男子禁制の空気感。別に下着姿の女性がいるわけじゃないのに異物感が半端ない。

 この試練がもう一回訪れるのか……。


「すごっ、このサイズ……Gカップですって」


 真桜がカップの大きいブラジャーを手に取り、しげしげと見つめる。


「そういや羽依がGになったって言ってたよ」


 真桜がぎょっと目を見開いた。


「なんですって……。春頃はEからFって言ってたのに……蒼真のせいね」


「そんなばかな。――ちなみに真桜のサイズは聞いたら教えてくれる?」


 俺の軽口に、彼女は口をとがらせる。


「羽依の話の後だと言いたくないわね……いくつだとおもう?」


 ちらっと真桜の胸を見ると、もうノーブラじゃないみたいでホッとする。

 鰻屋じゃ、離れの個室なのをいいことにトイレで外してたって話だし。

 足癖の悪さといい……今日はほんとやられっぱなしだ。


「ん~……CかD……Dだ!」


「正解。よく分かったわね。小さくはないと思うんだけど、羽依と比べちゃうとね……」


「真桜の胸を小さいなんて思ったことないよ。つうかそろそろ決めて? いい加減辛い……」


 さっきから他の客にジロジロ見られてるんだよう……。


「ふん、もうちょっと胆力鍛えなさい。――あ、これなんてどうかしら? すっごい……上も下も隠れてないの!」


「もう何でもいいから早くしてー!」


 あれこれ見た挙げ句、結局決めたものは見せてくれなかった。


 お会計を済ませて急いで店外へ。

 ああ、表の空気が新鮮だ。まだモール内だけど。


「おまたせ蒼真。ほんとに良いのかしら? 何だか今日は随分お金使わせちゃってるわね……ありがとうね」


「全然かまわないよ。全部足してもこの腕時計には全く見合わないし」


 いけないと思いつつ価格を調べてしまったが、思っていた額よりもさらに高かった……。


「ふふ、そんなに気にしてたのね。――羽依が『これあげたら蒼真、どんな顔するかな!』って大はしゃぎでね。私もつい便乗しちゃったの。結果は大成功、期待以上にいい顔してたわよ」


 羽依との賑やかなやり取りが目に浮かぶようだ。

 そんな二人に愛されて、ホント俺は幸せ者だと思う。



 賑わうフードコートで一休みをする。二人でたこ焼きをつまみつつ、冬休みの出来事を語り合う。


「へえ、同級生の子たちとカラオケ行ったんだ」


「うん、ずっとこっち帰ってきたら連絡してって言われてたからね。――貴方とのこと色々聞かれちゃった」


 そう言って悪戯に微笑む真桜。


「うぅ……なんて答えたの?」


「すごく仲が良いって言っておいたわ。合ってるでしょ?」


「合ってるけど、真桜のファンの子に刺されそうだね……」


 真桜はクスクスと笑った。

 夏祭りのときに会った子たちは彼女の親衛隊みたいな雰囲気だったからな。真桜が地元の子と仲良くしてるのは俺も嬉しかった。


「蒼真はこっちで会いたい友達っていないの? 仲の良かった子とか……ああ、良いわ。ごめんごめん」


 俺の表情ですべてを察してくれる真桜の優しさが、ちょっぴり切なかった。


 さあ買い物も済ませたし、後は帰るだけだ。


「今日はどうするの? うちに泊まっていく?」


「え……いや、悪いから良いよ。電車で帰っても全然間に合うし。家までは送っていくよ」


「言わなかったっけ? 両親が海外出張してるから今は家に誰もいないの。蒼真は寂しい子を一人置き去りにするんだ……」


 上目遣いで俺を覗き見る真桜。いつからそんな技を身に着けたんだ。いや、元からか。


 いい加減そろそろ認めないとな。

 真桜は真面目な皮を被れる子で、その実態は羽依にも劣らない悪戯な女の子だということを。


 今までだって散々火傷しそうな事をしてきてるけど、どうしても普段の冷徹なイメージが強すぎて見誤ってしまう。


「俺が泊まったら真桜は無事じゃ済まないよ? 引っ越しの準備もあるし、今日のところは帰るよ」


「もう、頑固ね……無事じゃなくても全然かまわないのに……」


 何やら刺激的なぼやきをつぶやいているが、今日はなんとなくやばいと思う。鰻食べちゃったしな……。


 ショッピングモールを出ると辺りは薄暗くなっていた。

 ここから徒歩で20分ほどの場所らしく、俺の実家のあった場所からもそう遠くはなかった。


 夕暮れの長い影を踏みながら家路に向かう。

 途中、近道ということで大通りから外れた道を歩く。


「ちょっと雰囲気ある場所だね……」


「そうね、一人だと怖い道かもしれないわね」


 通りにはもう使っていない倉庫が点在している。いかにも不良のたまり場のような。

 案の定、倉庫の前で様子の悪そうなのが数人たむろしている。


 嫌な予感しかしないな……。


 不良たちは俺をじっと見つめる。俺と真桜は目を合わせないように通り過ぎようとした。

 その時。


「お? ちょっとまてよ。お前『芝刈りそーちゃん』じゃねえか?」


 ……まあ地元だからな。俺の古いあだ名を知っているやつもいるだろう。その声は友好的とはとても感じない、嘲笑めいた響きをもっていた。


「おい、無視すんなって。随分可愛い子連れてるじゃん。久しぶりなんだしちょっと話でもしようぜ」


 そう言って俺達の前に立ちふさがり、ニヤニヤして近づいてきた。


 手には鈍く光るナイフを持って……。




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