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第180話 鰻屋にて

 参拝を終え、人混みをかき分けて、頼まれていたお守りや御札をどうにかゲット。


 次なる目的の場所は名店と名高い鰻屋さんだ。

 結構並んでるけど、二人の腹はすでに鰻。今さら変えられない。

 待つこと一時間、空腹で目眩してきた……。


「真桜、大丈夫? 倒れそうになってるけど」


「お腹すいたー! この匂いに殺されるー!」


 やばい、キャラ崩壊してきた。

 このクールレディー、空腹にはめっぽう弱かったんだ。


 暴れそうな真桜をなだめすかして、ようやく俺たちの順番が巡ってきた。

 案内された席は、離れの小ぢんまりとした個室だった。

 和室の六畳間は古めかしい佇まいながら、畳は新しく清潔感がある。壁には墨痕鮮やかな水墨画が掛けられ、花瓶には松と白梅に赤い千両が添えられていた。


 凛とした松、可憐な梅の花、そして艶やかな赤い実をつけた千両。控えめながらも新春らしい気品が漂い、どこか敷居の高さを感じさせる空間だった。


 入口で彼女が編み上げのブーツを脱ぐのに悪戦苦闘している。

 しゃがみ込んだ拍子に、短いスカートの奥から紺の布がちらりとのぞいた。

 視線を逸らそうとしたのに、どうしても目が吸い寄せられてしまう。

 無防備すぎるその光景に、喉がひとりでに鳴った。――人目がないのがせめてもの救いだった。


「あー、すごい開放感……」


「はは、やっぱそういうブーツって大変みたいだね。お座敷だったのがツイてなかったかな」


「ううん、こういう部屋好きよ。結構歩いたから一度脱ぎたかったし……ちょっと向こうむいててくれる?」


 そう言って彼女はポーチから色々取り出していた。女の子ならではの都合もあるのだろう。反対側を向きながら、メニューを眺める。


「真桜、特上うな重とおそばセット。これで良いかな?」


 お値段はちょっと真桜には言えない価格だ。普段なら絶対選ばない。遠慮するだろうからメニューは見せないでおこう。


「蒼真と同じでいいわ。ちょっとお手洗い行ってくるわね」


 そう言ってトイレに向かった真桜を見送り、内線で注文をした。なんだかカラオケボックスみたいだな。


 ほどなくして真桜が戻ってきた。かすかに頬が赤いのは寒空から暖かい部屋に入ったせいだろうか。

 ジャケットをハンガーにかけて俺の正面に座る。薄いピンクのニットは体のラインを強調させ、妙に艶めかしかった。


「はああ、やっと落ち着いた。可愛い格好は何かと大変ね……」


「いつものお嬢様風だって大変じゃないの? 裾長い服多いし」


「そうねー、大変さのベクトルが違うって感じかしら。短いスカートは色々気にしちゃうし。――さっき見たでしょ」


 じっと俺を見つめる真桜。ドキッとしつつも、怒ってはいない様子に胸を撫で下ろす。


「あ、はい。いや、ああいうのは男の性だと思います……」


「なにそれ。まあ初犯じゃないものね。前も私のスカートの中をじっと覗いてたわよね」


「すっごい語弊のある言い方! それいつの話だよ!」


「忘れたのかしら? 貴方と羽依が偽装で付き合った話を聞いたとき」


 その言葉で思い出した。――真桜に呼び出されて自販機前で座り込んだあの時か……。


「ああ、あの時の水色……」


「そう、だってあの時――わざと、見せたんだもの」


 途端に真桜の瞳が悪戯に光る。


「蒼真がどんな反応するかなってね」


 あっさりと告白するが、驚きを隠せない。

 いやいや……悪戯で見せて良いものじゃないだろ。


「やっぱ真桜ってむっつりだよな……あの頃からそんな悪い遊びをしてたのか……」


「うん!」


 全く悪びれずに元気に返事されると、本当にこの子は真桜なんだろうかと疑ってしまう。


「真桜って色んな顔があるんだね……」


「だから貴方にむっつりって言われちゃうんだけど……ここ最近で色々吹っ切れたかも。誰のせいかしらねー」


 ふと、テーブルの下でうごめく真桜の足。俺の膝や腿を挑発するように足の裏で撫でていく。

 その悪戯な足には俺がプレゼントしたアンクレットが光っていた。


「そっか、俺は真桜の封印を解いてしまったのか……」


「そうよ。責任とってよね?」


 そう言ってる真桜はこの上なく楽しそうだ。切れ長の目元も緩みっぱなしだ。


「んむむ……そうそう、その水色の下着を見たときだよ。――俺と羽依が付き合ったのを偽装だとすぐに見破られたあの時、いや、ホントなんで見破ったのかって驚いたんだ」


 真桜がもう可笑しくてたまらないってぐらいにニヤニヤしている。


「蒼真が迂闊なのよねー。そんなこと分かるはず無いじゃない。ちょっとカマをかけただけなのに、案の定すぐオロオロしちゃって。呆れたけど、笑いこらえるのも大変だったんだから!」


「なん……だとっ」


 衝撃の事実に声がでなかった。女子って怖いな……。

 真桜は涙を流して笑っている。


「あーだめ、可笑しすぎる。――でも、そんな正直な貴方だから好きになったのよね。気になる男子から昇格したの。おめでとう」


「あ、ありがとう? 自分で言うのもなんだけど、あの頃の俺なんて冴えない男子だったと思うけど、真桜はもの好きだよね……」


「ふふ、私もそう思う。ホントなんであんなに気になったんだろう」


 さらにもう片方の足も加わりで、太もものその奥まで触れようとしてきた。その悪さをする足をどうにか片方捕まえる。

 すべすべの感触のふくらはぎをそっと愛でつつ、膕あたりをこそっと触れると、くすぐったそうに表情を歪める真桜。


 片方の足は好き放題遊ばれているが仕方ない。

 もはや我慢比べのようになっていた。


「蒼真、私の服を良くみて。何も気づかない?」


 顔を真っ赤にして俺にそう言ってきた。

 薄いピンクのニットは体のラインを強調して艶めかしくて……。

 胸元をよく見ると、ニットの繊維の隙間から色素の違う肌が見えて……!?


「真桜っ! それ、胸……」


 悪戯する真桜の足とニットから見えるそれのせいで、刺激が半端ない。


「ちょ、真桜、やめて! 降参!」


「蒼真……このまま続けたらどうなっちゃう?」


 やばい、真桜の嗜虐心が悪い方にでてるようだ。めっちゃ悪そうな顔してる……まさかこんなとこで果てるわけには……!


 真桜の足の裏を思いっきりくすぐってやった。


「ちょっと、あはは! それ反則! だめ!」


 真桜の笑い声とともに、ようやく悪戯な足から解放された。


 その時、廊下から足音が響く。真桜は慌てて姿勢を正した。


 襖が開き、料理が次々に運び込まれる。


「お待たせしましたー! 特上うなぎおそばセット、片方はご飯とおそば特盛ですー。ごゆっくりどうぞー!」

 

 艶っぽい空気は一瞬で霧散し、部屋はうなぎ色に染まった。


「すっごーい! ツヤツヤしてて美味しそう! この香りがたまらないわ! ……って、なに片方だけ特盛にしてるのよ。まるで私が腹ペコキャラみたいじゃない」


「え、いや、違った?」


 さっきまでの艶やかさはどこへやら。

 俺を一瞥したあと、真桜は満面の笑みでうな重に向き合った。


 真桜、その温度差は風邪を引きそうだよ……。

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