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第177話 朧気な未来

 元日の深夜。

 美咲さんはたっぷり飲んで布団でおやすみ。

 俺たちは――。


「んっ……ぐすっ……蒼真……もう、だめ……ああっ」


 静かな部屋に、羽依のか細い声が漏れる――。



 お互いの温もりを感じながら、事後のピロートークを楽しむ。

 と言っても、羽依はぐったりして、されるがままな状態だ。


「羽依ってすぐ泣いちゃうよね……。そういうところ、めっちゃ可愛いって思う」


 彼女の涙を拭うように頬や首筋へ啄むように口付けを落とす。


「うーっ、恥ずかしいから言わないで……。なんか良すぎて怖くなっちゃうの。向いてないのかなあ」


「俺のせいかも。ごめんね。つい可愛くて……。羽依が慣れるまで、もっと優しくしないとね……」


「んっ……大丈夫。慣れてきたって思うよ。その分良くなってきたんだろうね……。蒼真の手があったかくて気持ちいい……」

 

 成長した柔らかさに触れるたび、羽依は体をピクッと反応させて艶っぽい吐息を漏らす。

 この感触は飽きることがないのは何故なんだろう。


 愛しい彼女の素肌を愛でながら、寒い部屋で抱きしめ合う。それは、この季節ならではの贅沢なのかもしれない。

 この夜何度目かの深いキスを交わす――。



 しばらく余韻を楽しんだ後、羽依が俺の頬に手を添えてくる。その柔らかな表情の奥には真剣味が宿っていた。


「蒼真は九条さんのお父さんの話って、やっぱりショックだった?」


 ふと問いかける羽依。その声色には俺を気遣う優しさが滲んでいた。


「それがさ、逆に嬉しかった気持ちのが強くてね。父さんと血が繋がってないって聞いた時のがよっぽどショックだったよ。だったら俺の本当の父親って誰って思うじゃない? 結構気になってたからね……」


「だよねえ……でも蒼真は複雑だよね。まさか九条さんのお父さんと蒼真のご両親がそんな関係だったなんて……」


「……父さんからは聞いていたんだ。『先輩俺のこと大好きだからな』って。その言葉がまさかそういう意味だったとはね……」


 途端に羽依の瞳が妖しく光る。


「すっごく興味津々で根掘り葉掘り聞きたいけど、――今は我慢する」


「お、おう。――いや、俺もそんな詳細知らないって」


 羽依が絶対好きそうな話だよなこれは……。

 そもそもそんな関係だったのだろうか。

 ――だめだ、考えないようにしよう。


「でも、男の人二人と女の人一人だとそんな事になるんだね。私たちは産む側だからさ、蒼真の子ってすぐ分かるからその点安心だね」


 産むって言葉が羽依から出ると、妙に生々しくてドキッとする。


「安心って……やっぱきっちり避妊はするべきだという教訓だと思うよ」


「そしたら蒼真は今ここに居なかったんだよ? これでよかったんだよ。――でも、私たちは今は気をつけようね。結婚したら一杯産むからさ!」


 無邪気に微笑む彼女が可愛らしい。子沢山の家の中を想像して思わずほっこりする。


「羽依って子ども好きなの?」


「ん~、赤ちゃんは好きだよ。でも育てたこと無いから分からないね。楽しいことも嫌なこともきっとあるだろうけど、蒼真の子なら絶対かわいいと思う!」


「そうだねー。絶対かわいいと思う。子沢山だと賑やかになりそうだね」


 わいわいと賑やかな家の中を想像する。ああ、なんて幸せな光景なんだろう。


「その頃の俺たちってどうなってるんだろうね」


 俺の問いに羽依は急に真剣な表情を向ける。


「……ねえ蒼真、もし私と真桜がどっちも“産みたい”って言ったら?」


 一瞬で空気が変わった。

 

 羽依の大きな目が真っ直ぐ俺を貫く。

 突然の抉るような質問に思わず固まってしまう。


「それは”選ぶ“って話なのかな。何の責任もなしに産んでって言えないね……」


「私は譲らないよ。真桜だって同じだと思う。だったら後はどうなると思う?」


 譲らないもの同士、そんなの破滅しか見えないじゃないか……。意地悪な質問だけど現実的な話でもある。


「二人の修羅場なんて絶対見たくない……」


 俺の答えに羽依はくすくす笑う。空気が途端に和らいだ気がした。


「じゃあ結論は一つだよね。二人とも愛することだよ。頑張ってね蒼真!」


 難解な事を簡単に言ってくれるよな……。

 もしそんな無理を押し通そうとするのなら、きっと普通じゃ駄目だ。

 俺に出来ること。それは――。


 朧気に浮かぶ将来像はまるで夢物語のようだった。

 そんな幸せな余韻に包まれたまま眠りについた。



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