第171話 再婚の衝撃
寒くも、どこか心地よい夜だった。
のんびりと研修所まで歩いて戻る道すがら、会話も弾み、改めて良い繋がりができたと実感できた。
部屋に入ってからスマホを見るとLINEが数件届いていた。
その中にグループ招待が来ていた。父さんからだ。
「チーム藤崎……なんだこりゃ?」
蒼真「父さんこれ何のグループ?」
拓真「見りゃわかるだろ。藤崎家のグループだ」
蒼羽「蒼真に話があるからさ。拓真から言って」
拓真「えーまじで? なんか緊張しちゃうなあ」
蒼真「何の茶番だよ」
拓真「じつは~!」
拓真「お父さんとお母さん再婚しまーす!」
蒼真「は? だれと?」
蒼羽「お父さんとお母さんがに決まってるでしょ」
えー。
そんな大事なことLINEでいうか?
ちょっと展開についていけない。
まじで?
あ、やばい。
まじで泣きそう。
そっか、LINEで良かったんだ……。
こんな顔、二人に絶対見せられない。
ほんの少しだけ、かすかな望みが見えた気はしていた。
でも、考えないようにしてた。
またみんなで暮らす未来がほんとに来るなんて。
信じられない、夢のようだ……。
拓真「それで蒼真に相談なんだけどさ」
蒼真「二人ともおめでとう! 相談って?」
拓真「蒼真の住んでるアパート、俺たちに譲らない?」
……は?
いや、何いってんの?
そこは三人で住もうか、じゃないの?
譲らないってなに?
俺に出て行けと?
蒼真「ちょっと意味がわからないんですが」
拓真「いや~ほら、俺も都内で働くわけだけど、借金あるだろ」
蒼羽「蒼真が住み込みバイトするっていうからさ。部屋空くんじゃないかってね!」
拓真「蒼真も欲しいだろ、弟か妹」
~~~~!!
そうだ! こういう親だった!
父は楽天家でド天然。母は自由人で他人の事なんて眼中にない。
すべてが解決したらきっと仲良し家族に戻れるんじゃないかって、そんなの幻想だった!
「はああー……」
クソデカため息を一つ吐く。
――よしっ。
蒼真「まあそうだね。二人で住むのは良いと思うよ。おめでとう二人とも!」
拓真「ありがとう! 蒼真ならそう言ってくれるって信じてた!」
蒼羽「雪代さんちならご近所なのよね! 一緒に住んでるのと一緒よ! ご飯も毎日食べにいらっしゃい!」
蒼真「それは遠慮する」
俺ってやっぱり不幸だよなあ……。
なんて思ったりもしたけど、以前とは全く違う状況だ。
少なくとも一度は途切れた絆が再び結ばれた。
事態はやはり良い方に向かっているって今は思えた。
部屋をノックする音が。もしかして遥さん?
ロックを解除してドアを開けると、やっぱり遥さんだった。
「こんばんは。寝るにはまだ早いから、もうちょっとお話しても良いかなって……蒼真くん? 目が真っ赤だけどなにかあったの?」
俺の様子に気づき驚く遥さん。
「ああ、実はちょうど今、父さんと母さんが再婚するって話を聞いて……」
俺の言葉に目を見開き、口を抑える遥さん。
「それはおめでとう! で、良いのよね? 貴方の家庭の事情は詳しくはないけど、色々大変だったというのは浅見さんから聞いているわ」
「はい、この件に関してはおめでとうで間違いないです。ただ、同時に住む場所が……」
事の顛末を遥さんに話した。
黙ってじっと聞いていた彼女は、痛ましそうな表情を浮かべていた
「そんなことが……蒼真くんが可哀想すぎるわ……でも、納得してるのね」
「どのみち出ていく予定でしたからね……」
「雪代さんのうちに住み込みで働くって話よね。――浅見さんからその話は聞いてるの。ちょっと驚いちゃったけど」
隠すつもりもなかったけど、遥さんからその話が出ると妙にバツの悪さを感じてしまう。天秤にかけられているような物だからな……。
俺のことを責めるでもなく、むしろ心配そうに見つめる遥さん。
「――本当に貴方って優しい。優しすぎるのかも……」
遥さんが優しくそっと肩に触れる。優しい気遣いがとても沁みる。
「ありがとう遥さん。そこまで気にしてないつもりだったけど、なんか気持ちが楽になったかも」
俺の言葉にほっとした様子の遥さん。
顎に手を当て、なにやら妙に険しい顔で頷く。
「蒼真くん! その、一緒に、お風呂……はいらない?」
突然の提案に頭が真っ白になる。何をおっしゃっているんだ、このお嬢様……。
「も、もちろん水着を着ての話よ!――ここの大浴場はちょっとしたスパリゾートみたいだからきっと楽しいわ!」
「ああ、なるほど……。でも俺、水着なんて持ってきてないですよ?」
「新品があるのよ。誘おうと思って買っておいたの。でも、やっぱり恥ずかしいからどうしようって思ってたけど……いや?」
ここで見せる必殺の上目遣い。これに逆らえる男なんているだろうか……。
一瞬羽依と真桜の顔がちらつくが、水着を着てなら浮気じゃないよな……?
「じゃあ……お言葉に甘えて……」
俺の言葉に遥さんは小さくガッツポーズ。
その可愛らしい仕草に一瞬めまいがした。
――この人、学校でこういう可愛いところ見せな過ぎじゃないか?
一部ではカルト的な人気の生徒会長だが、やはり「怖い」ってイメージの方が先行している。
こんなの絶対みんな好きになるに決まってる。
……でも、この姿を知っているのは、今のところ俺だけだ。
うちの生徒会長は、こんなにも可愛いんだ――そう胸の奥で誇らしく思った。