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第166話 クリスマスイブ ~傷跡、そして再生~

 十二月二四日、クリスマスイブ。


 買い物から帰ってきた母さんがデレデレと締まらない表情をして俺に寄ってきた。


「蒼真、これ頼まれたものね。――突然だけど今から拓真のところに行ってくるわね。今日は帰らないからイブは彼女と過ごしてね」


「へ? 随分とまたいきなり……もしかして変に気を使ってない? 体は大丈夫なの?」


「うん、体は大丈夫よ! せっかく自由になったんだもの。いつまでもゴロゴロしてられないわ」


 あれだけの目に合っていたというのに……。

 母さんの芯の強さに鼻の奥がツンとなる。

 父さんはきっとこういうところに惹かれたのかな。


 これでメシマズじゃなければなあ……。


「昨日蒼真がバイトに行ってる間に色々拓真と話をしてね。――全部しゃべっちゃった。すっきりしたけど、拓真も会って話したいことがあるみたい。だから、ね」


 乙女な雰囲気の母さんだけど、父さんの話したいことに一抹の不安を覚える。俺の実子かどうかの話だったらどうしよう……。


 ――まあこればかりは二人の間の問題だ。俺が口出ししても仕方ない。あとはなるようになるだけだ。少なくとも以前より悪くなることはもうないはずだ。


「わかった。気をつけてね。――あ、お金ある? いくらか渡しておこうか?」


 母さんは申し訳無さそうに手を出した。素直に頼ってくれることが俺はとても嬉しかった。

 ――もう二度と一人で抱えないで欲しい。


 余裕があるわけじゃないけど、懐が寂しくないよう五万円渡した。


「蒼真がバイトして稼いだお金だと思うと勿体なくて使えないね……でも、ありがとう。ちゃんと返すからね!」


「いいって。そのお金はあげるから。気を付けて行ってきてね」


 さあどうなることやら。まあ、ここからは二人の問題だ。あとはなるようになる……か。



 母さんを駅まで見送った後、みんなへのプレゼントを持ってお店に向かった。

 今日はキッチン雪代フルメンバーでのスタンバイ。みんなでサンタコスプレをする予定だ。

 なんて素敵なサプライズなんだろう。


 まかないタイムにクリスマスパーティーの予定だが、メンバーはまだ俺と雪代親子のみ。あとから二人来る予定だ。


 美咲さんは忙しそうにチキンレッグやビーフシチューなど、パーティー料理を準備してくれていた。

 料理から立ち上る美味そうな香りに期待が跳ね上がる。今日は絶対楽しい一日になるはずだ。


「美咲さん、今日、母さんが父さんに会いに行きました。美咲さんにお礼を言って欲しいとも。母さんに代わって、本当にありがとうございました」


 深々と頭を下げる俺に美咲さんは顔をほころばせる。


「へえ! お父さんはまだお母さんにまだ気があるって話言ってたよね! ――なんかさ、雰囲気良さそうだね!」


「そう思いたいですね~」


 話を聞いていた羽依が俺にしがみついてきた。でもその表情は笑顔とは程遠い。俺なんかしちゃった……?


「蒼真、お母さんと随分楽しそうな冒険してきたんだね。もしかして何かあったりした?」


 鋭すぎて嫌になる……見透かそうとする羽依の眼差しに俺は――。


「なにもないって。ねえ美咲さん」


 とりあえず美咲さんに丸投げした。


 一瞬険しい表情を俺に向けるがすぐに笑顔を見せる。


「羽依、蒼真は女の扱いが上手になったね。なんてね!」


 みるみる顔が赤くなる羽依。美咲さんは舌を出して厨房に向かう。

 くう……これが大人のやり方なのか……。


 それからしばらくは羽依の機嫌をとることに必死だった。


 ちょっと遅れてから真桜とりっちゃんがやってきた。


「メリークリスマス! 途中で真桜ちゃんと合流したけど最初誰だか分からなかったよ! 髪、随分切ったんだね~。色も綺麗! 前も素敵だったけど、今は芸能人みたい!」


「お久しぶりでしたからね。りっちゃんもお元気そうでなによりです。ちょっと冒険しちゃいました」


 恥ずかしそうに真桜が言う。

 厨房から美咲さんがやってきた。


「真桜ちゃん! 話は羽依から聞いてたけど、随分とイメージが変わったね。すごく似合って可愛いよ!」


「美咲さんにそう言ってもらえるのすっごく嬉しいです!」


 真桜が照れつつもとても嬉しそうにする。

 彼女のイメチェンは大成功のようだ。新学期のみんなの反応が今から楽しみだな。

 

「真桜、りっちゃん。メリークリスマス。じゃあ早速だけどプレゼント渡しちゃうね。まずは美咲さんとりっちゃんにはお酒! 俺じゃ買えないから母さんに買ってもらったんだ」


 二人ともお酒大好きだからな。俺のプレゼントはとても喜んでくれた。


「真桜、メリークリスマス。後で開けてね」


「ありがとう、なんだろう。楽しみにしてるわね」


 そう言って真桜は喜んでプレゼントのリボンをそっと撫でた。丁寧にバッグに仕舞う姿に彼女の気持ちが伝わってきた。


「羽依、いつもありがとう。メリークリスマス!」


「んふ、蒼真いっぱい悩んでたものね。楽しみだなあ~! 」


 羽依はプレゼントをぎゅっと胸に抱いた。彼女らしい反応に思わず顔がにやけてしまった。

 ほんとに可愛いなって何度も思ってしまうのは、きっと日々進化し続けているからなんだろうな。 


「そういや今晩どうするの? 蒼真のお母さんいないならアパートに行く?」


 羽依の言葉に美咲さんがすぐに反応する。


「寂しいりっちゃんのために、お店が終わったらこの酒いただこうかね! 若い子同士で好きに遊んできな!」


「え? りっちゃんの旦那さんはまた仕事?」


 りっちゃんは悲しそうに頷いた。


「シリコンバレーのフォーラムに行ってるの……寂しいから美咲さんに構ってもらうの……」


「それはお気の毒です……。じゃあ俺たちはアパートに行こうか」


 酔っ払い二人の相手はさすがに遠慮したかった。


 羽依と真桜もニコッと笑って俺の両腕にしがみつく。


「蒼真、忘れられない夜にしようね」


「今のうちにいっぱい栄養とっておきなさいね」


「あ、はい……」


 その後女子四人がサンタコスプレをしてきた。

 羽依と真桜はお揃いのチューブワンピース。


 羽依の愛らしさがよく引き出されている。柔らかそうな胸元がとっても魅力だ。


 真桜のスラッとした脚線美はとてもセクシーで、ビジュアルが完璧だ。


 二人とも可愛すぎてほんと困る。

 今日来たお客さん幸せすぎるだろ。


 美咲さんとりっちゃんは少しアダルトな雰囲気だ。

 背中と胸元がぱっくりと開いたツーピースのサンタコス。

 すらっと長身美人のりっちゃん。へそ出しなのがとてもセクシーで可愛らしい。


 なにげに美咲さんもへそ出しだけど、腹筋すごいな! 今でもめっちゃ鍛えてるんだな。 


「あっ……」


 思わず声が出た。

 胸元に痣が残っていたのを見つけた。

 ……だから羽依は何かあったのかと疑ったのか。


 って、いくらなんでも俺が美咲さんの胸を傷つけるような真似はしないだろう……。


 俺の漏れ出た声に気づいた美咲さん。

 軽く目配せをして手招きをする。


 みんなには二人で話があると伝え、美咲さんの部屋に向かった。


「ったく、なんて顔してるんだ」


「だってその跡……美咲さん……ごべんなさい……」


「ああ泣くな!こういうのは後から出るんだよ。ちょっとこの服は不用心だったかもねえ……」


「あんな事に巻き込んじゃって……本当に申し訳なくて……」


 美咲さんの綺麗な体に傷が残ってしまったことに激しく動揺した。


「ったく……そこまで傷になってないよ。ほら、よく見てみな」


 そう言ってサンタ服の上をがばっと脱ぐ美咲さん。

 彼女の体はストイックなまでに鍛えられている。そして魅力の象徴であるその豊かな胸には痣が浮かんでいた。


「どうだい、そこまででもないだろう?」


「いや……この跡、消えれば良いですけど……」


 内出血をしているのがよく分かる。

 あの時は暗い車内だったから分からなかったのか。大丈夫だと思ったのに……。

 時間がたてば治るだろうか……。

 ――俺が招いた災厄だ。


「ああ、ちょっと想像と違ったな……。そこまで真剣にじーっと観察されるとは思わなかった」


 ふと見上げると、顔を真っ赤にした美咲さんと目が合った。


「へ? あ、いやいや! 恥ずかしい! 早くしまってくださいー!」


 何を俺は真面目に観察してるんだ。

 美咲さんは可笑しそうにけらけらと笑う。


「蒼真らしいね。私が傷ついて落ち込む気持ちは分かるけど、蒼真のせいじゃないんだからさ」


 そう言って俺の頭を抱え胸に抱き寄せる。

 ああ。このふかふかの感触はやっぱり幸せ……。

 すぐ下に羽依と真桜がいるっていうのになんで俺は抗えないんだ……。


 美咲さんの甘い香りが俺の暗い気持ちを吹き飛ばす。

 ――女の人の胸ってほんとすごいって思う。

 

「これでもう気にすんのはお終いにしときな」


「はい……。もっと強くなりたい。みんなを守れるように……」


「そうだね。――蒼真、あんたはもっと強くなる。この先が楽しみだよ」


 みさきさんの期待には応えたい。

 もう絶対だれも傷つけさせない。

 もっと強くならないとだめだ。


 ――階下からうっすらと楽しげな笑い声が漏れる。

 さあ、気持ちを切り替えて楽しまないとな。


「美咲さん、俺の顔、変じゃないですか?」


「どれどれ、ちょっと目が赤いけど……うん、良い男だ! 」


 そう言って俺の頬にキスをする。


「あ、口紅ついちゃった。このまま降りたらどうなるかな~」


 ニヤニヤと質の悪い笑顔を浮かべる美咲さん。


「まじ勘弁してくださいよ。――でも、消すのもったいないな」


 俺の言葉に美咲さんが笑いながらティッシュで頬を拭く。


「あは、蒼真は可愛い事いうね。じゃあ次は目立たないところにキスするか」


 え……どこにキスされるんだろう……。

 そんな美咲さんの冗談に翻弄されつつ、みんなと合流した。


 羽依が小走りに俺のもとに来て腕にぐっとしがみつく。


「蒼真、またお母さんと浮気してたでしょ。刺すよ?」


「またってなに!? してないって!」


 ……してないよな?


 朗らかな笑顔で物騒なことを言う俺の彼女はとても可愛らしい。

 目を白黒させる俺にシュッシュッと刺す仕草をする羽依。

 俺のデッドエンドが脳裏に浮かぶから勘弁してください……。


 クリスマスパーティーはみんなの笑顔が溢れていた。

 今日はいい接客が出来そうだな。

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