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第157話 素直な羽依

 十二月二週目の日曜日。

 昨日は久しぶりに真桜と二人きりの土曜日だった。

 一夜明け、ふと思い返すとなんとも本能に忠実な一日だったと深く反省する。


 やはりあんなに可愛い子たちと付き合っていたらそうなるよな……。

 二人はそれぞれ違った魅力を持っていて、俺は翻弄されっぱなしだ。


 羽依は自由奔放な感じでスキンシップも多めだけど行為そのものには執着がなさそう。少し幼さが残っている感じがアンバランスだと思う。


 真桜は何と言うか、今までそういう部分を見せなかった分ギャップがすごい。

 まだ二回目なのに、持ち前の向学心を遺憾なく発揮してくれた。さすが学年1位は伊達じゃない……のか?

 昼は淑女で夜は娼婦なんて言葉を聞いたことがあるが、まさにその典型だと思う。


 今日は羽依とデートだけど、昨日の話をしたらどういう反応をするだろうか。


 この関係は隠し事はご法度らしい。というのも、俺と真桜もしくは羽依の話に整合性がでないと途端に信用が崩れてしまう。そうなったらこの関係はおしまいだ。

 なので、包み隠さず話そう。――ということに決まったらしい。


 ……まあ俺がいない時に決まったのは毎度のことだけど。

 誰の提案だかも容易に想像はできるが、一理あるとも思えた。

 みんなの心が少しでも穏やかになるならその方が良い。 


 昼前にいつものように玄関から鍵を回す音が聞こえる。


「蒼真!」


 そしてまたいつものようにタタタっと小走りにやってきて俺に抱きついてくる。

 今日の服装は、アイボリーのポンチョコート。その下には淡いグレージュのショートニットに、肩が大胆に開いたオフショルデザイン。下はタイトめな黒のニットミニスカート。しばらく前に着ていた服だ。もっとゆっくり見たかったけど、その日は喧嘩別れしたんだった。


「羽依、その服やっぱりすごく可愛いよ」


「んふ、この前はゆっくり見せられなかったからね~。志保さんが是非私に来て欲しいってくれたんだから間違いないよね! ホントセンス良いな~って思うの」


「うん! めっちゃ似合ってるし俺好み。ただでさえ可愛い羽依がさらに凄みが増したね」


 羽依は嬉しそうに俺の頬にキスをした。


「蒼真に可愛いって言われるの、やっぱり嬉しいな~。褒め方も上手になったよね。モテ男な感じだよ!」


「そっかな? わかんないや。――すぐお昼にする? 今日は野菜炒めな気分だけど」


「いいね! でも、野菜炒めな気分ってことは昨日の真桜のお昼はお肉だったとか?」


 羽依の何気ない問いだけど、昨日のことがすぐバレるあたり彼女に嘘は絶対つけないことを再認識する。


「鋭すぎない? 昨日はステーキ出してくれたんだ。だから当分肉メインはちょっと……」


 羽依はちょっと口をとがらせた。


「すっごいご馳走だね……真桜ならきっと美味しく作るだろうね。良いなあ~。私もまた土曜日に行こうかな」


「うん、行こうよ! 羽依は護身術をもうちょっと覚えたら無敵になりそうだし」


 俺の言葉にニヤーっとする羽依。途端にシャドーボクシングを始めるのは最近のマイブームのようだ。

 相変わらずキレッキレな動きをする運動神経抜群な俺の彼女。


「んふ、私が強くなったら弱点なくなっちゃうよ? 究極体を目指そうかな!」


「間違いなく究極体だね。人類史でも類を見ない成功例だと思うよ」


 お世辞でもなんでもない本心からの言葉だ。ちょっと怖いぐらいだと思う。


「それはそれで、可愛さに欠けるかもね……やっぱ守ってもらうぐらいが丁度いいのかも」


「ははっ、強くなったってもちろん守るよ。俺はそのさらに上を行くからね!」


「おお、蒼真がなんか格好いい……。最近さ、前よりも自分に自信あるようにも見えるし、イケメン度がどんどん増してるよね。やっぱ好きだって思うし、心配でもあるんだよね……」


 切なくも可愛らしい表情で俺を見つめてくる羽依。

 その表情はずるすぎる。俺はたまらず唇を重ねた。しっとりとした感触と羽依の甘酸っぱい香りが鼻腔をくすぐる。


 なんでいつもこんなにいい匂いなんだろう。この子の事をホント好きだなって実感するんだよな……。


「お昼も食べたいけど……蒼真、ちょっとだけベッドでごろってしない? 昨日の話も聞きたいし」


「うん、良いよ。じゃあこっちおいで……」


 二人でベッドに横になる。

 横向きに向き合っていると必然的に羽依しか見えない。

 じっと俺を見つめるその表情はまるで精巧な工芸品のようで、美しくも儚そうに見える。

 肩をそっと手で触れるとほんのり冷たかった。


「寒くない? 布団かけようか」


「ん~服がしわになっちゃうかな……上脱いじゃっても良い?」


「うん、じゃあ俺も……」


 二人で下着姿になり布団に包まる。


「ん~あったか~い! 人肌ってすごいよね。めっちゃ気持ちいい」


「羽依がちょっとひんやりしてて気持ちいいよ。冷え性なのかな。足とかすごく冷たくなってる」


「うん、蒼真、あっためてね」


 ベッドで羽依を温めるように強く抱きしめる。彼女の柔らかさと温もり、甘い匂いが俺を刺激する。


「んむむ。蒼真のそーまが元気だ……昨日真桜と頑張ったんじゃないの?」


「それ言っちゃうの? ――じゃあ昨日の話だね……なんとも説明するのに抵抗感じるけど……」


 羽依の柔らかい素肌に触れながら、昨日の出来事を脚色なく事実を述べていった。次第に羽依の顔は熟したトマトのように真っ赤になり、呼吸も荒くなっていった。

 

「――って感じで帰ったんだ。羽依、ちょっと大丈夫? なんか顔がすごいけど」


「顔がすごいって、なにそれ……蒼真、私もうだめ……耐えられない」


 そう言って俺の手を引き寄せる。

 羽依に触れると――大変なことになっているのがよく分かった。


「蒼真……蒼真が欲しい……私にもいっぱい……して?」


 熱に浮かされたように羽依が求めてくる。

 羽依のその期待には絶対に応えたい。

 俺はできる限りの事をして、羽依が喜ぶように尽くした。

 彼女もしっかりと応えてくれた。


 外が暗くなりかけた頃――。


「おなかすいたー! ステーキたべたーい!」


 布団の中で叫ぶ羽依。

 結局昼ご飯を抜いてしまったからな……。

 他の欲求が満たされた今、ストレートに食欲に傾くのは道理だよな。


「ん~……野菜炒めじゃもう満足できないよね……」


「お肉じゃなきゃやだ」


「じゃあ分かった。とっておきの冷凍ステーキ肉を提供しよう!」


「やったー! 蒼真大好き!」


 欲望に忠実な羽依が可愛すぎたので特大サービスだ。


 二日連続でステーキを食べることになってしまったが、俺も色々消耗したのでまた蓄えないとな。


 本当ならじっくりと時間をかけて解凍したいところだけど、急なのでレンジで解凍する。

 ご飯も冷凍ご飯をさくっと温める。


 彼女がステーキを食べたいと言ってから15分で要望に応えた俺はきっと偉いと思う。


 フライパンの上でジュージュー言ってるステーキに、羽依は目にハートマークを浮かべてるようだ。

 肉の焼ける香ばしい香りに昨日食ったはずの俺も思わず喉を鳴らす。


「蒼真! すごい! これ! くう!」


 もう待ち切れないような感じの羽依。学年二位の彼女の知性はいまや小学生以下まで語彙が消滅し、野生化しているようにも見える。


 ガツガツというオノマトペがぴったりフィットする羽依の食べっぷり。普段ならこんな食べ方しないのに、よっぽどお腹空かせていたんだな。

 嬉しさと同時に申し訳なさも感じてしまった。


 しっかり完食し、満足げな羽依が微笑ましい。

 食後のコーヒーを淹れて俺も一段落する。


「エッチってすごい消耗するね。あんなにお肉食べたいって思ったの初めてかも」


「なんかごめんね。いや、ステーキ肉用意しておいて良かった。最近なかなか安売りしてくれないからね。この前見つけたときに思わずまとめ買いしちゃったけど結果オーライだね」


「んふ、良い主夫になるよ蒼真は!」


「ありがと。嬉しい褒め言葉だね」


 色々満たされて幸福度が半端なく高い。

 羽依も満足そうに俺を見つめる。


「――蒼真ってさ、上手なのかもね。もうね、……痛くないよ」


「ならよかった……羽依が痛そうにしてるのは可愛そうだし。少しでも良くなってきてるなら嬉しいな」


「少しじゃなかったよ……だめ……。――するの好きになっちゃう」


思い出したのか、頬を赤く染める羽依。そんな事言われたら……だめだ、歯止めが効かなくなる。


「俺も一緒だよ。そればっかりになるのはやだなって思ってたけど、このアパートに住んでられるのもあと少し。案外、今のうちだったりして」


「あと三ヶ月かあ……。やっぱり九条さんのところになりそうだよね」


「……うん。はっきりと決めたわけじゃないけど、半年間ぐらいなら頑張ってみようかなって」


 羽依は少し目を伏せたけど、精一杯の笑顔を俺に向けた。


「私は蒼真が決めたことを支持するよ。大丈夫! 蒼真の事は忘れないよ」


「いや……同じクラスだし、忘れられても困るし……」


 俺たちは見つめ合いくすくすと笑いあった。


 その後羽依をお店まで送っていく。

 彼女が手を振り家の中に入ったのを確認して帰路につく。


 二人の素晴らしい彼女との、とても濃い二日間を終えようとしている。

 まだ気持ちの中で色々整理がつかない部分も確かにある。

 でも、彼女たちは自分の中で折り合いをつけているようだった。


 会った時に全力で愛する。それが彼女たちの求めていることと俺が出来ること。

 今回はうまくできた――そう信じたかった。

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