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第154話 冬休みの計画

 十二月の二周目、月曜の昼休み。

 掲示板の前には人だかりができていた。俺も人の肩越しに目を凝らす。期末テストの結果発表だ。


 1位 結城真桜

 2位 雪代羽依

 3位 高峰隼


 9位 藤崎蒼真


 ――あった。俺の名前。しかも一桁!

 思わずガッツポーズした俺に、羽依がハイタッチを求めてくる。

 仲良くハイタッチ!


「やったね蒼真! 中間テストのご褒美も結局流れちゃってたし、後で何か考えておこうね!」


「さすがに冬に水着になるのはちょっとね。何が良いかな~」


 以前よりぐっと進展した二人の関係だ。

 そんな二人にふさわしいのは一体どんなご褒美だろう。

 もちろん羽依へのご褒美も考えないとな。

 クリスマスも近いし、そこで何かするのも有りかもな。


 後ろで隼と真桜が話している。


「隼、確実に順位上げてきてるわね。それにしても……部活頑張っているのにその成績って、貴方無理してない?」


「ふふん、俺の体力なめんなよ! それに加えて優秀なカテキョのおかげだな。あー、今度姉さん講師にして勉強会するのも有りかもな」


 耳ざとく羽依が反応する。


「隼くん、それいいね! 久々に集まって勉強お食事会!」


「だったらクリスマス勉強会とか良いかもね。隼の部屋で」


 俺も便乗してみる。隼はすぐにニヤッと笑顔を浮かべた。


「オッケー! って言いたいけど一応姉さんに聞いてみないとな。まあ許可でると思うから、その流れで計画しとくか!」


 冬休みも楽しいイベントが起こりそうな予感に、思わず頬が緩んだ。


 昼休み、LINEの着信が入る。


 浅見「お久しぶりです、浅見です。急にごめんなさい。元気にしてるかしら。バイトの方はまだ悩んでる?」


 浅見さんからのLINEだ。あの日会って以来連絡は入れたことなかったな。返事をしてなかったからしびれを切らしたかな……。


 蒼真「お久しぶりです、すみません返事が遅れて。未だ悩み中です」


 浅見「ゆっくり考えてって言ったのはこっちだからね。問題ないわ。ただ、バイトを受けるのにもゼロからでは大変よね。冬休みに短期集中講習を受けてみない? もちろん講習を受けてからでもバイトを断ってもいいわよ」


 蒼真「座学と実技でしたっけ。ためになりそうな内容だったんで興味はあるんですけど、期間はどれぐらいですか?」


 浅見「今月の二十六日から三十日までの五日間で、場所は千葉にある九条家の研修センターよ」


 蒼真「わかりました。検討しますんで、返事はいつまでに必要ですか」


 浅見「講師の方の手配が必要だから早めだと助かるわ。ごめんね、急な話で。年末の貴重な時間をもらうんだから修了報酬も前に言ったものより盛ってるわよ。金二十万円也」


 蒼真「いい話すぎて逆に怪しいですよ! では今晩また連絡します」


 ――ふう、いい人なんだけど、やっぱり緊張するよな……。

 それにしても、報酬の破格さがエグいよな……。

 今、手元に二十万あったら、自分でアパート更新できるかもしれない?

 まあどのみち家賃で詰まるか……。

 収入多すぎたら税金がどうとかってのもあったよな。その辺も一度調べたほうが良いのかな。



 放課後の帰り道、羽依と並んで帰宅する。

 冬の夕暮れ時、俺たちの影の長さに妙に喜ぶ羽依。


「なんかすっかり冬っぽくなったよね。影が長いのうけるー。あ、蒼真の影が車に轢かれた。デッドエンド……」


「なに縁起でもないこと言ってるの。――隼たちとのクリスマスイベントも楽しみだけど、二人きりでも何かしたいよね」


「そうだね~。シティーホテルに泊まってお酒を飲んで、ただれた夜を過ごすのはどうかな」


「価値観が昭和っぽくて逆に新しいね。でも却下」


「ぶう。――ああ、表参道のイルミネーションは見に行きたいかな~」


「お、良いねそれ! じゃあついでに美味しいものでも食べに行こうか」


「んふ、じゃあそうしよう!」


 見るからにご機嫌な表情を浮かべて俺の腕にしがみつく羽依。

 ――今ならバイトの話もしやすいかな……。


「今日さ、浅見さんってこの前の弁護士の人からLINEきてさ。冬休みにバイトの講習受けないかって」


 みるみるうちに表情がしおしおに萎んでいく。表情の豊かさに、逆に心が傷んでしまう……。


「ああ、蒼真まだバイト決めてないんだよね。――今はどうしたいって思ってる?」


「悩んでるところ。正直言えば破格の条件だからね。ありがたい話と飛びつきたいところだけど、九条先輩と一緒に住むってのは……やっぱりひっかかるところだよね」


 彼女は眉をハの字にして少し悩む様子。


「ん~嫌かどうかで言えばそりゃ嫌だよ。――私が一緒に住むの楽しみにしてたんだし。でも、蒼真なら九条さんと一緒でも仕事と割り切れるでしょ? 私と真桜を裏切ることなんて蒼真にはできないもん」


 真っ直ぐな目で俺を見つめる羽依。

 本当に疑ってないんだな……。

 彼女からの厚い信頼をひしひしと感じる。


「そうだね。前向きになれない一番の理由は“疑われることを怖がっていた”事だね。でも、羽依たちを信用してないとも取れちゃうね。ごめん……」


 俺の迷いを吹き飛ばしてくれるような明るい笑顔を浮かべた。


「そうだよ。だから蒼真は自分で判断するべき。バイトに行ってもいいけど浮気は許さない。私たちと会う時は全力で愛すること。バイトが終わったらうちに住むこと。約束できる?」


「もちろん! あ、でもバイトはまだ確定するつもりはないんだ。先に講習だけ受けておくと、なんと二十万円の修了報酬だってさ」


「二十万! ――なんだかうまい話すぎて怪しいけど、まあお金持ちの家だからね。そういうのもあるんだろうね! じゃあ行ってらっしゃい!」


 ――羽依って物わかりがこんなに良かったっけ。

 俺が思うよりも羽依の心は逞しく成長してるのかもな。


 連絡は早いほうが良いだろう。俺は速やかに承諾のLINEを送っておいた。

 冬休みがまた忙しくなるな。

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