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第151話 九条邸にご招待

 生徒会長選挙が終わり、真桜は九条先輩の要請を受け、生徒会副会長の職についた。

 彼女の髪色の変化はかなりのインパクトがあったようだ。色んな憶測が飛び交い、また、一部の女子の間に髪染めブームが発生したりもした。


 あれから数週間。予想していた通り生徒会に入ってからの真桜は多忙になり、俺たちと過ごす時間がなかなか取れずにいた。


 そんな十一月の祭日、勤労感謝の日。

 今日は生徒会長、九条遥さんの家に招待された。

 最初はバイトの件で連絡を入れたのだけど、一度来て欲しいと言う話だ。


 羽依にも声をかけてみたが「一人でどうぞ」と素っ気ない返事。今日は久しぶりに真桜と買い物に行くらしく、やたらテンションが高かった。

 

 マップを見ながら九条先輩の家を探す。

 俺の住んでるアパートから自転車で10分程度だ。わりと真桜の家と近いな。

 手土産に自家製プリンを持ってきたけど、セレブな彼女のお口に合うだろうか……。


「ここかな、って、でかい家だな……」


 その家はモダンな造りで、高い塀に囲まれていた。

 セキュリティーは厳重なようだ。


 門には取っ手らしきものがない。威圧感がとてつもない。これが九条邸か……。


 ドアホンを鳴らすと、「蒼真くん、いらっしゃい。今、門を開けるわね」との声が。


 電動で横にスライドしていく重厚な門。

 俺が入ると自動で閉まっていった。

 あれ、俺、もう出られなくね?


 庭を眺めると、この時期としてはあり得ないほど青々とした芝生。


「これは……ケンタッキーブルーグラス……」


「ふふ、さすがね蒼真くん」


 背後からの声に振り返ると、麦わら帽子を被った農作業中のお手伝いさん。ではなく、九条先輩本人が現れた。


「九条先輩、こんにちは。今日はご招待ありがとうございます。――その格好、庭の手入れ中でしたか」


 柔らかい笑顔で微笑む九条先輩。


「ええ、庭いじるの好きなの。なに、その顔。意外だったかしら?」


「めっちゃ意外ですよ! そういうのに縁のない人だと思ってたし。――これ、俺が作ったプリンです。お口に合えば良いんですけど」


 そう言ってプリンを手渡したところ、ちょっと驚いた顔をしている。


「自家製プリン……蒼真くん、器用なんだね。そういえば料理も上手って話を浅見さんから聞いてるわ」


「ああ、うちに来た時にオムライス食べてもらったんです。気に入ってくれたみたいですね」


「いいなあ、浅見さん……。ねえ、今日は天気もいいし、ウッドデッキでお茶にしましょう。持ってきてくれたプリン、さっそくいただくわ」


 そう言って俺をウッドデッキへ案内してくれた。


 綺麗な芝を眺めながらのティータイム。ちょっと贅沢だな。


 先ほどの農作業姿から、お嬢様らしい清楚な格好に着替えた九条先輩。

 白いブラウスの上に、黒地に細かいチェックの入ったジャンパースカートを重ねていた。丸襟のブラウスが清楚さを引き立て、クラシカルな装いは彼女の気品と驚くほどよく似合っている。

 そんな彼女が高級感あふれるティーセットを持って現れた。

 ――絵になるなって思った。


「おまたせ。このプリン、本格的で美味しそうね」


「わりと評判いいんですよ。衛生面も気をつけてるけど、自家製苦手だったらすみません」


 先輩はくすっと笑う。


「そんなに神経質に見えるのかしら……。大丈夫よ。いただきます」


 そう言って優雅な手つきでスプーンに掬い口に運ぶ。

 その瞬間、九条先輩の三白眼が見開き、四白眼となる。

 美味しい顔のリアクションがとても可愛らしかった。


「すごくキメが細かいのね……何か一工夫あるわね。」


「さすがはお嬢様、よくわかりましたね。手間をちょっとかけたのと、あとは生クリームです」


 九条先輩は感心したように頷いた。


「蒼真くんの人柄がでてるわね。とても美味しいわ。ありがとう」


「喜んでもらえて嬉しいです。それよりここの芝、ほんと見事ですね……西洋芝は病害とか大変で育てるの難しいのに」


「ふふ、そう言ってもらえると嬉しいわ。分かる人には分かるのね。――夏祭りの時に見せたいって言ってたのはこの庭のことなの。“芝刈りそーちゃん”ならきっと気にいるかなって」


 九条先輩は茶目っ気たっぷりな笑顔で俺の昔のあだ名を言った。


「そのあだ名聞くと、先輩ってやっぱり俺と同じ中学なんだなって気がしますね」


「そうよ、私のこと知らないほうがおかしいんだから」


 今度は少しふてくされた表情になった。

 ――こんなに表情豊かな人だったんだ。


 初めて会った時はとても怖かったし、『見せたいものがある』って言われた時は何かヤバいものを想像していたっけ……。


 みんなから恐れられる理由は簡単で、あの三白眼の鋭い目力。宝塚の男役みたいな長身と迫力に加えて、今のような女性的な柔らかさまで持ち合わせている。

 怖いけど……やっぱり魅力的な人だ。


「知らなかったことは本当に申し訳ないです。っていうか、俺、正直言えば真桜の事だって知らなかったし」


 目を見開いて驚く九条先輩。


「えっ! そうなの? じゃあ、高校で同じクラスになってから仲良くなって……でも、雪代さんと先に付き合ったと……なるほど」


 妙に納得した様子の先輩。だんだんニヤニヤしてきた。

 おっと……ちょっと怖いぞ。


「――結城さんってほら、すごく綺麗だし、性格だって凶暴なところを除けば悪くはないし。それなのに雪代さんと付き合ったから不思議だなって思ってたの。それってつまり結城さんの事知らなかったからなんだ。ふふ、あはは。可笑しい……あはは……」


 うーん……。妙な誤解があるのかな……。

 でも、解釈そのものは間違ってなさそうだ。

 真桜との確執は健在なようだった。


「まあそういうわけなんですよ。俺、中学では目立たなかったし、友達もあまり仲良い人いなかったし。学校生活に興味もたないで芝いじりと料理ばかりしていたし」


 自分で言ってると情けなく感じるな……。

 今までは家の事情を理由にしていたけど、ただの言い訳だよなって最近は思ってる。


「いい趣味じゃない。何の問題もないわ。友達だって厳選するべきよ。くだらない人間しか周りにいないんだったら無理に付き合う必要なんてないわ」


 あっさりと言い切り優雅に紅茶を嗜む九条先輩。

 冷徹な部分を垣間見ると、やっぱり甘くない人だと再認識する。でも、今はその怖さを楽しめている自分もいた。


 いつの間にか空はどんよりと曇り空に。

 日が陰り、冷たい風が身にしみる。


「少し風が出てきたわね。家に入りましょうか。――うちの子も紹介しないとね」


「それですよ! めっちゃ楽しみにしてたんですから!」


 九条先輩の後に続き、邸内へ。

 クロちゃんに会えると思うと、わくわくが止まらない。

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