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告られ彼女の守り方 ~偽装から始まる、距離感ゼロの恋物語~  作者: 鶴時舞
6章 夏休み後半

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第150話 ピロートーク

 ――今、俺を真ん中にして二人に囲まれている。

 一生忘れられない思い出が、また一つできた。


「真桜、どうだった?」


 つぶやくような羽依の問いに、真桜は布団に潜った。


「悪く……なかった」


 震えるような声が耳に届く。いつもの落ち着いた声色じゃない。なんとも可愛らしい。


「んふ、準備万端にしておいたからね」


「羽依の悪戯が……あんな事されたら誰だって……」


 掠れそうな声が、羽依の責めっぷりを物語っていた。


「え……羽依、真桜に何してたの?」


「ん~、内緒。でも、真桜も蒼真にしてたよね。この前家に泊まった時」


「――羽依、あの時起きてたの!?」


 急に大きな声を出す真桜に、びくっとする。


「真桜ってホント、むっつりだよね~」


 にやにやと笑う羽依がとてもいやらしい。


「いやああああ! ごめんなさい……。お願い羽依、蒼真には黙ってて!」


 三人で泊まった日って……。

 ああ、そういや朝起きたら何も履いてなかったな……。

 

 ――どうやらその犯人が、布団の中に顔を隠してジタバタもがいている。


 なんとなく想像ついたけど、それって……。

 ゆっくり進みたいって言ってた真桜だけど、すでに一足飛びに段階を超えていたってことか。

 ――このむっつりさんめ。



 三人で並んで寝ていると、真ん中の俺はどっちに向いて良いのか分からない。

 なので上を向いているが、できれば右下で寝たいところだ。その方が胃に優しいらしいし。


「私みたいな初体験した人ってどれぐらいいるのかしらね……」


 ぽつりとつぶやく真桜の言葉に少し思いふける。


「……極めて稀……と言って良いんじゃないかな」


 親友と手を繋ぎながら親友の彼氏と……よくある話ではないはずだ。


「特別感があるよね。でも、蒼真と真桜だけじゃ先に進まなかったでしょ」


「だって……貴方の彼氏なのよ。後ろめたさしかないわよ……」


 ――割り切れるはずなんてないんだよな。俺だってそうだ。背徳感を楽しめるほど恋愛慣れしているはずもない。


「……私ね、蒼真と真桜が二人きりでキスしたって聞いた時、なんで? って思ったんだ」


 羽依の言葉に途端に心がざわついた。分かっていたけど、本人から言われるとかなり辛い。


 でも、羽依はくすっと笑う。


「なんでキスだけで終わっちゃったのかなって。私が蒼真に抱かれたんだから、真桜もそうなるかなって思ったんだ。けど、私に遠慮しちゃったんだよね」


「そりゃ……ね……」


「真桜が蒼真に気があるって感じたのって、本当言えば……私たちが付き合う前からだったんだ……」


 さらっと、とんでもないことを言う。

 真桜は入学当初から俺に優しかったけど、それは同じ中学のよしみだと思ってた。恋愛感情なんて想像もしてなかった。


「蒼真が私にきちんと言葉にして付き合いたいって言ってくれて、嬉しかったし安心したんだ。もう蒼真は私のものだって」


 あの日の告白を思い出す。うっかり噛んでしまって、日を改めて言い直したんだ。羽依は泣いて喜んでたっけ。


「でも、それからも蒼真と真桜は仲良くなって……。それで、ちょっと考えちゃったんだ。蒼真と真桜がお互い好きになったら……道場で稽古しながらイチャイチャしたらって……」


 羽依は俺の手をぎゅっと握る。離さないって意思を見せるようだ。

 彼女にそんな心配させてしまっていたのを悔いるべきなのか……。


「――ちょっと興奮しちゃったんだ」


「……え?」


「自分でも変だって思うの。でも、誰でもいいわけじゃない! 大好きな真桜だから許せるの。ずっと三人でいられるのなら、それはもう歓迎するべきじゃないのかなって! 三人で愛し合うって私にとって理想的すぎたし、私の見てる前で真桜が初めてを蒼真に奪われたの! もうめっちゃ興奮しちゃった!」


 興奮しながら早口でまくしたてる羽依。

 ――俺の彼女の性癖、ちょっとクセが強すぎたみたい……。


 呼吸が荒くなった羽依が、少し怖かった。

 やがて落ち着くと、また静かに話し出す。


「――真桜を他の誰かに取られるのが嫌なの。ずっと三人で居たいの。それってすごく我儘なことだって分かってる。でも、この関係に誰かを入れたくないの! もうほかの男とか絶対嫌なの!」


 無理もないと思った。入学してから、いや……それ以前から、さんざん嫌な思いをしてきたんだ。世の男すべてに嫌悪感を抱いてもなにも不思議じゃなかった。


「羽依、大丈夫よ。私も蒼真と関係を持っちゃったし。今さら他の男に見向きすることもないわ。それが貴方の望んでいたことっていうのも分かってるつもりだった」


「――蒼真が真桜に惹かれるのもすごく分かる。優しくて、強くて、私も真桜の事、やっぱり……大好きだし……もっと三人で愛し合いたい」


「羽依……」


 きっと理解されないだろう羽依の言葉。でも、俺には沁みるように伝わった。

 それは執着じゃなく、必死に守ろうとする愛情の形だと俺には思えた。俺のことが好きで、真桜も好き。他に誰もいらない。求めていることはとてもシンプルだ。

 それが薄氷の上を歩くようで、ひとたび踏み抜けば全てが壊れる危うさを孕んでいても――これ以外の選択肢はないように思えた。


「ふふ、羽依がそんなにも正直になるなら、私ももっと素直にならないとね」


 真桜が俺の方を向き、両手で包み込むように手を握ってきた。


「私って真面目に見えるでしょ。常にお堅い子。教師や親の言いつけをしっかり守るし、悪い事は絶対許さない。ステレオタイプの優等生」


「まあ、言い方はアレだけど、そうだね……異論はないかな」


「でもね、実際はこんな感じ。髪だって染めたいしエッチなことにも興味あるし」


 そう言って握る俺の手を自分の胸に当てる真桜。ほんのり汗ばみ、しっとりとした感触がなんとも言えず……。


「私は中学の時の蒼真をよく思い出すの。あの泣き顔が好きだった。今も道場で蒼真を指導してる時がとても幸せなの。大好きな蒼真を壊したくなるの。――羽依の性癖も相当だけど、私もかなり癖が強いわね」


 二人はくすくす笑い合う。

 ……まあ濃い二人だとは思ってたけど、自分の性癖を赤裸々に語るあたり、もう隠すつもりがないんだな。なるほど。


「蒼真は? なんかそういう性癖みたいなのないの?」


 私がバラしたんだから貴方もバラしなさいって圧が怖すぎる。けど、俺に性癖なんて何があるだろうか……。


「ん~……足かな……」


 羽依と真桜が同時にため息を吐く。


「つまんない……」

「ほんと。なんなのそれ……」


 辛辣な二人の言葉に絶句する。


「いやいやちょっとまて! 特殊性癖がないとだめなわけ? 」


「ん~、深みがない?」

「自分だけ良い子ちゃんで腹が立つわ」


 散々な言われようだ……。


 でも、正直言えば全く無いこともない。言ってもいいのかな……引かれないかな。


「俺さ、――噛みたいんだよね。あと噛まれたいんだ……引く?」


「ほう、悪くないねえ……」


 なんか評論家みたいな口調の羽依。


「どの程度噛まれたいのかしら。場所は? 力加減は? 血が出るほど?」


 わりと食い気味に質問攻めをする真桜がちょっと怖い。彼女の性癖とシンクロ率は高そうだ。


「噛むのはどこでも良いかな。目立たないほうが良いだろうし、それに血が出るほど噛んだら痛いよね。噛まれる場所は二の腕とか腿とか脇腹とかかな」


「蒼真、なーんか自分をごまかしてるよね。そんなもんじゃないでしょ? もっと自分をさらけだして!」


 羽依、煽りすぎだろ……もう自棄だ!


「……羽依の胸は噛んでみたい。真桜は綺麗な足……」


「うわっ引くわ! この変態!」


 真桜がしかめっ面で俺を罵るが、声は妙に上ずって、なんだか楽しそうに聞こえた。


 布団からすっと長い足を出す真桜。惚れ惚れする美しさだ。

 真桜はくすっと笑い俺を見つめる。


「良いわよ、好きに噛んでも」


「えっ! マジで! いいのっ!? もう嘘って言っても遅いからね!」


 何たる僥倖。言ってみるもんだなと本気で思った。


 真桜の内ももを遠慮なく噛みつく。スラッとした無駄肉のほとんどない足だけど、ほんのり膨らむ肉感がたまらない。真桜の甘い匂いを強く感じる。味もまた何とも言えず……。

 もうちょっと強く噛んでも良いかな。良いよね……。


「……っ」


 噛み跡を見ると、血はでてないが、少しの間、残りそうな感じだ。普通では見えない場所だと思う。多分。


「蒼真、私も噛んでいいよ。ちょっと強くても平気」


 羽依の綺麗な肌を傷つけるなんてこと、普通はできない。でも、羽依の言葉に俺の加虐心が煽られた。

 柔らかな感触に心臓が跳ねる。強く噛んだら絶対壊れる……。でも……。


「んっ……」


 切なく我慢する声に我に返る。羽依の噛み跡もまた少しの間残ってしまいそうだった。

 噛み跡をそっと撫でると、羽依は小さく吐息を漏らした。


「んふ、なんかいいねこれ……。 じゃあ次は私たちの番だね」


「ええ、じゃあ同じ場所を噛んでおこうかな」


 二人は布団に潜り、遠慮なしに噛みついた。


「いだだだだ! ちょおおお! 血! でる!」


 俺の想像をはるかに超える噛みっぷりに本気でびびった。

 でも、ホントは――すっごく嬉しかったりして。


 いやあ、性癖って怖いな……。


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