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第15話 一人の寂しさ

 圧倒的な質量の肉を平らげることができた。感無量だ。前を向くと羽依が苦しそうな顔をしていた。女の子に450gはさすがに厳しかったか。


「うぅ……無理かも……蒼真、ちょっと手伝って……」


 見ると、3分の1程度残ってる。これでも随分頑張ったんだなとは思う。あとは男の意地を見せるのみ!


「おっけー! 任せといて!」


 正直言えば限界が近いけど、本能が残すことを拒絶している。こんな上等の肉、残すなんてありえない!


「ごちそうさまでした!」


 約600gの肉を完食した。やれば出来るじゃないか俺!


「お~! 全部食べられたね! やるじゃないか蒼真くん」


 美咲さんはとても嬉しそうに俺を褒めてくれた。



 食後にコーヒーを飲む。口の中の脂っこさがすっと洗い流されるようだった。


「蒼真くんには感謝しないとね。羽依のピンチを助けてくれたそうじゃないか、怪我とかしてないのかい?」


「いえ、大丈夫です。 喧嘩したわけではないので……」


 嘘は言ってない。よね……?


 正面から争ったわけじゃないから、褒められても居心地が悪くなるだけだ。そんな俺の様子を察した羽依が、フォローをしてくれる。


「蒼真すごかったんだよ~。上級生相手に、お腹に膝入れて『殺して燃やすぞ』って」


 ――羽依さん?


 美咲さんは目を丸くして驚いてる。


「へえ~! やるもんだね! 見た目は大人しそうなのにね。これはびっくりした」


 羽依は自慢げに語っているが、要約されすぎて事実が全く伝わってないの怖すぎる。なんか俺のこと誤解されそうなので否定しておかなきゃ。


 俺は美咲さんに詳細を語った。話を聞き終えた美咲さんは大笑いしてた。


「あっはっは! そりゃ良いね! 影の親衛隊どの! これからも羽依を守っておくれよ!」


 美咲さんはとても楽しそうに話を聞いてくれる。なんかすごく大きくて温かい人だな。お店が大人気なのも頷ける気がした。


「で、二人はもう名前で呼び合う仲なようだけど、付き合ってるのかい?」


 俺と羽依はお互い目を合わせる。なんと答えればいいのやら……。


「付き合ってないの。まだ。」


 羽依が正直に言う。そりゃ、お母さんに嘘はつけないか。でも「まだ」って言葉にうっすらと希望を抱いても良いのかな――。


 美咲さんは俺たちを見て「ふむ」と。


「まあ色々あるんだろうね、うるさいことは言わないけど、一つだけ忠告しておくからね。――避妊だけはちゃんとするんだよ」


 冗談ぽい口調だったが、目には真剣さがあった。

 俺と羽依は見合わせて顔を真っ赤にした。


「いや、俺たちまだそんな」

「うん、わかった……」


 俺がしどろもどろになっているところ、羽依は首肯していた。いや、まだそんな関係じゃないでしょ!?


 ふと時計を見ると、夜8時を回っていた。

「あ、こんなに遅くまで……すみません。そろそろ帰りますね」


「遅いんだから泊まっていけば良いじゃないか、一人暮らしなんだよね?」


 美咲さんが何気ないような感じで言ってくる。羽依もうんうんと頷いてる。


 いやいや、さすがにそれはまずいって。

 ……まずいよな? なんか分からなくなってきた。


「いえ、家が近いから大丈夫ですよ。ごちそういただいてありがとうございました。すっごい美味しかったです!」


「そりゃよかった。気にしないで、うちにはいつでも遊びに来てね。」


 無理に引き止めず、美咲さんは爽やかな笑顔でそう言ってくれた。羽依はちょっと寂しそうな顔を見せていた。


 店の外まで見送ってくれる羽依。俺の右手を両手で包み込む。柔らかく温かいぬくもりに心臓が高鳴った。


「蒼真、本当にありがとう。一緒に居てすっごく楽しかった。」


「俺も楽しかったよ。また明日学校でね!」



 ――楽しかったな、この週末。

 帰宅中、寂しくなった隣が妙に切なかった。


「ただいま」


 一人になった部屋に入る。さっきまで羽依が居たんだよな……。

 一人でいるのは慣れたはずなのに、誰かと一緒に居る温もりを知ってしまうと……。


「いかんいかん、風呂入ろう!」


 わざと声に出して自分を元気づける。そんな自分がちょっと可笑しかった。



 風呂を出て、寝支度も済ませ布団に入る。


 休み中に撮った写真を眺めてみる。スマホの中で、はち切れそうな笑顔の羽依をみて心臓がキュッと締め付けられるような苦しさを感じた。


 ――ぴろぴろぴ~♪


 スマホから着信音が鳴る。羽依からだ。ビデオチャットの許可申請がきてるので承諾する。


 スマホの中で風呂上がりっぽい寝間着姿の羽依が現れた。前開きの薄い水色のパジャマ姿がとっても可愛い。胸の谷間が顕になっていて、どうしても目がそこに行ってしまう。ああもう、ドキドキするなあ……。


「蒼真、今大丈夫?」

「うん、丁度布団に入ったところ」


 俺がそう言うと、羽依はほっとした表情を浮かべた。


「ごめんねいきなり。なんかずっと一緒だったからさ、離れたら寂しく感じちゃって」


「あはは、俺も同じこと考えてたよ」


 羽依は嬉しそうな顔をしてる。それから休み中の色んな話をしていた。会話は尽きることなく、時間が過ぎていった。


 お互い眠気が差してきたところだった。


「蒼真、明日だけど一緒に学校いかない? いつもちょっと早めに行って勉強してるんだ。一緒にどうかなって」


「もちろん! こっちからお願いしたいぐらいだ。羽依先生の授業はわかりやすかったからね」


「そう言ってくれるの嬉しいな。じゃあ7時に蒼真の家に行くね」


「わかった、じゃあおやすみ羽依」


「おやすみ蒼真。また明日ね」


 さあ寝よう、と思ったところに羽依からLINEが届いた。


『お礼の品をプレゼント。可愛い羽依ちゃんを堪能してね♡』


 そんなメッセージの後に写真が数枚送られてきた。さっきのパジャマ姿の自撮りと、昨日のシースルーブラウスの写真が数枚。


 ――脳が完全にショートした。

 ――とりあえずGJスタンプだけ返しておいた。

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