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第142話 志保さんという人

 昼休み、LINEの着信があった。御影先輩からだった。


 用件は生徒会室への呼び出し。できれば羽依も一緒に来て欲しいとのことだったので、一昨日の件だろうな。


「羽依、御影先輩から呼び出しだけど、一緒に行く?」


 羽依は頷き、俺と一緒に生徒会室へ向かう。


 今までに何度か来た生徒会室。真桜が生徒会長になったら、もっと来ることになるのかな。などと思いつつ、ドアをノックして入室すると、御影先輩が俺たちに元気なさげに微笑んだ。


「蒼真くんに羽依ちゃん、ごめんね呼び出して……」


「いえ、大丈夫です。それで用ってのは?」


 御影先輩は俺たちに改まって頭を下げた。


「蒼真くん、ごめんなさい。私が一緒にいたのに羽依ちゃんに危険な目に合わせちゃって……羽依ちゃんも、改めてありがとう。貴方が居なかったら今頃どうなってたことか……」


 そう言って差し出されたお詫びの品。

 FALLOVAの紙袋だから、中身はきっと安くなさそうだ……。


「御影先輩、俺にまで用意することなかったのに……」


「ううん、それは二人が着て初めて意味があるものだからさ。リンクコーデだよ!」


 それまで黙っていた羽依が、御影先輩に勢いよく飛びついた。表情は感極まったようだ。


「志保さん! ありがとう! すっごく嬉しい!」


 びっくりしながらも羽依の頭を撫でる御影先輩。

 二人のやりとりが妙に絵になって――思わず見入ってしまった。


 袋の中身もとても気になる。ハイセンスな先輩のチョイスがどんなものなのか。

 リンクコーデというのが、俺たちには嬉しすぎた。


 落ち着いたところで、俺たちに紅茶を振る舞ってくれる御影先輩。

 その丁寧な淹れ方からは育ちの良さが感じられる。きっと良いところのお嬢様なんだろうな。


 一昨日の話は事件のことしか聞いていなかったので、楽しい出来事を色々聞かせてくれた。


「志保さん英語すごかったんだよ! 外人のおじさん相手に普通にしゃべってるんだもん!」


 興奮気味に羽依がモノマネを交えつつ説明する。

 御影先輩は笑いの沸点が低すぎるので、ずっと笑い続けていた。


「あはは、だめ、苦しい……羽依ちゃん……勘弁して……。――ふう、いや~英語はね、子供の頃にアメリカへ留学してたからね~」


「へえ~、先輩帰国子女だったんですか。なんかカッコいいですね!」


 俺の言葉にちょっと照れつつも、芝居がかったように遠くを見つめる御影先輩。


「格好良くなんてないよ~。まあ、英語できるようになったのは良かったんだけど……日本に帰ってきてからの方が大変だったな……」


「ああ、友達とか作るの大変そうですよね」


「そうなの……中学一年の途中から戻ってきたんだけどね。私も引っ込み思案だからさ、なかなか馴染めなくて……」


 途中からというのは、タイミングとしては最悪だろう。

 すでに出来上がった人間関係の中に入るのは相当勇気が必要だ。


「一人でぽつんとしてるところをね、クラス一の人気者の美樹ちゃんが仲良くしてくれたの。後から知ったんだけど、幼稚園の頃の一番の友だちだったの!」


「おお! なんか良い話ですね。飯野さんとは今もずっと仲良しですもんね」


「うん、ずっと一緒にいたいなって。だから大学も一緒にしたの」


 そう言ってニコッと微笑む御影先輩。飯野さんへの依存度が高そうだなあ。


「そうそう、羽依ちゃん、蒼真くんにあの服着てみせたの?」


 御影先輩のあの服とは、昨日着てきた服のことだろう。


「はい! 蒼真が好きそうな服だったからすぐに見せました!」


 先輩はぱっと花が咲いたように破顔する。その笑みは誰もが虜になるような魅力があった。


「あの組み合わせは羽依ちゃんに絶対似合うと思ったんだ! ちょっとセクシーすぎて私には着る機会なかったけど、二人っきりなら良かったんじゃないかな! ね、蒼真くん!」


「ああ、はい……すごく良かったんですけど、あまり見られてないと言うか……」


 羽依もバツが悪そうに下を向く。


「ふふ、何それ。……あれ、何かあったの?」


 促されるように、羽依は昨日の出来事と今朝のことを簡単に説明した。

 志保さんは目を丸くして驚き、それから少しニヤニヤする。


「ふうん、喧嘩して一日ですぐ仲直りかあ~。なんか良いなあ! やっぱり二人はお似合いなんだね!」


 羨望の眼差しで見られると、当人としてはなんだかむず痒い。

 嬉しいような、落ち着かないような、複雑な気分だ。


 ――そんな他愛ない話で盛り上がっているうちに、あっという間に予鈴が鳴った。

 楽しい時間は本当に一瞬で過ぎる。


「御影先輩、ご馳走様でした。そろそろ戻りますね」


 先輩は残念そうな表情を浮かべる。

 ためらいがちにしつつ、ちらっと羽依を見る。

 一呼吸置いて、真剣な表情で俺に向き合った。


「蒼真くん、よかったらさ……御影先輩って呼び方じゃなくて……名前で呼んでくれたら……嬉しいな」


 別れ際でそんなことを言ってくる御影先輩。

 名前で呼ぶのはもちろんかまわないんだけど、このタイミングでか……。


 恐る恐る隣を見ると、羽依はニコッと笑って頷いた。

 普段は他人に壁を作る羽依が、御影先輩には笑って頷いている。そんな光景を見られたことが、なんだか嬉しかった。


「じゃあ……志保さん。色々ありがとうございました。選挙の方も是非よろしくお願いします」


「うん! 二人とも、私に出来ることなら何でもするよ!」


 あ~、そのワードは……。


「志保さん、なんでもしちゃうんですね? 言質戴きました~」


 羽依はにっこにっこで志保さんの手を取った。

 ちょっと困惑した志保さんが、可愛そうな生贄に見えてしまう。


 さて、この小悪魔さんは一体どんな要求をするんだろうか……。

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