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第139話 志保さんとデート 羽依視点後編

 志保さんが、はっきりと蒼真に一目惚れしたと言ってきた。

 それはある意味、宣戦布告なんだろうか……。


 私は今どんな顔してるんだろう。ちゃんと笑えてるかな……。


 ただ、あまりに無邪気すぎてなんだか憎めない。この人はきっとそういう敵を作らないことを無自覚にできる人なんだろうな。


 ズルいなって思う。自分の不器用さを感じてしまうから……。


「結構本気で蒼真くんにアタックしようと思ったの。でも、羽依ちゃんには勝てっこないから……諦めちゃった……」


 予想外の言葉に戸惑ってしまった。勝てっこないはずないじゃない……。


「え……どうして……志保さんすごく綺麗なのに……」


 私の言葉に笑顔で応えつつも、伏し目がちになる志保さん。


「羽依ちゃんに勝てる子なんて居ないよ。羽依ちゃんが可愛すぎるのもそうだけど、蒼真くんからとても大事にされてるよね。……お似合い過ぎちゃって、私なんかじゃ……」


 ちょっと、いや、かなり驚いた。こんなに綺麗な人でもそういう風に思うんだ……。


 そっか……いくら綺麗だからって、思い通りになんてなるはずないんだよね……。


 だったら私はやっぱり幸せなんだろうな。好きな人と愛し合う事が出来ているから。


 オシャレなカフェを後にすると、空はすっかり黄昏色に染まりはじめていた。

 赤みを帯びた雲が、ゆっくりと暗さに呑まれていく。

 まもなく午後五時――一日の終わりが、そっと近づいてきていた。


「ごちそうさまでした、すっごい美味しかったですね~! さすが志保さんオススメのお店!」


「ちょっと高級感ありすぎるけどね。その分、めっちゃ美味しいの! たまには良いよね」


 そう言って舌をペロッとだす志保さん。可愛すぎて、なんだかズルい!


 FALLOVAのショップに向かう途中の道、少し裏通りを通り抜ける。


「おい! ちょっと止まれ!」 


 その途中で男に声をかけられた。ナンパにしては乱暴な雰囲気だ。

 自分より弱い人を小馬鹿にする嫌な感じ。私が一番嫌いなタイプの人間だ。

 キャップを深く被っているけど……どこかで見た気が……。


「御影に雪代羽依、珍しい組み合わせな気もするけど、まあいいや。こんな路地裏、呑気に歩いてたら危ねえだろ。ちょっと車に乗ってけよ。送ってくからよ」


 そう言って志保さんの腕を捕まえたのは……確か、後藤!?

 文化祭準備の時に私を襲ってきた男だ。学校は退学になったのに、まさかこんなところで鉢合わせるとは……。


「え、やだ! なんで後藤!? ちょっと、離してよ!」


「うるせえよ、暴れたらそのツラ、ボコるぞ?」


 その一言にビクッとして動きが止まった志保さん。殴られるのはモデルとしては最悪の事態になるだろう。


 あと数百メートルでFALLOVAのお店なのに……。


 近くに停めてあるワゴン車からもう一人降りてきた。坊主で入れ墨がびっしり入った男だ。体格もかなり大きい……。


「おいおい、二人ともすっげえ美人じゃねえか! こりゃ今夜は楽しくなるな!」


 男の不穏な言葉に心臓がギュッと縮まるような怖さが込み上げてきた。


「ああ、それに雪代には世話になったからな……俺が退学になったのもそいつのせいだ。――それにだ! うちの親父がそいつんちの店に怒鳴り込んだら、雪代のかあちゃんにボコボコにされたんだよ!」


 (え……? そんな話知らないんだけど……。お母さん何してんのー!?)


「え……ちょっとまて…… お前んちの親父って元力士だよな……。それボコボコにする母ちゃんって、どんな化け物だよ……」


「知らねえよ! 親父はずっと部屋に籠もってブルブルしてるし! つかえねえ……それも全部雪代と……あの藤崎のせいだ……」


 ――今だ。


 二人が油断している隙に、志保さんを掴んでる腕に思いっきり噛みつく。


「ぎゃああああ!」


 握った拳が私を襲ってくる。けど、こんなゆっくりなら全然対応できる……。


 体をぐっと曲げて拳を避ける。刹那、お母さんがこの前やっていたように、顎に掌底をななめ下から突き上げるように当てる。

 後藤は倒れ込んで、顎を押さえてじたばたともがいている。


 もう一人は突然の出来事に対応を戸惑っていた。

 真桜から教わった護身術を活かし、急所攻撃を放った。

 効果はてきめんだ。男は倒れ込んだ。


 志保さんの腕をとり、FALLOVAのお店まで全力疾走した。

 幸い追ってはこなかった……。


 お店の奥から燕さんがやってきたところで、ほっと一息つくことが出来た。心臓はバクバクして、体中から嫌な汗がでてくる。


 一部始終を燕さんに説明した。燕さんが血相を変えて車の停まっていた場所を確認したけど、すでに誰もいなかったようだ。


「――警察呼ぼうか?」


 燕さんの言葉に私は首を振った。

 志保さんの仕事にも響きそうな一件だ。それに被害そのものもほとんど発生してないから、微罪で済まされてしまうだろうし。


 志保さんはまだ震えが止まらないようで、ずっと私にしがみついていた。


「ありがとうね、羽依ちゃん……。でも、そんなに可愛いのに強いって、なんか……無敵だよね」


 いつも守られる立場だった私が志保さんを守ることが出来た。


 すごく怖かったけど……何となく色んなことが吹っ切れた気もした。


「私が誰かを守れるなんて思ってなかったけど……なんとかなっちゃいましたね。ほんと、よかった……」


 一体私は今まで何に怯えていたんだろう。


 んふ、一皮むけたかな。



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