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第133話 二人の先輩との邂逅

 週末の放課後。

 生徒会長立候補者の選挙活動が本格化してきた。

 俺は居残りして、真桜のポスターを各学年の掲示板に貼っていた。

 ちなみに真桜のポスターの写真は俺が撮影したものだ。我ながらとても美人に撮れたと思う。一枚持って帰りたいぐらいだ。


「蒼真くんお疲れ様!」


 鈴のような澄んだ声に振り返ると、御影先輩が立っていた。後ろで手を組んで微笑む姿は、まるで広告のモデルみたいに愛らしい。


「御影先輩、こんにちは。まだ残ってたんですね。生徒会長の仕事ですか?」


「そうなの。引き継ぎの準備とかさ、色々あるんだよね。生徒会長も大変なんだよ~」


 眉をハの字に下げ、口を尖らせる先輩。その表情すら可愛いなんて、美人ってずるいな。


「暇に見える仕事じゃないですね……責任重大だろうし。そういや、御影先輩はなんで生徒会長になったんですか?」


「ん~、カッコよく見えたから? わりと単純な理由かな。燕さんに勧められたのもあったし、周りからも期待されてさ」


 照れたように頬をかく先輩。でも、きっかけなんて案外そんなもんなんだろうな。そういう部分を素直に言ってくれる辺り、御影先輩はポンコツでありつつも、可愛らしくてみんなに愛されてるんだな。


「燕さんもここの生徒会長だったんですよね。あれ? 先輩後輩だった時期ってありました?」


「ううん、ちょうど入れ替わりだね。でも、学校行事で来てくれた時に仲良くなって、それから燕さんのブランドのモデルにスカウトされたりとかね。今思えば人生の転機だったねえ」


「うわっ、なんだかすごい話ですね……」


「昨日さ、夜にLINEで『羽依ちゃんもモデルやれば良いのに』って言ったんだけどね~」


 先日、真桜と一緒に生徒会室へ行った時以来、急速に仲良しになった羽依と先輩。なんでも服の好みとかが似てるとかなんとか。

 そして俺に喜んでその話を語る事が妙に嬉しかった。

 羽依の閉じた世界が、少しでも広がればいいな。


「羽依がモデル、か…。正直、あんまり勧めてほしくないかな。で、なんて言ってました?」


「羽依ちゃん酷いんだよ~『絶対ヤダ!』だって」


 御影先輩はしょんぼりって言葉がぴったり合うような表情をする。映画デビューしたもんだから、やたらと芝居がかるようになったのかな? わりと演技派だったりして。


「まあ、向き不向きでいえば、完全に不向きですよね。人前に出るのだって嫌がるし」


「無理強いするものでもないしね、でもあの可愛さを独り占めできる君は幸せ者だよね~! あ、でも明日は私の羽依ちゃんだけどね!」


 明日の午後から羽依と御影先輩は二人で洋服を見に行くらしい。ついでに御影先輩の家に寄って服を譲ってもらうそうな。


「先輩、羽依をよろしくお願いしますね」


「うん、任された! 帰りもうちのお母さんに車で送ってもらうから安心してね!」


 先輩はにこやかに手を振りつつ下校した。


 でも、羽依がこんな急に誰かと打ち解けるなんて、ちょっと驚きだ。御影先輩のカリスマ性のおかげかな。


 さて、残りのポスターを貼らなきゃ。少し遅くなったけど、先輩との会話は楽しかったから、まあ結果オーライだ。


「蒼真くんは志保さんとも仲が良いのね」


「うわああああああ!」


 いきなり耳元で囁かれて、思わず仰け反った。バランスを崩して転び、尻もち。…痛え…。


「ご、ごめん……大丈夫?」


 申し訳無さそうにする九条先輩。ホントこの人の登場は心臓に悪いな……慣れたようでやっぱり慣れてなかったようだ。


 九条先輩が手を差し伸べてくれるけど、握って良いのかな……握らないのも怖いので握っておこう。


「大丈夫です……すみません」


 握った手は華奢で冷たかった。手の冷たい人は心が温かいらしいけど、先輩はどうなんだろうか。


「蒼真くんの順番がやっと私に回ってきたからね。君は学校で私に声をかけてくれないし」


 なんだか拗ねているようだ……


「いや、先輩に声かけたくても取り巻きの人たちのガードが強烈でしょう」


「そう……あの人達が居なければいいのね……」


「いやいやいやいや! ごめんなさい、そんな事ないです。あれです、言葉間違えました! 原因は俺です。俺が勇気がなかったんです!」


 この人が取り巻きに何かしようものなら逆恨みで大変なことになりそうだ……。これ以上、ヘイトはごめんだ。


 九条先輩は俺の慌てようが可笑しかったのか、くすくすと笑い出した。


「蒼真くん可愛いね。ホント君は見てて飽きないな」


 九条先輩の優しげな微笑みを受けて、ようやくメンタルが落ち着いてきた。先輩こそ怖かったり可愛かったりで、見てて飽きませんよ。なんてことはもちろん言えず。


 ただ、ちょっと聞いてみたい事があったのも確かだ。住み込みバイトの話は九条先輩は一体どう思っているのだろうか。


「先輩、俺の住み込みバイトの話って……知ってるんですよね?」


 九条先輩の表情が一瞬で変わった。いつも強気な三白眼の瞳が、微かに揺れて、眉尻が下がる。……困ったような、珍しい顔。


「あれね……。その、迷惑……よね。良いのよ、断っちゃって。あ、でも、私が嫌とかそんなんじゃなくて……」


 しどろもどろな先輩。こんな反応、予想外すぎる。


「俺が嫌とかじゃないです。九条先輩が俺と二人きりで一つ屋根の下に住むって事が変な話だなと」


「ふ、ふた、ふたりきりっ! ああ、そうよね……そうなるわよね」


 目は泳ぎ、顔は真っ赤になり、頭から湯気がプシューッとでているようだった。


「ご、ごめんね! この話はまた今度にしましょう!」


 そう言って脱兎のごとく去っていった九条先輩。

 いつもクールな彼女の、こんな慌てた姿は初めて見た。

 どう受け止めればいいんだ、これ……。

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