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第132話 生徒会選挙

 中間テストの結果が出た翌日。

 今日から、生徒会長選挙の立候補受付が始まる。


 この学校では、生徒会長を選出したあと、その会長が副会長や書記などの役員を任命する仕組みになっている。

 つまり、生徒会長の権限はかなり大きい。

 そのぶん、毎年の選挙戦は激戦になる――らしい。真桜から聞いた話だ。


 御影先輩や飯野さんと仲良くなったことで、彼女もいろいろな“裏側”を知ったようだった。


 そんな真桜は、今朝から明らかに緊張した様子を見せている。

 無理もない。

 過去に一年生で生徒会長に選ばれた例は、神凪学院の長い歴史の中でも、ほんのわずかしかないというのだから。


 昼休みになり、真桜は立候補の届け出のため、生徒会室に向かった。俺と羽依も付き添う形で、そのあとを歩く。


「緊張するわね……なんか最近どんどんメンタルが弱くなっている気がするわ。なぜかしら……」


 言われてみれば確かに入学当初に感じていた、何者も寄せ付けないような抜身の刃な印象が大分薄れた気はする。


「きっと恋しちゃったからだよ、真桜。ついに人間になったんだ~」


 そんな軽口を叩く羽依を恨めしそうに見つめる真桜。


「はあ……もうなんでもいいわ……あ~、やっぱりやめようかしら」


 なんとも彼女らしくない弱気な台詞だ。

 俺は発破をかけるため、彼女の背中をパンッと叩いた。


「真桜、らしくないよ。『私が生徒会長になってあげるわ』ぐらいのノリで行こうよ!」


 そういう俺をじっと見る。つり上がった眉がへにゃっと落ちた。

 少し緊張がほぐれたのかな。


 ――バシーン!


「あいったああ!!」


「お返しよ、蒼真。――なにうずくまってるの、大げさよ」


 倍返しどころじゃない。背中に真っ赤な紅葉が浮かんでる気がした。

 でも、どこか機嫌がよくなった真桜だった。


 生徒会室の前で立ち止まり、俺たちはドアをノックした。


「失礼しますー!……あ」


 先客がいたようだ。九条先輩と取り巻きの方たちだ。


 俺の方を見てそっと優しく微笑む九条先輩。

 俺は軽く会釈を返した。あの視線が、もう敵意じゃないってだけで、少し肩の力が抜ける。


「では失礼します。御影さん、今までお疲れ様でした」


「ううん! ありがとう遥ちゃん! それと、ごめんね……」


 御影先輩にそっと微笑んで生徒会室を退出する九条先輩。取り巻きの方たちの俺への敵意ある視線がものすごかった。なぜ真桜ではなく俺に……?


 真桜とのすれ違いざまに何かぼそっと言ってたけど聞き取れなかった。

 ただ、真桜の表情から察するに、挑発的な言葉だったのかな。なんかプルプルしてるし。


「真桜ちゃん、おまたせ! もちろん用件は生徒会長立候補だね」


 現役モデルである御影先輩の圧倒的な眩いオーラに俺たちは圧倒されていた。


「はい、よろしくお願いします、御影会長。――それと、推薦人の件、ありがとうございました。その、もしかして、九条さんからも……頼まれてましたか……?」


 申し訳無さそうに尋ねる真桜。御影先輩はちょっと困り顔で頷いた。


「うん、遥ちゃんとは色々お付き合いもあったからね。他の人にも怒られちゃった……」


 てへって感じに舌をだす御影先輩。――俺が無理を言って頼んだのもあったので罪悪感もひとしおだ。


「すみません、御影先輩……」


「ううん、気にしないで。真桜ちゃん文化祭実行委員の副委員長すっごく頑張ってたの間近で見てたからね! 実質、委員長みたいなもんだったよ。――美樹ちゃんには悪いけどね」


 そう言って俺たちにウィンクをする御影先輩。バキュンって効果音が幻聴で聞こえた。ウィンク一つで目眩起こすレベルって……御影先輩、恐ろしい人だ。

 その後ろで羽依が俺のお尻をキューっとつねってきた。ちょっと痛すぎて涙出そう……。


 腹パンされたりひっぱたかれたり抓られたり。なんか最近痛いことばっかりだなあ……。


「じゃあこれにて本日の公務はおしまい! ――まだ時間あるよね。今お茶だすからゆっくりしていってよ! 私、雪代さんともおしゃべりしてみたかったんだ~」


「へ? 私と……ですか?」


 御影先輩は羽依の手を取り、逃すまいと生徒会室のソファーに連行する。

 人見知りだけど、体裁を整えることは普通にできる羽依。

 でも、御影先輩の陽オーラにはかなり堪えてるようだ。


 3人がけのソファーに横一列に座る俺たち。

 御影先輩はポットにお湯を注ぎ、じっと見てる。ふわっと紅茶の良い香りが漂ってきた。その後、ティーカップに注いでくれて俺たちに振る舞ってくれた。


「適温だと思うけど、熱いから気を付けてね~」


 ティーカップを手に取り一口頂く。芳醇な香りが素晴らしい。学校でこんな美味しい紅茶が飲めるとは少し驚いた。


「文化祭の時のリフティング見てたんだよ~。ホントすごかったよね! 可愛いチャイナ服着ててさ! もう伝説になっちゃってるよ~」


「あ、いえ、その……ありがとう……ございます」


 完全に気圧されてるようで、ちょっと可哀想かなと思ったけど表情から察するに、そこまで嫌ではないようだ。――むしろ嬉しそう?


「私、御影さんの載ってる雑誌とか集めてるんです。その、えっと、映画でるんです……よね? おめでとうございます……」


「えー! 知っててくれてたんだ、それに雑誌集めてるとかって、もしかして私の事好きだったり?」


 御影先輩の端正なお顔が、この上ないぐらいに溶け切ってる。


「はい、その……最近からなんで、にわかも良いところなんですけど。蒼真と一緒に出てた広告見てから……すっごい綺麗だなって……今、先輩が一推しです……」


 その言葉に、御影先輩は口に手を当てて、頬を真っ赤に染めている。なんだかとても感動しているようだった。


  まさか羽依が御影先輩のファンだったとは。俺も羽依の知らないところホント多いな。


 俺と真桜はお互い顔を見合わせてクスクスと笑いあった。


 昼休みの終了まで羽依と御影先輩の微笑ましいやり取りは続いたのだった。

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