第123話 弁護士からの手紙
二人からのキスで始まった夜。
「二人とも、俺の気持ちを無視してないか?」
抗議しないと気がすまない。でも、照れ隠しなのか、情けなさの八つ当たりなのか、自分でもよくわからなかった。
ただひたすら俺の思考が追いつかない。
この先、この二人とどうやって接していけば良いんだよ……。
「蒼真、私のこと好きでしょ?」
真顔でそんな事を言う真桜。友達としての好きとは違う意味だよな。
「そうなの、蒼真?」
羽依が追従する。何、この地獄のような質問。
言葉一つ違えば全てを失いそうな、そんな問い。
でも、二人がこれだけ自分の思いをぶつけて来たんだ。
俺だって素直な気持ちを言っておきたかった。
――俺が真桜の事をどう思っているか。
考えないようにしていた。
だって俺には羽依という最愛の彼女がもう居るんだ。これ以上は俺の手に余る。
でも、俺は結城真桜という女性をすでに知ってしまった。
強く賢くそして優しい。常に俺に手を差し伸べてくれ、俺のことをまるで自分のことのように泣いたり喜んだり――。
思い返せば数々のエピソードが溢れ出てくる。彼女のことを思えばいつだって胸の奥が暖かくなる。これはきっと――。
「真桜の事、好きだよ」
自分でも思った以上にすっと言葉が溢れた。と、同時に頬が熱くなるのを感じる。
俺も感極まってしまったらしい。涙が溢れ出てくる――。
俺の言葉に真桜も顔を真っ赤にする。口元を抑えて――大粒の涙をこぼした。
「二人とも、やっと素直になれたんだね……良いんだよ。私は二人がいれば他に何もいらないの」
布団の上から覆いかぶさるように、涙を滲ませた羽依が俺と真桜をそっと抱きしめてくる。
その腕には、優しく包み込むような気持ちがこもっているようだった。
3人が落ち着いて布団に戻るまで、しばし時間が必要だった。
呼吸が整い、ようやく眠りにつけそうだった。
――気持ちが落ち着くにつれて新たな疑問も沸いてくる。
羽依は俺の最愛の彼女だ。でも、羽依からはどう思われてるんだろう。
真桜の触れ合いを認めるとか、いつの間にか羽依の本命は真桜になっていた? で、俺の方がついでだったり。
そう考えると一気に気持ちが落ち込んでくる……。
「羽依の気持ちは俺と真桜のどっちに向いてるの? もうわかんないよ……」
「蒼真だよ。私の気持ちは蒼真にしか向いていない。真桜は親友だもの」
「蒼真、私と羽依が本当に百合とか思っていたの? 」
「ええ……違うの……?」
羽依と真桜は顔を見合わせて可笑しそうに笑う。
「蒼真は純粋だね~。女の子同士のよくあるスキンシップだよ~」
「あら、私はもっと気持ちが入ってたわよ? 羽依の事、大好きだし」
そう言って今度は羽依とキスをする真桜。体は俺を跨いでいるので、真桜の重さと柔らかさがダイレクトに伝わってくる。
「ぷはあっ、はあっ、はあ……。真桜、息させて……」
「ふふ、私が一番欲張りなのかもしれないわね。私は二人とも大好きよ。前から言ってたわよね?」
「むう……、私だって真桜の事好きだけど……好きだけど!」
そう言って真桜に勢いよく抱きつく羽依。頼むから俺の上に乗らずにやってくれ……重くて柔らかくて……ああ、やっぱり幸せかも。
――思った以上に、自然な関係なのかもしれない。少なくともギスギスしてはいないし、不幸でもない。
付き合い方なんて人それぞれなんだよな。
これが正解かどうかなんてどうでも良かったんだ。
問題が起きたら……その時考えよう。
なるようになるさ。
――なんだっけ、ケセラセラ、だったか。
その後は他愛もない話をしつつ、いつしか意識が、遠く――。
――ピピッ。
スマホのアラームで目が覚める。
朝7時だ。
ゆっくりと意識が覚醒する。
……。
――俺の今日の寝相が本気でヤバい。
見ると、足元がすーすーする。
何故か下半身だけ裸だった。
え、なにこれ。なんで? パンツどこっ!?
ベッドの下に落ちていたのを見つけ慌てて拾おうとしてベッドから転げ落ちた。
ドシンと尻もちをついた。マジ痛い……。
涙目でパンツを履く俺の姿はとてもじゃないけど二人の美少女に愛されるような価値のある男には思えなかった。
二人が寝ている隙にさっと着替えてジョギング行ってこよう……。
普段より短めに30分程度を筋トレ込みで済ませる。
やらないよりはマシ程度だな。
それでも汗をかいたのでアパートに戻りシャワーを浴びることにした。雪代家の風呂じゃ美咲さん起こしても悪いし。
アパートに戻るとポストに郵便物が入っていた。
優しい水色に可愛らしいテディーベアのデザインの封筒で「工藤綜合法律事務所」って名前が書いてある。ギャップすごいな……。
俺に弁護士なんて何のようだ? 宛先は俺になってるから間違いではないだろうし。
あまり良い内容は想像できない。
部屋に入り早速封を切る。ハサミを持つ手が震えてしまう。
淡いピンク色の便箋には綺麗な字で書かれている。
心臓が痛いほどドキドキする。
なんだ……この緊張感は。
――――――
藤崎蒼真 様
こんにちは。突然のお手紙を差し上げることをお許しください。
私、工藤綜合法律事務所に勤務しております弁護士の浅見理央と申します。
このたびは、あなたのお父様に関する件で、少しお話をさせていただきたく、ご連絡を差し上げました。
蒼真さんご自身にとって大切なお話になる可能性がございます。
できましたら、あまり堅苦しい場ではなく、リラックスした雰囲気でお話できればと思っております。
ご都合のよい日時がございましたら、お時間をいただけないでしょうか?
場所についても、学校の近くや通いやすい場所をご相談のうえで決めさせていただければと思います。
もちろん、お一人で来ていただく必要はありません。信頼できる大人の方とご一緒でも構いませんし、もし不安があるようでしたら、事前にお電話などで内容の概要をお伝えすることも可能です。
なお、この件につきましてはご本人のプライバシーを大切にしておりますので、学校関係の方にはこちらからご連絡することはございません。ご安心ください。
何かご不明点があれば、いつでも下記の連絡先までご連絡いただければ幸いです。
それでは、蒼真さんからのご連絡を心よりお待ちしております。
敬具
令和〇年〇月〇日
工藤綜合法律事務所
弁護士 浅見 理央
〒000-0000 東京都〇〇区〇〇〇〇ビル5階
TEL:090-xxxx-xxxx
Mail:rio.asami@kudo-law.jp
――――――
嫌な予感はどうやら的中しそうだった。
父さん、一体なにやらかしたんだ……
面白いとおもっていただけたら、ブックマークをしてもらえると励みになります!