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第116話 理性とは、鍛えることができるのだろうか

 朝、寝起きとともに感じるのは顎の痛み。

 ――今回は、昨晩のことははっきりと覚えている。


 ベッドには俺一人だった。二人はどうしたんだろうか。

 それにしてもベッドの甘い残り香がすごい。二人の汗に、シャンプーやボディソープの匂いが混じって、妙に甘ったるい香りになっている。


 鏡を見ると、顎の辺りは少し赤い程度で済んでいる。しっかりと撃ち抜かれて脳が揺さぶられたんだな。さすがは達人と、妙に感心してしまう。


 時計を見ると、朝7時だ。結構たっぷり寝た気がする。

 顎が少々痛む以外は絶好調なようだ。

 今日も天気は良いし、絶好の勉強日和だ!

 ……高校1年生の男女4人が休みに集まってすることなのかは疑問だけど、自分のためでもあるからな。頑張るとしよう。


 唯一のお楽しみである、食事会のメニューがまだ決めてなかったんだった。

 みんなの意見を参考にするか。


 と、その時ドアをノックする音が。

 ドアを開けると、真桜が立っていた。何とも申し訳無さそうに俯いてるので、とりあえず部屋に入るよう促した。


「おはよう、どうしたのさ、そんな顔して」


「ごめん……なさい。また殴ってしまって……暴力女と思われたらどうしようって……」


「あはは! 何を今更!――って……ごめん、そんなに睨まないで」


 圧倒的な眼力で俺を見据える真桜。落ち込んでるのか怒りたいのか、なかなか難しい子だった。――ふと、俺に手を伸ばしてくる。反射的にビクッとなってしまった。


「顎、大丈夫? 痛くない?」


 心配そうに俺の顔を覗き込み、そっと赤くなった顎に触れる真桜。その優しい手つきと、昨日の光景に心がざわつく。ホント綺麗な体だったな……。


「痛くないよ。気にしないで、っていうか……俺の方こそ、ごめん……。つい衝動的になっちゃった……恥ずかしかったよね」


 俺の視線に感じるものがあったのか、恥じらうように顔を赤らめ、視線を泳がせる真桜。


「もう、貴方には何度も見られちゃってるし、今更よね……。私こそ動揺しすぎ。ホント未熟だわ」


 「真桜らしいと思うよ。もちろん悪い意味じゃないよ? 」


 「どんな意味なのよ……でも、もう貴方を殴らないようにしないと、羽依にも嫌われてしまうわ……」


「え、羽依は何か言ってた?」


「ううん、落ち込んだ私を慰めてくれてたわ……。あ、普通に慰めてたのよ? 勘違いしないでね」


 まあそうなんだろうな。うん。

 でも、俺の中の羽依と真桜のイメージは、もう完全に百合の園の住民。きっと俺は百合を蝕む害虫だな。


 昨日の晩は半裸の状態で布団に入っていたが、今は前開きのパジャマ姿だ。可愛らしいその姿は、朝から少々刺激が強かった。


 俺の視線に何か感じたのか、真桜が視線をそらす。少し頬が赤く染まり、何かを決意したかのように口を真一文字に固く結ぶ。


「私にも修行が必要よね……。毎回、何かある度に貴方を殴ってたら、そのうち殴り殺してしまうわ」


 何を物騒なこと言ってるんだ、そう思った矢先。

 突然、前開きのパジャマのボタンを外して見せる。

 豊かな胸の谷間としっかりと鍛えている腹筋が顕になる。


 見えそうで見えない程度の絶妙な露出に心臓が跳ねる。


「ちょっ、真桜、殴ることとボタン外す事に何の関係がっ!」


「ん~、慣れるところからかしらね。ほら、見られてると思うと、貴方のことを殴りたくなってくるの」


 冗談っぽく言ったその瞬間、俺の胸ぐらを掴みにかかってくる。

 いつもの修行の時の挙動だ。俺は反射的に真桜の手首をとって後ろに捻りあげる。

 結構身についたんだな。不意打ちでここまで対処できるとは。けれどその瞬間、真桜のシャツの前がふわっと広がる。これ、ヤバい……。


「真桜、ちょっ! それ! わざとだろ!」


 顔を真っ赤にしつつも悪戯な目で俺を見据える真桜。すぐに俺は真桜を開放する。シャツのボタンを止め直し、妖しく微笑んだ。


「やっぱり……蒼真に見られるのは……恥ずかしいわね。まだ反射的に攻撃してしまいそうになるの……。たまに修行に付き合ってもらおうかしら。――じゃあ、羽依の部屋に戻るわね」


 そう言って真桜は手をひらひらさせて部屋を出ていった。


 一体何だったんだ……なんだか真桜との距離感がバグりまくってる気がするな……。肌を見せる練習ってなに?


 羽依だってそうだ。少しずつ肌を見せることに抵抗がなくなってきているようだし。


 二人との関係がどんどん深まってる……というか、沼にハマってる気がする。

 この先どうなるんだ、俺……。


 ――俺の理性をもっと鍛えないとな。でも、何すれば良いんだろうか。やっぱ坐禅とか滝行かな……。



 8時過ぎに、今度は羽依が俺の部屋にやってきた。


「おはよう蒼真。顎大丈夫?」


 羽依は眉をハの字にさせながら、俺の顎にそっと手をあてがう。

 怪我がないことを確認すると、ふわっと柔らかい笑顔に変わった。と思ったら、目を三角にし、少し口を尖らせてくる。


「いきなり布団をめくるからだよ~。蒼真はもうちょっと乙女心を理解しないと駄目だね」


「はい……すみませんでした」


 散々好き放題やってた人に説教されるとは……。く、悔しすぎる……。


「――そういや二人とも羽依の部屋で寝たんだね。やっぱ三人じゃ寝づらかった?」


「ううん、汗でびちゃびちゃな布団で寝たくなかったからね~」


 ……おい。


 布団をびちゃびちゃにした張本人が、それ言う?


 全く悪びれなく、清々しいまでに言い放つ羽依。


 どの口が言ってんだ――って、気がついたら、羽依のほっぺを両手でむにーっと引っ張ってた。


「いひゃい!いひゃいようーほうは!」


 何言ってるか分からないけど可愛らしいので、ほっぺを引っ張ったままキスしてみた。羽依の口からちょっと涎がこぼれちゃった。


「いだい……蒼真はたまに意地悪だ……」


「何いってんの。人の布団をビチャビチャにしといて。反省して俺の布団を干してきなさい」


 羽依は「ふぁーい」と、やる気のない返事をして、しぶしぶ布団を干しに行った。やれやれだ。


 その後、3人で朝食の準備をする。大体土曜の朝は美咲さんの二日酔いを想定して、消化の良いメニューを選ぶのが恒例になっている。


 お茶漬けにだし巻きたまご、お新香と、とてもシンプルな組み合わせだ。夕方には食事会ということで、それなりにボリュームのあるメニューになるだろうからな。


 9時過ぎに美咲さんが起きてきた。頭が爆発してるかのような寝起き姿にちょっと驚く。羽依がギャーと叫んで洗面所に連れて行った。

 自分の母親の乱れた姿は見られたくないようだな。


 ほどなくして大分見られる姿になった美咲さんが食卓についた。


「あー昨日は飲みすぎた……」


「お疲れ様でした。あの後、佐々木先生は何時頃帰ったんですか?」


「ん~2時ぐらいかな……途中、私も寝ちゃったからねえ」


 けらけらと笑う美咲さん。わりと満足そうな様子で、楽しい飲み会だったって感じが伝わってきた。


「珍しいね、お母さんが先に潰れちゃうなんて」


「あは、健太とサシ飲みで、つい昔話に花が咲いちゃってさ。浮かれちゃったんだね。久々で楽しかったな~」


 屈託のない笑顔の美咲さん。この笑顔はどう受け取るべきか。佐々木先生と美咲さんの関係は、やはり判断が難しかった。








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