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第114話 小悪魔大暴れ

 週末の夜の雪代家。

 羽依に風呂へ強制連行された真桜が悲鳴を上げている。

 切なくも艶っぽい声が浴室の外まで響きわたる。


 二人は一体何してるんだろうか。

 気にならないはずがないが、もちろん女子の風呂場を覗くような真似はできるはずがない。俺はそこまで堕ちてはいない。

 でも、聞き耳立てるぐらい許されるんじゃないかな……。


 脱衣所の外からそっと聞き耳を立ててみると、二人の話し声がうっすらと聞こえてくる。


「羽依、もう許して……」


「ん~、正直に言ったら許してあげる。あの写真はどうして捨てなかったの?」


「……ちょっと刺激が強かったけど、あんなに綺麗に撮ってくれたの嬉しくって……んっ! 羽依もすごく色っぽく撮れてたでしょ……捨てるなんて勿体なくて……だめ、もう許して! あぁ……」


「それだけなの? 蒼真に撮られたの思い出して興奮しちゃったとか」


「ちがっ……くもないかも……撮られるのは気持ちよかったかも……」


「うん、正直に言えたね。じゃあ許してあげる」


「ぜんぜん許してないじゃない! ……手を止めて……あぁ……また」


「んふ、真桜が可愛いのがいけないんだよ~。弱いところ大分覚えちゃったね。こことここを、こうすると……」


「ああぁぁ! もうだめ!」


 ……。

 羽依の暴れっぷりがやばすぎるんだけど……。

 真桜に同情しつつ、ちょっと冷たいものでも飲んでクールダウンしてこよう……。


 気づくと時刻は22時をすでに過ぎていた。閉店後の片付けをすっかり忘れてた。二人はまだ風呂に入っているから俺だけでも行ってくるか。


 店に降りると美咲さんと佐々木先生が二人カウンターで飲んでいた。

 俺に気づいた美咲さんが優しく微笑んで俺を手招きする。


「蒼真、羽依には言っておいたんだけど、今日は片付けしなくて良いよ。健太に最後手伝ってもらうから。ね、健太!」


「ああ、俺に任せておいて良いよ。――それにしても藤崎、この前のことは……無茶しすぎだ」


 結構酔ったような、とろんとした目で俺を嗜める佐々木先生。大分美咲さんに飲まされているようだった。


「はい、心配かけてすみません……。でも、他にいい方法が思いつかなくて……」


「突然刃物を突きつけられた時の対処か……そうならないようにするのが最善なんだけどな」


 若干思考が鈍っている感じの佐々木先生の言葉に、美咲さんは呆れ顔でやれやれと溜息を付く。


「健太だって分かって言ってるんだろ、あれが最善だって事ぐらい。理不尽な相手には何したって無駄だって。ましてやあの時のガキは薬やってたんだってね。蒼真が怪我しなくてホント良かったよ。――さあこっちおいで」


 美咲さんに引き寄せられ、ぎゅっと抱きしめられる。先生に見られながらってのはさすがに恥ずかしいけど、この包容の温もりは抗いがたい。


「藤崎は美咲のホントの子みたいだな。まあ近い関係にはなりそうだけどな」


 佐々木先生はクックっと堪えるように笑う。美咲さんも満更でもなさそうに微笑みを浮かべる。


「そうだよ、羽依の婿に来てもらうんだ。それに蒼真はもうすでに我が家の一員なんだよ」


 そう言って俺の頬にキスをする美咲さん。お酒の匂いが強いのは、すでに大分飲んでいるからなんだろうな。


「すみません、二人で飲んでいるところを邪魔しちゃって」


「良いんだよ! 健太は私の親友だからね。気兼ねすることなんてないんだよ」


 美咲さんの言葉に、佐々木先生は嬉しそうにはにかみながらも、遠くを見るような眼差しを浮かべる。


「親友ってまだ言ってくれるのは嬉しいな。――昔を思い出すな」


「ちょっと、まだって何よ! 私たちが親友じゃなかった時があったの? もっと飲めば私たちが如何に深い関係だったか思い出すだろ、ほら飲め!」


 美咲さんの容赦ないアルハラが展開している。

 飲み会とは、かくも辛いものなんだな。新たな気付きを与えてくれた佐々木先生には感謝だ。


 さあ、撤収するか……。


「じゃあ上がりますんで、どうぞ、ごゆっくり~」


「藤崎、まって、あ、いや、お休み……」


 助け舟を出しかけて飲み込んだんだな。

 佐々木先生は立派な人だなあ……。


 リビングに上がると、二人が風呂から出ていた。


 パジャマ姿に着替えた湯上がりの二人は、肌がほんのり桜色に染まっていて、思わず息を呑んでしまった。

 ……カメラがあったらなって、つい思ってしまう。


「美咲さんたち、まだ飲んでるから片付けは良いってさ」


「ああ、蒼真に言うの忘れてた。ごめんね。で、二人の様子はどうだった?」


 羽依の探るような眼差しを見ると、敢えて俺に言わずに様子を見に行かせたのかなと勘ぐってしまう。


「う~ん、二人は親友って言ってたよ。良い雰囲気になりそうには見えないかなあ。わかんないけどね」


「そっか、今すぐどうこうってのは無さそうだね。ひとまず安心かな」


 そんな俺たちの話を聞いていた真桜が少し首を傾げる。


「羽依は美咲さんと佐々木先生が付き合ったり結婚したりっていうのは反対なのかしら?」


 羽依は少し思案顔をする。そして少し口を尖らせ気味にして俺たちに向く。その表情は、どことなく小さい子のように見えた。


「私が男嫌いってのも理由の一つだし、うちには蒼真が来るから他にはもういらないの」


 ――きっと、自分でも分かっているんだろう。

 美咲さんの幸せを願っていないわけじゃない。でも、自分の気持ちに嘘をつけるほど、大人でもない。

 だからこそ、どうしようもなくふてくされた態度になってしまうんだろうな。


 そんな羽依の頭に、ぽんと手を置いて、くしゃっと撫でてやる。

 ふてくされた顔が、ふにゃっと柔らかくほぐれていく。


「――さて、風呂入ってこようかな。そうだ、今日、寝るのは分かれる?」


 ビクッとする真桜。そして俺に助けを求めるような眼差しを送ってくる。お風呂場ではちょっと可哀想な目にあっていたようだったからな……。


「あ~、みんなで寝る? もう少し話もしたいしね」


「うん、賛成! じゃあ先に蒼真の部屋に行ってるね。――真桜、続きしてようね」


 真桜の手を握り、なにやら意味深な発言をする羽依。真桜のすがるような眼差しが印象深かった。


「蒼真、待ってるから、早く出てね……」


 ええ……俺の布団で妙な事しないでほしいな……。

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