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第112話 ヒーロー爆誕

 文化祭の余韻もすっかり落ち着き、次なる試練の中間テストまであと1週間となった10月初週の金曜日。


 俺に新しいあだ名が出来た。“ヒーロー”だ。


「ヒーロー、ノート見せて」「ヒーロー、来週トイレ掃除の当番ね」「ヒーロー、チャック開いてるよ」


 ……これは新手のイジメか?

 でも、今までのあだ名よりはまだマシなのかも。


「ヒーロー、随分と不機嫌だな!」


 SHR前の時間、前の席の隼が俺の方に振り返り、ニヤニヤしながら話しかけてきた。


「……これ絶対お前の仕業だろう」


「ん? 何のことだ? それより聞けよ、ヒーロー! ちょっと小耳に挟んだんだけどな、生徒会長の御影さんが映画に出るらしいぞ。なんかもう芸能人って感じだな! 今のうちサイン貰っとくか!」


「まじヒーローやめろ! って、ええー! 御影先輩が映画!? マジで!? なんだか一気に遠くの人に感じちゃうなあ……」


「生徒会長もそろそろ交代だし、あの人神凪院大学らしいから受験も関係ないんだろうな」


「え、そうなの? めっちゃ頭いいって話だから旧帝とか選ぶのかと思ったけどな」


「姉さんは東大進めたらしいけどな。でも、まあ神凪院大学だって十分すぎるぐらい良い大学だけどな」


 確かにここの大学はランクも全然高いほうだしな。ちょっと思い当たるのは飯野さんが神凪院大学って言ってたからな。親友で幼馴染の彼女に合わせたのかもしれないな。


「ふうん、進路かあ。――そういや隼って、やっぱ東大狙ってるの?」


「ああ、親はそう言ってるけどな。でも俺は別に東大じゃなくても良いかなって思ってる」


「ええ~、燕さんだって東大推すんじゃない?」


 隼にしては珍しいような苦い顔をする。


「そうだな。姉さんなら東大って言うだろうな。一番良い大学に行ってからやりたい事をやれってな。全く、凡人の苦労も知ってほしいよ……」


 そう言って元気無く笑う隼。こいつはこいつで色々抱えてるんだろうな。優秀すぎる姉を持つ辛さか。いや、燕さんなんだから辛いよりも幸せって思え。


「いいじゃん東大いけばー」


 とりあえず超テキトーに答えといた。恨めしそうな隼から鼻デコピン食らった。鼻血出そう……イテテ。


 隣では羽依と真桜が仲良く楽しそうに盛り上がってる。

 俺の視線に気が付き、羽依が俺に笑顔で声を掛ける。


「蒼真、今日は真桜が夜のバイトに来てくれるよ! またお泊り会だよ~!」


「またよろしくね、ヒーロー。ついでに明日は貴方の家で勉強会をしようかって話なんだけど……大丈夫かしら?」


 真桜までヒーロー呼びとは。もっとも、彼女のニヤけた目を見れば意地悪で言ってるのがよくわかるが……。それはともかく、勉強会なんて俺の方からお願いしたいぐらいだった。


「もちろん大丈夫だけど、明日の稽古はお休みしとく?」


「ごめんなさい。蒼真には悪いけど、ここ最近、勉強疎かにしてたから集中したいの」


 ほんの少しだけうつむいたその表情から、彼女の中にある真面目さと優しさが滲み出ていた。


「良いよ、俺は自主トレやっておくからさ。それに俺も羽依と約束してるからね。中間テストで20位以内を目指さないといけないし」


 ちらっと羽依を見ると、俺から視線を外し俯き加減になる。

 小さく「バカ」って呟いてるのが分かった。


「あら、そうなの? じゃあお互い頑張りましょう」


 そこに隼も目を光らせた。


「蒼真、俺も一緒に良いか? 今回は俺も正直自信ないんだよな。学年2トップとの勉強会なんてマジ神企画だしな。乗っからせてくれよ」


 みんなやっぱり文化祭の準備で勉強不足を感じてるんだな。隼には返しきれない恩もあるし、断る理由もなかった。


「じゃあ隼も来いよ。明日は俺んちで勉強会と食事会でもやるか」


 みんな食事会と聞いて目を輝かせている。期待に応えられるメニューを考えないとなあ。

 


 ――放課後の帰り道。今日は真桜が直接雪代家に来るので、3人での帰宅だ。両手に花な展開だけども、できる彼氏な俺は二人仲良く歩かせて、2~3歩身を引く格好だ。気にしすぎかもしれないが、これ以上ヘイト集めるのも正直怖い。


「真桜のバイトは夏休みの終わり以来か。なんか久しぶりだね~」


「そうね、久しぶりね。お店のバイトはこれで2回目だけど、ちゃんとできるかしら……」


「真桜なら大丈夫だよ! 私や蒼真がバイト来れないときに真桜がヘルプで来てくれたら大助かりだからね」


「じゃあしっかり覚えないとね。よろしくね! 先輩方」


 後ろを振り返り、綺麗な顔をくしゃっと笑顔でほころばせる。そんな真桜もホント可愛い。羽依は言わずもがな。そしてオーナーの美咲さんはめっちゃ美人と。……最強の布陣だな、キッチン雪代。


 今日は俺も直接お店に向かうことにした。雪代家の俺の部屋には、今やなんでも揃っている。仮にアパートが大火事にあっても、大事なものは雪代家の方にほぼあるから問題ないってぐらいだ。


「おかえり~。真桜ちゃんいらっしゃい! 文化祭の時以来だね! 今日はよろしくね!」


 満面の笑みで出迎える美咲さん。そういや文化祭の最後の時はとても怖かったけど、今はその面影は全くなかった。今日も素敵で美人なお母さんだ。


「美咲さん、よろしくお願いします。そう、文化祭のときの美咲さんの体捌き、とても見事でした! さすがは最強と名高い姉弟子です」


「やだねえ、後から言われるのは恥ずかしいから勘弁して! それに最強って誰が言ってたんだか、って結城先生か。相変わらず冗談がお好きだねえ」


 クックっと笑う美咲さん。二人は同じ流派だから美咲さんは真桜の姉弟子になるのか。

 真桜からにじみ出る美咲さんへの敬意。きっと俺と同じような心持ちなのかもな。




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