第104話 リフティング対決!
「おーい蒼真! ちょっと寄っていけよ!」
屋外の展示を見ようと校庭を歩いていた俺と羽依は、サッカー部の会場前に通りかかったところを隼に呼び止められた。
そうだ、来いって言われてたんだった。
「リフティング対決やってけよ。うちの部員に勝ったら豪華賞品ゲットだぞ」
「へえ~、何くれんだ?」
「3つの中から選べるぞ。プロテイン1袋、サッカーボール1個、サッカー部員のブロマイド1セットのどれか一つだ」
「おお! プロテインは激アツだな! でも本職と対決って難易度高すぎじゃね? ハンデも無いのかよ」
実はリフティングって結構得意だったりして。でも、現役サッカー部員に勝てる気はあまりしないし、それ故の高額賞品なんだろうな。
「簡単に負けてたら大赤字だからな。それにこれは1年生のシゴキも兼ねてるんだよ。お客に負けたら女装でリフティングだ。プレッシャーえぐいぞ……」
「誰得なんだよそれ……」
隼の説明では、ルールは客二人とサッカー部員二人でチームに分かれてリフティングを開始し、先に二人失敗したほうが負け。特殊ルールとして、味方の球をサポートできるというサッカー部員が圧倒的に有利なルールだ。
「このルールじゃ人集まらんだろ……」
企画倒れもいいとこだろうな。隣でやってるストラックアウトのがよっぽど客が入ってる。
「ああ、全然来ない。けど、それがサッカー部の伝統らしい。それに、参加するってやつはリフティングガチ勢だからな。こっちは全く気が抜けないんだよ。お前は羽依ちゃんと一緒に参加して客寄せに貢献してくれ!」
本音を全く隠す気がない隼に思わず苦笑してしまう。でも、羽依はチャイナドレスなんだよなあ。
「良いよ、やろうよ蒼真。プロテインゲットしようね!」
羽依は自信があるようで、やる気満々だ。つうか、チャイナドレスでやれるのか? 靴は校庭に出るときにスニーカーに履き替えてはいるけど大丈夫かな……。
ジャージを脱いで軽くウォーミングアップをする羽依。サービスのつもりか、片足を上げて功夫レディーなポーズを取る。“アチョー”って言葉が出てきそうな格好だ。その瞬間どよめきが走る。
辺りを見ると、どこから集まってきたか、ギャラリーが一気に増えていた。
きっとサッカー部員がグループLINEとかで拡散したんだろうな。客寄せの効果は十分あったようだ。
「写真撮影は禁止ですー! 見つけたらスマホ没収してストラックアウトの的にします!」
サッカー部員の物騒な呼びかけに、渋々とスマホをポケットに収める男子生徒たち。とりあえずは安心かな……。
相手はサッカー部一年生の隼と、もう一人は隼とよくコンビを組んでいる中林だ。どっちも1年でレギュラーだぞ。
「……ちょっとそっちに有利すぎね?」
「当たり前だろ、ザバスは安くねえんだよ! さあ開始だ!」
笛の合図とともにリフティング対決がスタートする。
分かってはいたことだけど、羽依に対しての視線がすごすぎる。
もちろん見せパンを履いているはずなんだけど、そういうのは問題ではない。隠れているものが見えそう。ただその点だけが男のロマンなのだ。
リフティングの回数が100を超えた辺りであっさり俺が失敗した。羽依の方を見るとまだ続いていた。自ら進んでやろうって言ってただけあってめっちゃうまい。まだまだ羽依の知らない部分は多いなあ。
それにしてもチャイナドレスでのリフティングは目の毒だ。
インステップを使うから、どうしてもドレスから覗く太腿が大胆になる。
胸を使ったトラップも、ふわっと柔らかく揺れる双丘にギャラリーのテンションは嫌な感じに盛り上がってる。
ちくしょう、みるんじゃねえ! と、怒鳴り散らしたくもなるけど、正直俺も魅入ってる。むしろ最前列で見られるのは彼氏としての特権だろう。
ちらちらこっちを見ていた中林が失敗。上級生たちにボールを投げつけられまくってる。「ストラックアウトの的になれ」とか物騒なこと言われてるし。体育会系こえーな……。
隼と羽依の勝負となった。落としそうになったらサポートしても良いんだよな。
「くっそ、羽依ちゃんやるなあ! でもこっちも負けられねえんだよ!」
羽依の運動神経って俺が想像していた以上じゃないか……。
チャイナドレスでリフティングをサッカー部員以上にこなしてるって一体どういうことだ。
ギャラリーも最初はエロ目線だったけど、次第に声援が飛び交うようになった。それと同時に隼には野次が飛ぶようになった。 俺も野次飛ばしとこう。
妙に焦った隼はリフティングの精度が格段に落ちてきた。高く舞うボールに中林のサポートも入ったりと、失敗は時間の問題に思えた。
一方羽依は安定したリフティングを見せる。足の甲や太腿、頭と胸を巧みに使って淡々とこなしていく。たまに俺にパスをして呼吸を整えたりするので、俺も全く気が抜けない。
開始してから10分は経ったんじゃないか。体感はもっと長く感じているが、永遠に続きそうな対決も決着がつきそうだった。
あまりの野次に集中を欠いた隼が前方に大きく蹴ってしまう。
「ああああ!」
中林が走り出すも間に合わず、ゲームセット!
「蒼真、ボールを上げて!」
羽依からのパスに一旦リフティングでボールを整え、彼女の頭上に高く蹴り上げる。そこから羽依のジャンピングボレーシュート!
豪快なシュートは無人のゴールに突き刺さった――。
そしてまた、“アチョー”なポーズを取る羽依。
まるで漫画のようで現実味がなく、ギャラリーは水を打ったようにシンと静まり返る。
その後――。
怒涛のような歓声が響き渡った!
「なに今の!? ちょっとすごすぎるって!」「羽依ちゃんさいこー!」「藤崎くんのサポートもめっちゃカッコ良かった! 二人ともすごすぎ!」
サッカー部員もしばしぽかーんとしていたが、我に返ってみんなで隼を蹴っていた。その部員たちを押しのけて隼がこっちにやってきた。
「なんだよ蒼真! そんなにサッカーできるなら部活入ればよかったじゃねえか。今からでも良いぞ!」
「リフティングだけだって。それも一番最初に失敗してるし。それよりも羽依だよな」
「ああ、羽依ちゃんマジやべえな。あのラストのシュートは男子でもかなりムズいぞ!」
隼はやたらと興奮している。よっぽど度肝抜かれたんだろうな。
「隼くんお疲れ様! さあ、賞品よろしくね!」
「おうそうだ! さすが奥さん、きっちりしてるなあ。ほら、ザバス。おめでとう羽依ちゃん」
羽依に手渡されたザバスはそのまま俺の元へ。よく見ると口が空いていた。……中身も少し減ってね?
「隼、これ開封済み?」
「おう、きにすんな!」
全く悪びれない隼。明るく爽やかな笑顔が、今だけは心底憎たらしい。
「ふっざけんな! 気にするに決まってんだろ! こんなケチ臭いサッカー部、ぜっっったい入るか!」
ちくしょう、文化祭実行委員の委員長と副委員長にちくってやるからな!
でも、羽依は全く気にせずに、けらけらと笑ってる。
羽依の格好いいところ見られたし喜んでるから、――今日だけは許してやるか。
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