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第102話 文化祭当日の朝

 9月も終わりかけの週末、さわやかな秋晴れの中、文化祭当日がやってきた。


 結局、居残りの規制は「18時厳守」で落ち着き、スケジュールに大きな影響は出なかった。

 その裏では真桜が、教師たちへの丁寧な説得や校内パトロールの体制づくりなど、陰で奔走してくれていたらしい。

 おかげで、みんなが安心して準備に取り組めたんだ。


 後藤の一件もあり、校内での真桜の存在感は圧倒的だった。

“姫騎士”“百合の断罪者”なんて二つ名まで生まれてるらしい。

 でもまあ分かる。強くて美しいって、それだけで物語になるよな。みんな本当、あだ名つけるの好きだな。


 ちなみに俺には“シリアルキラー”ってあだ名が密かに付いていたのを知ってしまった。ほんっと、酷すぎないか?


 羽依の立場も彼女を悪く言うような人は出ず、被害者として、より一層儚げなイメージがついたようだった。

 元々、羽依と真桜は“セット”のように思われていたけど、あの一件でその印象はますます強くなったみたいだった。


 早朝、俺と羽依は今日も仲良く学校へ向かう。文化祭に向けて彼女の足取りはとても軽かった。


「楽しみだね! 今日はどんな一日になるのかな~」


「……ホントに着るの? チャイナ服」


 不満げな俺の顔を見て、ちょっと妖しく微笑む羽依。俺だけのチャイナ羽依だったのに……。なんて考えるのは独占欲強すぎてキモいかな。


「蒼真は心配性だね。大丈夫だよ。お母さんのチャイナ衣装の中でも一番上品な物にしたからさ」


「美咲さん、そんなにいっぱいチャイナ服持ってるんだ。一体どこで着るんだろう?」


「うん、そこが謎なんだよね。私も着てるの見たことないし。ひょっとしたら、お父さんの趣味だったのかもね」


 写真では優しそうな羽依のお父さん。真面目な教師のイメージだけど、一気に罪深い面が浮かび上がるな……。でも、チャイナ服を嫌いな男なんていませんから大丈夫ですよ。お義父さん。


 教室に入ると、ある程度お店としての設営が済んだ状態で、座る場所もなく、みんな立ちながらワイワイ騒いでいる。


「おはよう。羽依、蒼真」


 澄んだ声で爽やかに挨拶をしてくる真桜。連日相当忙しかっただろうに、その疲れを一切見せないのはさすがと言わざるを得ない。


「おはよう、真桜はよく眠れた? なんだか充実してそうだね」


 俺の言葉にふふっと微笑みを浮かべる。その目は大事な一戦を前に気迫に満ちたようにも見える。


「ええ、よく眠れたわ。文化祭実行委員の副委員長はとてもやりがいあって楽しかった。 そしてついに当日。今日も忙しくなるわ」


「すっごい楽しそうだね。やっぱこういうの向いてるんだよ! 真桜のおかげで毎日楽しく準備出来たし。ありがとうね!」


 羽依が真桜の手を取ってそんな事を言うものだから、周囲の視線が刺さりまくる。みんなにも百合の花が咲き乱れているように見えるんだろうな。

 俺たちより先に来ていた相楽さんがにこやかにやってきた。今日はみんな笑顔で溢れてるな。


「ふふ、おはようみんな。二人は今日も仲良しね。羽依ちゃん衣装合わせするからちょっと良いかな」


 相楽さんに呼び出されて羽依が衣装のスタンバイに入った。


「真桜は給仕する時間とれそう?」


「長い時間は取れないけど、隙間時間を見計らって来るわね」


「おお! 真桜の猫耳尻尾姿は是非みたいな!」


 俺の言葉に真桜が妖しく微笑みを返す。ちょっと想像していたリアクションと違っていたのでビクッとしてしまう。


「蒼真は私のコスプレしたところが見たいのね。ふふ、そっかそっか」


 なぜか機嫌良くなるのは文化祭という特別な日ならではのテンションなのかな。殴られるよりはよっぽど良かった。


 真桜と話している最中に、衣装部屋として仕切りを作っていた教室の奥からどよめきが走った。


「羽依ちゃんすごーい!」「なにこの天使……」「雪代さんありがとう、ありがとう……」


 皆、口々に羽依を崇め立てているような言葉を口にする。


「蒼真、真桜~。どうかな。似合ってる?」


 衣装部屋からでてきたのは猫耳尻尾チャイナ羽依。確かに露出は少ない上品な赤いチャイナドレスだ。

 裾は膝丈程度だけど、生足にパンプスの組み合わせが妙に色っぽい。少しだけスリットが入っているが、露出が多いわけではない。

 でも、その僅かなスリットこそが、男のロマンであり、魅力のポイントなのは間違いない。


 袖は半袖程度の長さでスラっと伸びる腕がやはり美しい。この手でお給仕されるお客さんはとても幸運だと思う。


 髪はいつものサイドテールからストレートに下ろしている。大人っぽさが出ているところに可愛らしい猫耳だ。これはずるい。おしりから伸びる尻尾はどういう技術でつけているのだろうか。謎だ。


 属性てんこ盛りすぎるとは思うけど、すべてが絡み合ってとても愛らしく仕上がっている。衣装を考案し、準備してくれた相楽さんもご満悦な様子だ。


「羽依ちゃん元が良いから良く似合ってるね~。これなら今日の売上は間違いないね~。」


「羽依の可愛さを存分に引き出してくれたのは相楽さんの手腕だよ。いい仕事してくれたね」


 俺の言葉に照れながらも、その目を妖しく輝かせる相楽さん。今日の女子たちはみんなどこか妖しいな……。文化祭マジックってやつなんだろうか。


「ありがとう。藤崎くんもこれをかぶるんだよ。猫耳カチューシャ」


「うぇ……。俺付けたって似合わないよ……」


「諦めなよ蒼真。俺だって諦めたんだから……女子に逆らっては生きていけないよ」


 背後から智ちゃんがやってきた。その格好は、The・ショタって見た目だ。貴族のお坊ちゃまみたいな白いシャツにネクタイ姿、サスペンダーを付けた半ズボンスタイル。きっと相楽さん好みなんだろうな。性癖が垣間見える。


 ていうか、あまりの可愛らしさに俺の属性まで歪めそうだ。今日明日でどれだけの人数が新たな“気付き”を得るのやら……。恐ろしい。


「おーっすみんな! お、蒼真、って、ぶひゃひゃひゃ!」


 遅れながらやってきた隼は、俺の可愛らしい猫耳カチューシャ姿を見るなり下品な笑い声を立てる。


「隼、お前もつけるんだよ! 明日は燕さん来るんだろ。見せてやろうな」


 とたんに渋面になる隼。


「俺のキャラじゃないからパスな。それよりサッカー部の出し物に来いよ! 歓迎するぜー」


「パスなんて許されるはずないだろ。そういやサッカー部はなにやるの?」


「リフティング対決とストラックアウト」


「おお、面白そうじゃん。時間あったら行くからこっちも手伝えよ」


「はいよ、今日は忙しくなるな。お互い頑張ろうぜ」


 爽やかに去っていった隼だが、単純に猫耳から逃げただけだよな。

 明日はきっちり猫耳付けさせるからな。楽しみにしてください燕さん。

 ぷーくすくす。

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