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第101話 火種

 月曜の朝。今日も多目的ホールで朝の勉強会をするいつもの3人。

 週末の余韻に少し照れはしたものの、すぐに普段通りの雰囲気となった。


「今朝、臨時の職員会議が決まったそうよ。間違いなく羽依の一件ね」


「まあそうだろうな。多分居残りも規制はいるかもね」


「そうなっちゃうよね……。うう、なんだか申し訳なく思っちゃう」


 羽依が頭を抱えるけど、それはさすがに違うだろう。でも、きっかけになってる限り、気にしてしまうのも仕方ないのかもしれない。


「羽依に落ち度なんてないわ。学校で犯罪を犯そうとするほうが悪いに決まってるでしょ」


 ついつい強めな口調になってしまう真桜。その気持は分からなくはない。


「そうだよ。羽依は被害者なんだからさ、責めるほうがどうかしてるし、そんなやついないって。だから落ち込まないでね」


「ありがとう二人とも。そうだよね、変に落ち込んでたら二人にも悪いし、気にしない!」


 そう言って拳を高々と上げる羽依。妙に演技がかっているのは彼女流のテンションの上げ方なのか。

 空元気なのは間違いなかったけど、元気を引き出そうとする心意気が羽依本来の強さなんだろうなって思う。



 昼休み、自販機前に御影先輩に呼び出された。内容はやっぱり週末の事件絡みだろうな。

 いざ向かってみると、すでに先輩は待っていた。

 今日もとびっきり美人な御影先輩。俺の顔を見るなりパッと笑顔が浮かぶ。人懐っこいその表情に緊張が緩む感じがした。

 呼び出したお詫びにとジュースを奢ってくれる御影先輩。俺は遠慮なく豆乳抹茶檸檬を選択する。


「わあっ、蒼真くんもこれ好きなんだ! 美味しいよねこれ!」


 美味しいって思って飲んでたのか御影先輩は。なんだか申し訳なくなってきたぞ……。


 今日はいつもコンビなイメージの飯野さんが不在だ。お休みかな?


「――蒼真くん、ごめんね呼び出して。うちのクラスの後藤のことでちょっと……」


「先輩3-Cだったんですか。……すみません、あまり言えることは無いと思います」


 内容が内容だけに、あまり細かいことを言って良いものか判断が難しかった。

 御影先輩の事は信用できるとは思うけど、同じクラスであれば情の一つもあってもおかしくない。


「そうだよね、警戒しちゃうよね。ごめん。何から言えば良いのかな……。その、後藤のことに関してはお礼が言いたかったの。蒼真くんと結城さんが後藤の犯行現場を抑えたって聞いてね」


「お礼って……、もしかして他にも被害者がいたんですか?」


 御影先輩は俯き気味に話し始めた。


「美樹ちゃんがね、ずっと嫌がらせをうけてたの。体を触られたり盗撮した写真を見せつけたりとかね……。美樹ちゃんって見た目はギャルだからさ。ノリが良くて怒っても顔にださないから、付け入られたんだと思う」


 飯野さん、見た感じは明るくて、そんな悩み事なんて全く関係なさそうだったけど……。


「最初は仲良いのかな、でも、ちょっとやだなって思ってたの。美樹ちゃん優しいから私に心配させないようにって黙ってたんだ……」


 俯き落ち込んだように語る御影先輩。気づかなかったことに悔やんでるのかな。


「まじ許せないっすね……なんなんだあの野郎は……」


 あまりの怒りに総毛立つ。そんな俺の顔を見て御影先輩がビクッとした。


「ひっ、そ、蒼真くん、そんな怖い顔するのは止めたほうが良いよ? イケメンなんだからさ」


「……すみません。でもイケメンじゃないですし、そんなに怖い顔してました?」


「うん。多分10人ぐらい殺してると思う。……ちょっと漏れちゃった」


 さすがに盛りすぎだろう。てか漏れたって……。


「ごめんなさい! トイレに行ってください」


「うん、話の途中でごめんね。ちょっと行ってくる!」


 えー、ホントに漏れちゃったのか……。


 ほどなくしてスッキリした顔の御影先輩が戻ってきた。まるで何事もなかったかのように眩しい太陽のような笑顔を見せる。


「うん、ごめんね! それで何の話?」


 トイレで会話の内容も流してしまったらしい。ポンコツさんは今日も健在だ。


「えっと、いや、俺じゃなくて先輩の方から、飯野さんが嫌がらせを受けてたって」


「ああそうそう! その話、それでね、美樹ちゃんに嫌がらせをしてた後藤が退学だって!」


 あまりに唐突な展開に、俺は目を見開いた。


「ええええ! もう退学決まってたんですか!」


「うん、実は美樹ちゃん以外にも被害者が何人もいてね。みんなで団結して先生に訴えてたんだ。その結果、処罰が決まったんだけどね……。雪代さんを襲おうとしたのは最後の悪あがきだったのかも」


 その言葉に、心の奥からじわじわと怒りがこみ上げてくる。


「そんなやつ学校こさせちゃ駄目でしょ……」


 怒気を抑えきれず漏れた言葉に、先輩も小さく頷いた。


「私もそう思うけど、その時までは転校を促してたみたいでね。雪代さんの件で退学が確定になったみたい」


「そっかあ。……でも、もう学校で会わなくなるのはよかったです」


 ふうっと息をついて安堵する。ようやく、という気持ちだった。


「そうなの。ただ、一つ引っかかることがあってね。後藤の親が相当なモンペらしいの。美樹ちゃんの件も『誘ったのは向こうに違いない!』とか学校に乗り込んできて言い張ってたらしいんだ。先生たちも大分苦労したみたい」


 思わず言葉に詰まる。理不尽すぎて、頭が痛くなるような話だ。


「……ホント酷い話ですね」


「もっとも美樹ちゃんだけじゃなくて、他にも被害者はいるみたいでね。言い逃れが出来ない状況だったみたいだけど。とにかく話が通じる相手じゃないからさ、一応注意喚起だね」


「……そうなんですか。一応覚えておきます」


 まるで火種がまだくすぶっているような話だった。俺も気を抜けないな、と思った。


「……ごめんね、不安になるような事だよね」


「いえ、知ると知らないとでは心構えも変わってきます。ありがとうございます」


 先輩の表情が少し和らいだ。


「ん~! やっぱり君はイケメンだね! 雪代さんがホントうらやましい!」


 唐突な褒め言葉に、俺は思わず照れ笑いを浮かべた。


「あはは……。御影先輩はいつも俺のことイケメンとか言ってくれますよね。先輩にそう言われると、なんだか自信がもてます。他に誰も言ってくれないから……」


「えー! こんなに格好いいのに! みんな見る目がないね! でも怒るとすごく怖い顔するんだね。普段が優しそうなだけにギャップがすごいよ!」


「そうっすか……。怖いなんて言われたことないから分からないですけど、気を付けます」


「ううん、悪い事じゃないよ! むしろギャップ萌えだよね。ますます君のこと好きになっちゃったな」


 ほんのりとした軽さが戻ってきて、ようやく張りつめていた空気が少しだけ和らいだ気がした。でも、こんな綺麗な人に冗談でも好きって言われるとさすがにドキッとする。

 顔がじわっと熱を帯びてしまうのを感じた。


「そういや今日、飯野さん居ないのはこの話をするために?」


 ふと気になっていたことを尋ねると、先輩は小さく頷いた。


「うん。美樹ちゃん居たらこんな話できないよね。そのおかげで蒼真くん独り占めできちゃった」


 可愛らしく舌をだす御影先輩。もし俺に彼女が居なかったら確実に胸を撃ち抜かれてるだろうな。破壊力抜群なあざとさだった。


 丁度その時予鈴がなった。


「先輩、情報ありがとうございました。ではまた!」


「またね~!」


 さあ、この情報をどう処理するべきか。羽依には退学の件は伝えておこう。ただ、モンペ云々って話は扱いが難しいな。


 もし何か、事を起こすとしたら、学校ではなく家。つまり店か……。

 商売やってる限り逃げ場はないな……。美咲さんには報告しておくべきなんだろうか。

 取り越し苦労になれば良いけれど――


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