第10話 リンクコーデ
動物園をたっぷり楽しんだ俺たちは、行きがけに見かけたショップを何軒か回ることにした。
目ざとい羽依は、どうやらお目当ての店をしっかりチェックしていたらしい。
「蒼真、リンクコーデしよっか」
「なにそれ? ペアルック?」
羽依はくすっと笑って「似たようなものだよ~」と手を引っ張っていく。
何やらお揃いのテーマでカップルを演出する服らしい。羽依は色々しってるんだなあ。さすがは都会の子。同じ柄のTシャツとかは恥ずかしいけど、そのぐらいなら敷居も低そうだ。
初夏まで着られそうな薄地のジャケットを羽依が選ぶ。俺なら絶対選ばないミントグリーンの色だけど、それが着てみると今の格好にとてもマッチしているように見える。これはもう羽依に任せとくのが正解っぽい。
羽依があれこれテキパキと選んでくれて、お値段も意外と安くてホッとした。
羽依も自分の服をいくつか試着してみる。正直どれも似合いすぎて決めかねる。
「これどうかな? シースルーだよ~。ちょっとエッチじゃない?」
首だけ出してシースルーの服を見せようとする羽依。さっき持って行ったスケスケのブラウスだよね!? 腕を出して見せつける。――透け感が半端ない。
「いやいや、それはちょっとやばいって!」
その後に試着室のカーテンをガバッと開ける!
「……中、着てるじゃないか……」
「当たり前だよ~! そのまま着たら露出狂だよ~! 」
けらけらと羽依が笑ってる。
「帰ったら裸の上から着ようか?」
なんて挑発的な発言をする羽依。やれるもんならやってみろ~! とも思うが、本当にやりそうなのが怖いので言わないでおこう。
やってることがバカップル状態だ。店員さんもくすくすと笑ってて、ちょっと恥ずかしかった。
結局、羽依はシースルーのブラウスとミントグリーンの薄地のカーディガンを購入した。
「次のデートで着ていこうね~!」
「あ、うん!」
次のデートと言われて、少し戸惑ってしまったけど、羽依はまた俺とデートしたいのかな? だとしたらメッチャ嬉しい!
帰りの電車も羽依は終始はしゃぎっぱなしだった。
いつも明るく朗らかな彼女だったが、ここまでテンション高くはなかったと思う。学校とはまた違った羽依の一面が知れて、なんだかとても嬉しい。
うちの近所の駅に到着したのは夕暮れ時、帰りにスーパーへ寄ることに。
「晩ごはん、なにか食べたいものある?」
俺がそう聞くと、羽依は「なんでもいいよ~」と返してきた。わりと困る返事だ。俺のセンスが問われる。
疲れた体には、やはり肉かな。昨日は豚肉のカレーだったけど、そこはお互い高校生。肉は正義! お肉が二日続いても問題ないね。
鶏肉、小松菜、豆腐に油揚げにヨーグルトを買っておく。羽依は何か必要なものあるかな?
「他になにか必要なものある?」
「ん~歯ブラシとか置いておいても良い?」
歯ブラシが2本置いてあるシチュエーションって何か同棲ぽくない? ドキドキしてしまうけど、断る理由もない。
「じゃあ買っていこう。また必要なものあったら買いに来よう」
スーパーを出た頃には、空は群青色に染まり始めていた。
街灯がぽつりぽつりと灯りはじめて、人気のない道を歩くと、少し心細く感じる。
俺が手を差し伸べると、羽依は自然な感じに手を繋いだ。一人で歩けば距離を感じる道のりだが、今日の出来事を話してるうちに、すぐ家に着いた。
「ただいま~」
俺が言うと羽依も「ただいまー」と続いてくる。なんかくすぐったいな。
「早速、晩御飯の支度始めるね……。ってどうしたの?」
羽依が俺のそばによってきて、俺の背中にぴたっとくっついてくる。今日一日歩いたからか、少し汗っぽい甘酸っぱい香りに、頭がクラクラする。抱きしめたい衝動が抑えきれない。
「蒼真は優しいよね。今日はありがとう。無理させちゃったかなって。こうして一緒に遊ぶとすごく楽しくて。テンション高すぎて変じゃなかったかな」
「羽依の新しい面が見れたのは楽しかったよ。クラスで一緒に話してるときよりも楽しそうに見えたからさ、そう言ってくれると嬉しいよ」
俺は我慢しきれず振り返り、羽依を抱きしめた。体から伝わる感触に、鼓動が高鳴る。羽依も俺の背中に手を回してきた。
少し長めの包容のあと、羽依は俺の首筋あたりでスンスンしている。
「――蒼真の匂いってさ、前から思ってたけど、なんかエッチだよね」
顔を赤らめてそんなこと言ってくる羽依。なに匂いがエッチって!?
「え?俺、そんなに臭う? じゃあ、先に風呂はいるね!」
臭いとか思われるのは、現代っ子の俺には精神ダメージでかすぎる。
「だめ! その、あれ、先にごはん! おなかすいたー!」
ああ、腹ぺこさんをなんとかするのが先か……まあ、嫌じゃないんなら仕方ないか……。
「すぐお風呂入るのなんて、もったいない……」
何やら羽依がぶつぶつと小さい声でつぶやいている。まあ聞かなかったことにしよう……。




