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10 決断

 門の前に着くと、いつも通り自動で開く。

 私はボスの部屋に急いだ。

 部屋の前にいる男が、扉を開く。私が入ると、すぐに閉められた。

 ボスは立ち上がって窓の外を見ていた。


「今日は呼んだ覚えはないが? ナイル・クレマーをやったとわざわざ報告しに来たのか?」


 ボスは振り返った。後ろから大きな月に照らされて、顔にかかる影が酷く不気味に見えた。


「いいえ」


 私は否定する。ウィルさんを殺すことなんてできなかった。


「では、俺をやりにきたのか?」

「いいえ」


 片方の口角を上げて笑うボスに、私は淡々と答える。

 ボスを殺そうと思ったことなんてない。


 ボスに拾われなければ、私は子供の頃に死んでいた。どんな理由であろうと、私が生きられたのはボスのおかげだ。


 スラムで死んでいたら、私はウィルさんにもレベッカにも会えなかった。

 人を愛するということ、人に愛されるということを知った。それだけで充分だ。


「私はウィ……ナイル・クレマーを殺すことができません」

「俺がやれと言っているのにか?」

「申し訳ありません」

「それならお前は何をしにここに来た?」

「ナイル・クレマーの所属組織を教えてください。カファロファミリーですか? ジーリファミリーですか? それとも別の組織ですか?」

「……なぜそんなことを聞く」

「マリーノファミリーにとっても街にとっても害のある組織なんですよね? 私が潰してきます」


 真剣な表情で見つめれば、ボスに鼻で笑われた。


「お前1人でか? 死にに行くだけだ」

「無謀なのはわかっています。それでも私は行きます」


 生きることに執着はしていなかった。もともとない命だ。ウィルさんがそれで生きられるなら構わない。

 ボスは呆れたような表情を見せた。この部屋の奥にあるボスの私室の扉が開く。

 私は目を見開いて、動くことができなかった。


「どう、して?」


 かろうじてそれだけ絞り出せた。ボスの私室から表れたのはウィルさんだ。

 なんでウィルさんがここにいるの? 敵対しているんじゃなかったの?


 私が混乱しているうちに、ウィルさんがこちらに歩いてきて、距離を詰められた。

 ウィルさんは私の隣に立つと、ボスに向き直る。


「お義父さん、約束を覚えていますよね?」


 お義父さん? ボスとウィルさんは親子なの? ウィルさんの家で見せてもらったアルバムにお父様が写っていなかったのはボスだったの?


 私は動揺しつつも必死に頭を捻った。

 ウィルさんがボスと親子なら、敵対マフィアとはなんだったのだろうか。ここが繋がっていたことで、何もかもが信じられなくなった。


 もしかして、私を試したの?

 私が誰であっても殺せるのか、1年かけてウィルさんの存在を私の中で大きくして。


「ああ、覚えている。ルシル、お前はクビだ。使えない暗殺者はいらない」


 ボスの冷たい声に瞼を下ろす。

 ウィルさんは私のことなんて愛していなかったんだ。私はレッグホルスターからナイフを引き抜く。


「今までありがとうございました」


 自分の喉を掻っ切ろうとしたのに、手が動かない。

 ウィルさんが刃を掴んでいた。ウィルさんの手から血液が滴り、絨毯に赤いシミを作る。


 私がナイフから手を離すと、ウィルさんは微かに笑った。すぐにナイフが床に落ちる。


「なんで? どうして?」


 どうしてウィルさんが私を庇うの? それに、私は躊躇なく喉を掻っ切ろうとした。それをどうして止められるの? ウィルさんは何者なの?


「ルシルごめん。全部説明するから聞いてくれる?」

「先に手当てをしろ」


 ボスが人を呼び、ウィルさんは連れて行かれた。

 私とボスだけが部屋に残る。


「どういうことですか? 私にウィルさんを愛させて、私を始末するつもりだったんじゃないんですか?」

「時間をかけて育てた暗殺者を、手放したいわけないだろう」


 ボスにとって私は使える存在だった? でもクビだと言われた。ウィルさんを殺せなかったのだから当然だ。


「あいつが話すと言ったんだ。戻ってくるまで座って待っていろ」


 ボスが顎で指したのは、応接セットのソファだ。

 そんなところに座れるわけもなく、私は立ち尽くす。


「座れ!」


 有無を言わせない口調に、私は恐る恐る腰を落とした。柔らかいソファに身体が沈む。極上の座り心地なのに、私は落ち着かない。

 頭の中で、なぜ? どうして? と疑問ばかりが浮かぶ。

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