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ようやく街に近づくにつれ、喧騒が徐々に大きくなっていく。
子どもたちのはしゃぐ声、車輪が石畳を叩く馬車の音、露店での値段交渉が高まる口論。これまでの静寂とはまるで別の世界に踏み込んだようだった。
足を引きずりながら街へ入る。頭の奥に鈍い痛みが残り、手の甲の烙印が脈打つたびに吐き気が込み上げる。それでも歩みを止めるわけにはいかなかった。今は、一刻も早く体を治さなければならない。
しかし街は無情だった。俺の手の甲を見るや否や、親は悲鳴を漏らし子どもを遠ざける。冒険者と思しき男は蹴り飛ばしてきやがった。仕舞いには大衆から石を投げられる始末。烙印はそういう扱いだった。
「チッ、覚えとけよ」
逃げるように入った裏路地で体力の限界を感じ座り込む。街には夜が降りてきていた。
身体中が痛い。手足が冷たい。
もう諦めようか。
そんなことを考えていた矢先、目の前に誰かがしゃがみ込む。
「ひどい怪我。今治療するから我慢してね」
重い頭を無理やり上げると、そこには一人の少女がいた。金髪のツインテールが似合う綺麗な金色の瞳を持った少女。
「やあ、お嬢さん。こんな時間にこんな所にいたら危ないよ。ママの元へ帰りなさい」
「あまりバカにしないでくれる?これでも一人前の冒険者なのよ?さあ手を出して。傷を癒してあげる」
少女は俺の手を取ると少し驚く。
「あんた烙印押されてるじゃない。どおりで傷の治りが遅いわけね」
「なんだ。驚かないのか」
「まあ、色々理由があるのは分かったわ。とりあえずその傷はこの場では治せない。一旦家に帰るわよ。さあ、私の背中に乗って。おんぶよ。おんぶ」
背負われるのはいつぶりだろうか。自分よりはるかにか弱い女の子の背に乗るのは少々気が引けたが仕方ない。もう自力で動けないのだ。
「ン〜。女の子のいい匂いがするナァ」
「はぁ!?何言ってんのよ!あんまりキモいと振り落とすわよ!?」
おっと心の声が漏れていたようだ。でもありがとう。痛みが少し和らいだ気がする。
少しすると街のはずれに入る。場所のせいかこんな時間だからか人一人いない。
「着いたわよ。さあ、もう少しだけ辛抱して。今薬持ってくるから」
繊細な手つきで彼女に治療を施してもらい、あろう事か寝床まで用意してもらった。
「何かあったら起こして。隣の部屋にいるから」
いつぶりの布団だろうか。
俺は礼を言うとすぐに眠りについてしまった。
翌朝、目が覚めると身体中の傷は和らいでいた。それでもまだ痛む体を起こしリビングに向かうといい香りが漂ってくる。キッチンには彼女が立っていた。
「あら、起きたのね。調子はどう?」
「絶好調だよ、マイエンジェル。昨日は本当にありがとう」
さあ食べてと用意してもらった朝食に舌鼓を打っていると彼女が問いかけてくる。
「そういえば名前をまだ聞いていなかったわね。あたしはリリィ。階位バース。見ての通り冒険者よ。あなたは?」
「俺はカナタ。階位アビス。元々はエンドだったんだけどな」
「…………は?」
この世界には階位と言うものがある。
簡単に言うとランクや等級のこと。各階位は、成長の過程や到達する境地を象徴している。
また、通常の階位に加えて異端階位が存在し、これは規定の秩序から外れた存在を表す。
全ての階位をまとめると
芽位(バース / Birth)
昇位(ライズ / Rise)
導位(アーク / Arc)
極位(エクシード / Exceed)
神位(ディヴァイン / Divine)
終位(エンド / End)
異端階位:堕位(アビス / Abyss)
と言った順になる。