CASE.1 吸血鬼 後編
7
港区内にあるアパートの一室に、桑島は急行していた。
外園麻実の部屋だ。
「……どういうことでしょうか?」
結城の声が、低く響いた。
死亡していたのは、しかし外園麻実ではなかった。
行方不明になっていた時田陽菜だ。
血液が抜かれていた。一連の吸血殺人で、まちがいがないだろう。
「どういうことなんですか……?」
結城が同じ言葉を繰り返した。
混乱するのもわかる。
危険があるかもしれないと思われていた外園麻実の部屋で、犯人かもしれないと疑っていた時田陽菜が殺害されていたのだ。
どういうことなのか?
結城でなくても混乱する。
だが、最も合理的な答えは一つしかない。
犯人かもしれないと思われていた時田陽菜が次の被害者となり、次に狙われるかもしれないと心配していた外園麻実が犯人だった。
「……」
桑島は、その自身の推理に違和感をおぼた。
「どうしましたか?」
結城に声をかけられて、迷いを中断した。
「この周辺は、パトロールを重点的にしていたんですよね?」
「はい。警視の指示もありましたし、一時間おきに地域課員が見回りしていたはずです」
保護を延長すればよかった──後悔が桑島を襲った。
「警視の責任ではありません」
表情から読み取ったのか、結城が言った。
犯行予告があったわけでもなく、明確に狙われていることがわかっていたというわけでもない。
警察は、VIPでもない人間にSPをつけることはしない。家に見張りをつけることもない。大臣にでもならなければ、ポリスボックスが設置されることはないのだ。
だがそれは、ただの言い訳であることを桑島は自覚していた。必死に守ろうと思えば、いくらでも手はあった。保護の二四時間ルールも、裁判所の許可があればそのかぎりではない。結局のところ、油断があったのだ。
守るべき対象がちがっていたとしても、外園麻実を保護していれば、この殺人はおこなわれなかった。
「外園麻実さんをさがしましょう」
「あの……」
「ん?」
「どちらですか? 危険が迫っている保護対象者なのか……容疑者としての手配なのか」
「両方を想定してください」
「……わかりました。捜査本部には、そのように」
報告をするために、結城は部屋を出ていった。この事件はまだ発覚したばかりだから、まだ初動捜査の段階だ。これまでの吸血殺人は、それぞれの都県で捜査本部がたっている。それを統括するのが、桑島の役目でもある。
結城は、その各本部に電話連絡をするのだ。
桑島は室内を見回した。まだ鑑識作業は終わっていなかった。本来ならそれを待つべきなのだが、鑑識員も桑島にたいする例外を認めている。
壁に貼ってあるポスターに眼がいった。
南の海らしきサンゴ礁でダイビングをしている写真だった。
「?」
一瞬、ここが殺害された時田陽菜の部屋かと錯覚してしまったのだ。
ダイビングが好きで、大島に移住したのは時田陽菜のはずだ。ただの偶然だろうか?
そこへ、結城がもどってきた。
「どうしました? なにかありましたか?」
そうとう難しい顔をしていたのか、結城に声をかけられた。
「外園麻実さんの経歴や趣味嗜好を大至急、調べてください」
「もちろん、やっています」
食い気味に結城は言った。容疑者となったのだから、桑島が指示を出さなくとも、刑事ならばそのように動くだろう。
しかし桑島の違和感は、焦りを生んでいた。
ポスターだけではない。部屋の本棚には、医療関係の書籍が整頓されている。
元看護師。ダイビング。
これでは、時田陽菜の人物像ではないか。
外園麻実は、時田陽菜のことは知らないと答えていた。こうして外園麻実の部屋で時田陽菜が殺害されていたということは、外園麻実が犯人ではなかったとしても、嘘をついていたことにはなるだろう。
「それと、血液型も」
「血液型もですか?」
「お願いします」
現場から警視庁にもどり、十分もしないうちに結城が報告に来た。
「警視……外園麻実のことでわかったことを言います」
どこか伝えづらそうだった。
「七ヵ月前まで看護師をしています。時田陽菜さんと同じ病院でした。時田陽菜さんの辞めた半年後に退職しています。その当時の同僚には、今度ダイビングをはじめると語っていたそうです……警視の指摘どおりです」
「血液型は?」
「AB型です。普通の」
稀血ではない。
つまり、そういう集まりに加わることなど、本来ならなかったはずだ。
「どういうことなんですか?」
それは、桑島にもわからない。だが、事件の犯行動機にかなり近づいてはいるはずだ。
外園麻実が、まるで時田陽菜の人生を追いかけているように感じるのは、気のせいではないだろう。
「二人の出身地はべつで、学生時代に接点はないと思います」
では、職場で知り合うまで、二人に面識はなかったというのだろうか?
いや、そうではないだろう。おそらく、外園麻実が病院に勤めたのも、時田陽菜を追っての行動だと思う。もしかしたら、看護師をめざしたこともそういうことなのかもしれない。
しかし二人に、幼いころの接点はない。
桑島は、生贄事件のことを思い出した。一見、関係性がなさそうな被害者たちをつないでいたのは、小学生のときに参加した子供会の旅行だった。
今回のことも、そういう盲点をついた関係性があるのかもしれない。
気になるとしたら、時田陽菜の知り合いの男性──事故で入院し、その後、死亡したとされる大森洋平だろう。
「大森洋平さんと、外園麻実さんの関係性は?」
「それは調べてません。調べますか?」
「お願いします」
その日のうちに、報告をうけることができた。
大森洋平と殺害された時田陽菜が学生時代からの友人であったことは知られていたが、高校二年生のときに大森洋平が転校生として時田陽菜の学校にやって来た。
転校前の学校が、外園麻実の高校だった。麻実と大森洋平は、小学校からの同級生ということらしい。
これだ。
桑島は確信した。
外園麻実が犯人だとして、その犯行動機だ。
「なりたい……」
桑島はいま、犯人の思想と同期している。
なりたい。この人に。
わたしが好きなあの人の心を奪った、この女に──。
転校していった男子が再び振り向いてくれるように、わたしはこの女になる。
一年遅れで看護学校に入り、看護師をめざした。そして、同じ病院に。
この女が看護師をやめた半年後に、わたしもやめた。ダイビングが趣味なのを知っていた。だからわたしもはじめたところだ。
いずれ大島に移住して、わたしはこの女になる。
……そんなとき、あの人が事故に遭った。
はやくならなければ……まにあわない。
どうすれば、完全にこの女になれるのか?
血だ。
血を全部この女と同じにしたら、わたしはこの女になれるのだ!
「……」
桑島は、その想像に震えた。
時田陽菜のことを調べ尽くしていた外園麻実ならば、稀血だったことも知っていた。そういう集まりに参加していたことも。
外園麻実自身も、血液型を偽ってその集まりに顔を出すようになった。いや、たんにSNS上のつきあいだけの可能性もある。
実際に対面するつきあいと、ネット上だけのつきあいは、さすがに濃密さがちがうはずだ。SNSの書き込みで、細かな血液型までは書き込まない人のほうが多いのではないだろうか。
だからこそ、手当たりしだいに稀血である女性を殺害していった。しかし外園麻実の望みは、時田陽菜と同じ血液型を手に入れることだ。
そして最終手段に出た。
時田陽菜自身の血を奪えばいいのだ。
「……」
この想像どおりだとして、いま外園麻実はどこにいるのか?
これからなにをするつもりなのか……。
本物の時田陽菜になるめ、奪った血液を体内に入れる。
結果は、死だ。
ちがう型を輸血すれば、当然そうなる。医療関係者でなくても、それぐらいは分別がつく。
だが外園麻実は、元看護師であるにもかかわらず、そのことすら理解できなくなっている。
まさしく狂気だ。
外園麻実を逮捕するということは、自殺を止めるという意味でもある。
なんとしても、ことをおこすまえにみつけなければ……。
「どこだ……? どこに向かう?」
狂気に支配された犯人が、最後に行き着く場所は?
出発点。
なぜ、時田陽菜になろうとしたのか?
その原点に足を運ぶはずだ。
それは──。
8
「本当に、ここなんですか?」
結城の声は、あきらかに信じていなかった。
暗闇のなか、懐中電灯を手に目的地へ向かう。そのほかの光源は、道路沿いにある街灯だけだ。時間が静止しているかのように、ポツンと闇を照らしている。
大森洋平の墓がある場所だ。
埼玉県に位置する小さな墓地だった。
外園麻実は、大森洋平の心を奪った時田陽菜になろうとした。ならば、大森洋平のそばで念願を叶えようとするはずだ。
「ですが警視……時田陽菜さんと大森洋平さんは、恋人同士ではなかったんですよ? なんで外園麻実は……」
意見するのを躊躇するように、結城は声をもらした。
「それが思い込みだろうと、彼女を狂わせたのは事実なんだ」
桑島の言葉にも納得はできないようだった。いや、そのほうがあたりまえだ。こんなことを理解できるわけがない。
「それに……もし時田陽菜さんになれたしても、肝心の大森洋平さんは、すでに亡くなっているんです」
意味がない──そう言いたいようだ。
「もう、そんな分別もなくなっているんだ」
「警視のあつかう事件は、いつもこんな……」
心底、恐怖を感じているような語調だった。
否定はできない。まだ経験は浅いが、自分にはこういう不可思議な事件があてられるだろう。そんな予感がある。生贄事件の専任になったときから、宿命づけられたことなのだ。
いくつもの墓石が並ぶなかを、慎重な足取りで前進を続ける。正気を失った容疑者が襲撃してくる可能性だってある。
いや、そういう思いで注意していたほうがいいだろう。生贄事件で学んだことだ。狂気に支配された犯人は、自らの欲望を満たすためなら、どんなことでもやってくる。
「あれ……」
ある墓の前に、なにかが散乱している。懐中電灯の光では、もっと近づかなければ全容は把握できない。だが、ほかの墓は整然と片付けられているから、ただゴミが落ちているわけではないだろう。
「気をつけて」
散乱していたのは、やはり想像どおりのものだった。血液が入っていたであろう医療パックだ。
「警視……」
結城は、信じられないといったような声をもらした。おぞましい予見が的中したことによるショックは隠しようもない。
そのとき、光のなかを影が横切った。
「危ない!」
桑島は、結城によって突き飛ばされていた。
地面に倒れた桑島は、ライトを照らして、状況を確認した。
それまで桑島のいた空間に、だれかが立っていた。その人物と結城が対峙している。
結城のライトとの加減で、シルエットとして眼にできるだけだ。人相などは、わからない。
が、外園麻実でまちがいないだろう。左手首にミサンガが確認できる。
結城は、ライトを持つのとはべつの手で、特殊警棒を取り出していた。
「凶器を捨てなさい!」
相手の顔に光をあて、威嚇する。
桑島は、急いで立ち上がった。
「外園麻実さんですね?」
「なに言ってるの? わたしの名は、陽菜よ」
襲撃者は言った。自身がおかしなことを口にしているという感覚はもっていない。心の底から、時田陽菜だと信じている。
「輸血しましたか!?」
「したわ。したから、なれたのよ」
危険な状態だ。精神的な状態のことではなく、身体的な意味だ。
ちがう型の血液だと、輸血反応が出てしまう。かなりの苦しみが体内を襲うはずだ。急性溶血性輸血副作用──命の危険もある。しかも時田陽菜から抜いた血は、白血球を取り除いていないはずだ。同じ血液型でも、取り除いていないものは輸血反応がでることがあるという。
「わたしは時田陽菜! なにか文句ある!?」
「はやく病院に行かなければ、あなたが危険なんだ!」
「ふふふ、なに言ってるの? わたしは順調よ。ほら」
外園麻実は、おどけたようにステップを踏んだ。
その隙に結城が取り押さえようとこころみるが、うまく後退して、それをかわした。
「わたしの邪魔はしないで!」
「なんの邪魔だというんだ!? これからあなたは、なにをするつもりなんだ……」
好きになった男性はもういない。実際になれるわけではないが、彼女の妄想のなかでは、輸血して時田陽菜にもなれた。
これ以上、なにをしようというのか。
「きまってるじゃない。これからよ。これから、本当の人生がはじまるの」
結城の照らす光のなかで、彼女の表情が恍惚におぼれていた。
「楽しいことが待ってるわ! スキューバもはじめて、大島で静かに暮らすの!」
「……外園麻実のままでも、それはできたことでしょう?」
結城の至極あたりまえの指摘に、彼女は侮蔑すような眼を向けた。
「ちがうのよ! わたしなんかのくだらない人間じゃだめなのよ! 時田陽菜という人間は、いつでも輝いているの! 光り輝いているのよ!」
結城の照らすライトを、人生の輝かしい光のように浴びている。
「外園麻実さんは、輝いていなかったんですか?」
あえて、輝いていなかった、と過去形で語りかけた。
「そうよ。外園麻実は、どんより曇っていたわ……いまの空のように」
夜空だが、たしかに月も星も見えなかった。いまが白昼でも、太陽は顔を出していなかっただろう。
「いえ、あなただって輝いていましたよ」
「なに言ってるの!?」
「自分の輝きは、自分では見えないだけです」
「そんなことないわ!」
「外園麻実さんにもどりましょう」
「いやよ!」
「大森洋平さんの初恋の人は、あなたでした」
その言葉で、外園麻実に動揺がはしったのはあきらかだった。
「捜査の過程で、それがわかりました」
結城が一瞬、え?、という顔になっていた。
「な、なにを言ってるの!? そんなはず……ないわ……」
「大森洋平さんは、あなたのことをずっと忘れられなかった」
「嘘よ……嘘よ!」
彼女は混乱していた。
結城と視線が合った。この隙をつくしかなかった。
二人で同時に取り押さえた。
桑島は前から、結城が背後から。
ジャケットを丸めて凶器を持つ手をからめとった。
想像以上の力で抵抗されたが、なんとか拘束することができた。凶器を取り上げて、結城が手錠をはめた。
凶器は、手術用のメスだった。
「く、くそ! だましたな!」
「だましたわけじゃない……本当だよ」
桑島は言った。
「……!」
外園麻実は、攻撃的に睨んでいた。
「大森洋平さんの写真です」
しゃがみこんで、それをみせた。結城がライトをあてた。
「あなたが、いまつけているのと同じミサンガをしています」
これは賭けだ。彼女のほうが、大森洋平の真似をしているだけかもしれない……。
大島で見た時田陽菜の写真にはついていなかったので、すくなくとも時田陽菜を真似たものではないはずだ。
「……これ、転校のとき、わたしがあげた……」
遠くから、サイレンの音が聞こえてきた。
「外園さん?」
光のなかに浮かぶ彼女の顔は、これまでの凶暴だが生気に満ちあふれたものから、疲労感の濃い、やつれた印象のものに変わっていた。
「外園さん!? 大丈夫ですか!?」
「わ、わたしがあげ……」
うわ言のように声を出すのがやっとの状態にまで、体調は悪化している。まるで、魔法が解けたかのようだ。いまのこれこそが、あたりまえなの状態なのだ。
応援のパトカーのほうがさきに到着したが、それに乗せることはなく、後続の救急車で搬送されていった。
外園麻実が事件について語ることは、二度となかった。
9
「まあ、このレポートをじいさんたちが読めば、それなりに納得はしてくれるだろうな」
佐野の辛辣な言葉が、狭い室内に響いた。
特特室には、そのほかに結城と牧村もいる。
「結局、どういうことになっちゃうんですか?」
このなかで唯一、警察官ではない牧村が、素朴な質問を口にした。
「被疑者死亡により、不起訴。聞いたことがあるだろう?」
「じゃあ、事件の真相は……」
「解明されることはなくなった」
佐野とのやりとりで、牧村の顔には納得のいかない思いがはりついている。
「そんな……何人も殺してるのに」
「だから、この男のレポートが生きるんだよ」
佐野は言った。
「これでジイさんたちが納得すれば、おまえはまた命拾いしたってことだ」
生贄事件では、実行犯を自害させ、主犯の男を海外に逃がしてしまったという失敗がある。それでも特別特殊捜査室が存続したのは、難解な事件の動機を解き明かした功績が大きい。
そして今回も、犯人は死亡……。
警察組織にとってその結末は、失態とみなされる。本来なら桑島は責任をとらされて、特特室は解散。もともと出世頭でもないので、地方の県警か他省への出向を命じられ、ほどよいところで肩をたたかれる。
警察官──もっといえば、警察官僚として命がつなぎとめられているのは、あつかった事件の動機を解明しているからだ。
「ここにいるみんなには、感謝しています」
「どうしたんだよ、急に」
「いや……ぼく一人では、捜査なんてできないんだから」
生贄事件のときもそうだったが、佐野のバックアップは非常に大きい。そして捜査の素人である桑島にとって、結城の存在も重要な意味をもつ。もし彼女がいなければ、今回も怪我を負ってしまったかもしれない。雑用をこなしてくれる牧村の気づかいも、桑島の仕事量を減らし、捜査に集中することができた。
「あ、もう一人いた」
雑誌記者の立花渚沙だ。彼女の情報がなければ、犯人にいきついたのは、もっとあとだったかもしれない。
「立花さんにも、礼を言っておかなきゃね」
佐野に言ったつもりだった。
「ん?」
佐野の反応は奇妙だった。
「立花渚沙さん。大学時代のカノジョだったんだよね?」
「だれのことだ?」
「え? いや……だから同じ大学の──」
「大学のころつきあってたのは、グラビアアイドルだ。同じ大学の女とつあきあったことはない」
知りたくもない情報だったが、それよりもどういうことだろう?
佐野が大学時代の恋人のことを恥ずかしがって隠そうとしているとは思えない。そんな性格ではないし、名前を聞いても本当に知らないようだった。
「記者の女性に、いろいろとぼくのことを教えたことはない?」
「そんなことするわけないだろう」
だが彼女は、ノマドという呼び名を知っていた。もともとは、佐野が言いはじめたことだ。
「本当に、おぼえはない?」
「ああ。どうしたんだ? その女性がどうかしたのか?」
急に不安がもたげてきた。
女難の相──。
ひよりからの電話が脳裏をよぎった。
「おい、誠一!?」
「ちょっとごめん」
心配そうな佐野や女性陣を残して、特特室を出た。
迷路のような廊下で立ち止まり、携帯を操作した。以前、受け取っていた名刺の番号にかけた。
『もしもし?』
「……立花さんですか?」
慎重に呼びかけた。
『あら、桑島さんね』
愉快そうな声だった。
「嘘を言いましたね?」
その声を聞いたら、まわりくどい駆け引きは必要ないと悟った。
『でも、役に立つ情報だったでしょ?』
「あなたは、何者なんですか?」
『それを簡単に知ってしまったら、おもしろくないでしょう?』
「……」
『ふふ、まだおもしろい事件は、はじまったばかりなんだから』
「……あなたはこの犯罪に、どこまでかかわってるんですか?」
ただのジャーナリストのわけはない。なにかの意図をもって桑島に近づき、事件のヒントをあたえた。
『それもふくめて、また会うことになるでしょう。そのときまで──』
通話は、一方的に切られてしまった。かけなおしても、出ることはなかった。
彼女の口ぶりからは、今回のような事件がまだいくつも続いていくような薄気味悪さを感じた。
「……これが、はじまりかもしれない」
こういう事件とかかわりあった覚悟を、ためされているような気がした。