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CASE.1 吸血鬼 前編

 夜は、翔ける。

 天の星々が囁き、ミミズクが夢を語る。

 豊穣の闇に、鮮血があふれるのだ。


       1


 桑島誠一の姿は、神奈川の片田舎にあった。

 横浜や横須賀を擁する神奈川県は、どうしても都会の印象が強い。もちろん東京にも奥多摩地方があるように、神奈川にもそういう場所があるのはよく心得ている。それでも桑島は、自分がどこにいるのかわからなくなるような感覚に襲われていた。警視庁本庁舎から、ここへ直行しているから、その思いはなおさらだ。

「だめです! 入れません!」

 規制線のなかに入ろうとしたら、制服警察官に止められた。

「警視庁の桑島です」

「警視庁?」

 当然、ここの管轄は神奈川県警になる。

「特別特殊捜査室なんですけど」

 警視庁刑事部特別特殊捜査室──五年前に十二人の少女を惨殺した生贄殺人犯を捕まえるためだけに存在する部署だ。

 所属しているのは、桑島一人だけになる。

「あ」

 制服警官は、桑島の顔を思い出したようだ。いまでは全国区の有名人になる。新たなる犯行をはじめた生贄犯を追い詰め、つい数週間前までは連日テレビに顔が出ていた。

 ある意味、警察組織にとって、最大の広告塔になっているといってもいい。

「ど、どうぞ」

 桑島は、規制線のなかに入った。

 村落のなかの、一軒。その家だけが、少し離れたところにある。事件が発覚してすぐに駆けつけたから、まだ捜査員と鑑識員が作業をしていた。

「あんた、だれ?」

 ぞんざいな声をかけられた。

 捜査員をしめす『捜査』の腕章をつけていないから、逆に目立つようだ。

「警視庁特別特殊捜査室の──」

 自己紹介をここでも繰り返そうとしたが、途中で気づいてくれた。

「ああ、うわさの『特特』さん」

 生贄事件のとき、神奈川県警とは接点がある。実行犯の一人である警察官が、神奈川県内のサッカー場で女性を二人拉致して殺害しようした。桑島によってそれは阻止されたわけだが、そのときに県警とかかわっている。

「そうです」

 桑島の所属は警視庁ということになるが、特別特殊捜査室の権限は、東京都内だけにかぎらない。生贄捜査のためなら、管轄はなかった。

 主犯の国外逃亡を許してしまったことにより、特別特殊捜査室の存続は本来ならなかったはずなのだ。いや、事件を完全に解決させていたほうが、お役御免になっていたかもしれない。皮肉にも未解決であることが、捜査室の寿命をのばすことになった。

 いまでは生贄事件のための特別捜査官ではなくなっている。同じような猟奇殺人、不可解な変死事件、動機が不明な難事件など──桑島のノウハウが生きるであろう事件が全国から押し寄せていた。

「ほかんとこでも、似たようなのが続いてんでしょ?」

 その捜査員の言うとおりだった。ここ神奈川だけでなく、埼玉、千葉、と続いている。

 発見された遺体からは、血液が抜き取られていた。吸血鬼殺人──そう呼ばれている。

「みせてもらえますか?」

「どうぞ」

 捜査員の許可をもらい、遺体に近寄った。生贄事件を経験しても、やはり慣れることはなかった。

 胃液が逆流しそうな衝動をどうにか抑えた。

「その首筋の傷が、致命傷のようです」

 正確には、傷から血液を抜いたことによる失血死だ。

 これで、三件目。

 まずまちがいなく、同一人物による犯行だ。

「マル害は、この家の主婦・磯崎真美、三四歳。夫と義理の両親といっしょに畑をやっているようです」

 過去二件の被害者も、女性だった。ただし年齢は、二四歳と四六歳であり、世代はバラバラだ。

「どうなんですか? 千葉と埼玉ですよね? 共通点はありますか?」

「遺体の状況は同じです。あとは、被害者が女性ということですね……」

 実際に生の現場に立ち会ったのは、ここがはじめてになる。あとの二件は、発覚から数日後に訪れただけだ。

「連続殺人なんですよね?」

「おそらく……」

 まだ絶対的な確証はないが、そう解釈しなければならないほど、三件の犯行は特異だった。

 血が抜き取られていることは、マスコミ発表されていない。模倣犯である可能性は、限りなくゼロに近い。

 その後、現場をひと通り観察して、桑島は東京にもどった。警視庁についたのは、もう日の暮れる時間帯だった。

 特特室に入ると、なにか異質な空気が漂っていた。

「おかえりなさい」

 予想もしなかった声がした。明るい女性のものだ。

「あの……きみは?」

 部屋にいたのは、事務職の制服を着た女性だった。

 正確には、警察行政職員という。警察官ではないので、捜査権や逮捕権はない。警察官のように警察学校には行くが、教わる内容はまったくちがう。

「あの、もし雑用があるようなら、これからはわたしに言ってくださいね」

 年齢は、二十代半ばの若い女性だ。メガネをかけているが、理知的な印象というよりも、可愛らしさが目立っている。

「広報課の牧村です」

 戸惑った顔をしてしまったのだろう。牧村と名乗った女性は、事情を語った。

「桑島警視が一人で大変だろうということで、支援する部署ができたんです。といっても、広報課のわたしが、自分の仕事に支障がない範囲で……なんですけど」

 それを部署と呼べるのか疑問だったが、桑島は笑顔で歓迎の意をしめした。

「なにかやることはありますか?」

「あ、べつに……」

 なにもなかったが、はっきりそう言うのもためらわれた。せっかく来てくれたのだから。

「だったら、お茶を入れますね」

「お願いします」

 すぐカップにお茶がそそがれた。

「どうぞ」

「ありがとうございます」

「敬語なんてやめてください」

 とはいえ、直接の部下だったとしても、いまのご時世では敬語を使うのが無難となっている。

「正直に言っておきますけど、べつにわたしはイヤイヤ来たわけではありません。自分で希望して来たんです」

「は、はあ……」

 牧村の熱量に、少し圧倒されてしまった。

「ほかにも希望者がたくさんいたんですから、それをわたしが勝ち取ったんです!」

「どうして……そこまで?」

 恐る恐る聞いてみた。

「なに言ってるんですか! 桑島警視といえば、いまや時の人です!」

「そ、そうなんだ……ところで、広報課って言ったよね?」

 とにかく話題を変えてみた。

「そうです」

「じゃあ、普段は広報活動をしてるんだ」

 捜査活動には関係しないが、ある意味、警視庁の顔ともいえる存在だ。可愛らしい容姿なのも、そのためだろう。

「あ、いえ……わたしは広報課の事務をやってます。広報活動をすることもないですし、ましてや表に顔が出ることなんてありません」

 見事なまでに推理がはずれた。

 そこへ、佐野が顔を出した。

「よ」

 管理官とは思えない軽い挨拶だった。

「あ、佐野警視」

「やあ、牧村さんだったね」

 二人は顔見知りだったようだ。おおかた、サポート役をつけるように裏で動いたのが、この男なのだろう。

「佐野警視も、お茶飲みますか?」

「いや、おれはいい」

 佐野は、真剣な眼になった。これで少しは管理官らしくなった。

「で、どうだ? どのタイミングで発表する?」

「本当に、ぼくの一存でいいの?」

「ああ。刑事局長からお達しがでた。うちの幹部連中でも、口出しはできない」

 佐野が言っているのは、吸血鬼事件の警察発表についてだ。

「また、あれをやれってこと?」

「光栄だろ?」

 前回の会見は、自己嫌悪でしかない。

「上も、生贄事件の実績があるから、おまえに全権をゆだねるんだ」

 それには少し、疑問を感じる。生贄事件の解明はできたが、犯人の一人は死亡し、主犯には国外逃亡されている。世間的には逃亡のことは伏せられているとはいえ、功績が認められたとしても、手放しで喜べることではない。

「とにかくいまは、三つの事件の関連性を考慮してみる」

「わかった。だが、時間はないぞ。まだ犯行が続くとしたら、それだけおまえの立場を危うくするんだ」

 覚悟をもって、桑島はうなずいた。


       2


 翌日は、被害者三人に接点がないかを重点的に調べた。

 千葉、埼玉、神奈川の被害者は、年齢がバラバラで、いまのところは「女性」ということしか共通点がない。

 二人目の犠牲者──埼玉で殺害された女性は専業主婦。三人目の神奈川の被害女性は、農家。ともに社会からは一歩引いている立場だ。

 もちろん、その考えが古臭いことは承知している。が、二十代で会社員をしていた女性のほうが社会とのつながりは強いはずだ。そのことから三人のなかでは、千葉県の被害女性を調べるのが良いという判断をくだした。

 社会とのつながりが薄い被害者から調べるという方法もあることはわかっている。そのほうが手掛かりは少なくなるが、情報を絞り込みやすい。しかし逆に、手掛かりがなにも出てこない可能性も多くなる。

 前回の捜査でも実感しているが、とにかく一人での捜査は、できるだけ無駄足を踏みたくはないのだ。

 千葉県の被害女性の名は、河野美紅。住所は成田市で、両親と暮らしていた。勤めていた会社は、やはり成田市にあり、食品加工業で、彼女は経理をやっていた。

 恋人はおらず、私生活は派手ではなかった。借金もなく、人から恨みをかうようなこともない。

 正直、読みがはずれていた。

 身辺を調べれば、なにかしら犯人へのつながりが見えるだろうと楽観視していた。しかしだからといって、落胆したわけではない。動機の解明が難しいのは、猟奇事件にはつきものだ。それを生贄事件で学んでいる。

 では被害者からではなく、犯行の特異性から推理を進めてみることにする。

 血液を抜かれている──。

 なんのために?

 殺害方法として失血死は、賢明ではない。手間がかかりすぎる。殺人を犯すのなら、それよりも簡単なものはいくらでもある。

 それでは、なんのためにそんな方法を選んだのか?

 単純に推理すれば、血液が必要だった。

 それは、なぜ?

 輸血? 普通に考えればそうだが、猟奇殺人者に普通の思考を求めても無駄だ。

 では?

 いまある材料では、ここまでが限界だ。

 とにかく、血液には意味がある──それだけしかわからない。そして意味といっても、われわれが想像できるようなものではないだろう。

 結論として、まだなにもわからない……ということだった。


       3


 千葉の被害者、河野美紅の自宅からの帰り道、桑島は声をかけられた。

「桑島警視、ですよね?」

 見慣れぬ女性だった。

「あなたは?」

 職業柄、簡単に身分を認めるわけにはいかなかった。逆に質問することで、ごまかしたのだ。

「わたしは、こういう者です」

 名刺を受け取った。『文省社週刊文省 立花渚沙』と書かれていた。記者のようだ。

 年齢は二十代後半で、化粧っけはないが、なかなかの美人だ。

「食品加工会社の女性職員殺害を捜査してるんですよね?」

「……」

「異常な死因だったということですが」

「……」

「やっぱり猟奇的殺人だから、桑島警視が動いてるんですか?」

「……」

「ちょっと、なんとか言ってくださいよ!」

 捜査情報だから話せないというよりも、わざわざ話す内容がないから無言を通したのだ。そもそもいまの質問は、すべて「はい」で答えられるものだった。ということは、彼女はこの事件のことを充分に取材している。

「こちらの情報を知りたいというよりも、あなたがぼくに伝えたいことがあるんじゃないですか?」

「……さすが、ノマドね」

「え?」

 桑島は驚いた。そのあだ名は、ごく少数の身近な人間しか知らない。最初に呼びはじめたのは、佐野だった。

「そうよ、佐野くんから聞いたの」

「佐野くん?」

「やっぱり、まったく知られてなかったんだ」

「?」

「わたしと佐野くん、むかしつきあってたから」

「え?」

 そういえば、大学時代には恋人がいたはずだ。

「ちなみに、わたしも同じ大学だからね」

 桑島は、彼女の容姿をじっくり見た。

 まったく覚えはなかった。

「まあ、あなたたちのようなエリートじゃないし、しょうがないか。あ、東大まで出てるのに、しがない記者なんてやってるのかって、バカにしてるでしょう!」

「いや、そんなこと……」

 それをいうなら、自分だってしがない警察官だ。いや、その表現は一般の警察官に失礼か……。

 だがキャリアとしては、あきらかに失敗している。官僚の感覚でいえば、一人で捜査活動をしているなどあってはならないことだ。捜査をするにしても、部下をともなっていなければならない。

「で、どうなの?」

 くだけた口調となって、彼女は取材を進めようとした。

「猟奇といえば、猟奇だね」

「ねえ、埼玉と神奈川でも発生してるでしょ?」

「どうしてそれを?」

 それには驚いた。それを知っているということは……。

「まさか……」

「ちがうちがう! 佐野くんは、そんなことしないわよ」

 佐野が捜査情報を漏らしたのではなかと桑島は疑い、彼女もそのことを察して、それを否定したのだ。

「こっちだって、真剣に取材してるんだから」

 佐野にも彼女にも、申し訳ない気持ちになった。

「ねえ、協力しましょうよ」

「捜査については……」

「そんな杓子定規なことを気にする人じゃないでしょう?」

「……」

「たった一人で生贄犯を追いつめた、型破りな警察官なんだから」

「べつに一人ではないよ。多くの警察官の力が──」

 桑島の言葉は、途中でさえぎられた。

「そんな謙遜は、いまここでは不要よ。わたしたちしかいないんだから」

 彼女をむかしの知り合いと考えれば、そうなのかもしれない。だが、マスコミの一人とした場合は、本音で語るわけにはいかない。

 いや、そもそもいま口にしようとした内容が真実だ。少しは自身の個人プレーがおよぼした力もあるはずだが、それは微々たるものだ。

「あ、そうか……もう一人いたんだったわね。あなたの女神様が」

 桑島は、ため息を吐いた。

 佐野は、どこまで話しているのだろう。たしかにそのことは捜査情報ではないが、個人情報の漏洩になる。

「あら、佐野くんからは少し聞いただけよ。これについても、ちゃんと取材してるんだから」

 それが本当だとしたら、すごい情報収集能力の持ち主なのかもしれない。

「たった一人、生き残った少女……」

 桑島は、釘をさすような視線をおくった。

「わかってるわよ。記事にはしない。女神様のことは、わたしの胸にとどめててあげる。でも、わたしだってなかなかやるってわかってくれたでしょ?」

 だから協力してくれ、と遠回しに言っているのだ。とりようによっては、脅迫のようなものだ。

「……」

「そんな顔しないでよ。あくまでもギブアンドテイクなんだから。その証拠に、まずはわたしから情報をあげる」

「どんな?」

 正直、まったく期待できなかった。

「千葉の被害者の血液型なんだけど、ボンベイ型なんですって」

「ボンベイ型?」

 血液型としてはO型に分類されるが、O型の亜種で『Oh型』と表記される。めずらしい血液型にはⅠ群とⅡ群があり、非常に稀なⅠ群のほうに分類されている血液型だ。

 インドのボンベイに多い血液型だということを耳にしたことがある。が、それが事実にもとづいたものなのか、都市伝説のようなたぐいなのか、桑島にはそこまでの知識はなかった。

 河野美紅がO型であることはわかっていたが、ボンベイ型ということまでは調べていないはずだ。盲点だった。

「どうして、そのことがわかったんですか?」

「ちょっとある筋からね。知りたい?」

 あたりまえのことを問われたので、少し不機嫌な表情になっていたかもしれない。

「じつはね、わたしもめずらしい血液型なのよ」

 RHマイナス、だと告白した。めずらしい血液型の代表例といってもいいだろう。

「まあ、厳密には『稀血』の仲間ではないんだけど」

 RHマイナスは、献血で充分な量が確保されているので、『まれな血液型』にはふくまれないそうだ。

「でも、幼いころから血液型に興味があったのよ。献血にもよく行ったわ。だから、いまではそういうネットワークをもってるの」

 どのようなネットワークなのか、その話だけでは理解しようがなかった。

「めずらしい血液型同士での集まりがあるのよ。もちろん、ちゃんとした団体とか組織じゃないわ。最初はそうね、献血に行って知り合うのよ。そういう人たちは、よく献血に行くから、顔見知りになりやすいの」

 そこから発展して、電話やSNSで交流を深めていく。

「で、わたしのそういう知り合いの一人が、千葉の被害者のことを知っていたの。それでね──」

 立花渚沙は、そこで少しもったいつけた。

「埼玉の被害者についても、そうじゃないかって」

「めずらしい血液型なんですか?」

「たぶん」

 それについては、あまり自信がないようだった。

「その知り合いがね、名前を見て、そうだと思うって。ちょっとした交流しかないみたいだから、断言はできないみたいだけど」

 埼玉の被害者の名は、戸倉幸江。血液型は、O型になっていたはずだ。

「もしそうだったとしたら……」

 また彼女は溜めをつくった。これが癖のようだ。

「神奈川の事件も──」

 そこで言葉を止めたが、その続きはおのずとわかる。

「ねえ、問い合わせてみたら?」

「? どこに?」

「稀血の人たちは、血液センターに登録している場合が多いのよ」

 なるほど、そういうことか。

「どう? 役に立ったでしょ?」

 それは素直に認めなければならない。

「はい」

「じゃあ、こっちにもなにか情報をちょうだいよ」

 だが、これといってしゃべることがないのが現状だった。

「まさか、なにもしゃべらないつもり?」

「……会見は、ぼくが主導でひらくことになってる。こんなんじゃダメかな?」

「いつやるの?」

「まだ決めてない」

 それすら桑島の自由だ。

「本当に、好き勝手できるのね」

 まるで、傍若無人にふるまっているような表現だった。しかし、よくよく自身のことを考えれば、たしかに自由業のような奔放さがある。捜査については、個人の裁量にまかされている。直接、命令をうけるようなこともない。はたして世の中に、このように自由な職種がどれほどあるのだろう。

「じゃあ、その会見にわたしも入れてよ」

「?」

 桑島には、よく意味がわからなかった。

 取材したければ、ご自由にどうぞ──そう考えていた。

 そのことを彼女に伝えると、難しい顔で睨まれてしまった。

「それ、本気で言ってるの?」

 それには、曖昧な表情で返すしかない。

「あのね、わたしのような雑誌記者は、警視庁でおこなわれる会見には参加できないのよ」

「え?」

「記者クラブって聞いたことない?」

 それならば、ある。

 警視庁記者クラブ。現在は三つ存在しているはずだ。大手新聞数社からなる七社会。民放テレビ局五社のニュース記者会。そして、NHKなどが加盟する警視庁記者倶楽部。

「新聞社かテレビ局じゃないと記者クラブには入れないのよ。入れないと、会見には出席できないの」

「でも、フリーランスの記者でも参加できるように改革がされてるんじゃなかった?」

「それは、ほんの一部よ。外務省とかね。警視庁は、時代遅れもいいところよ」

 そのヘンの事情にはうとい。

「あなたも佐野くんもキャリアなんでしょ。将来、そういうところを改革してよ」

 佐野はともかく、桑島にはその役割はまわってこない。それを自覚している。

「……立花さんが、会見に参加できればいいんだね」

「そうなるとうれしいけど」

 そんなことできるの? という眼をしていた。

「なんとかしてみるよ」

 会見の日程も決めていないのに、桑島はそのことを約束してしまった。


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