4ページ目【足音】
4ページ目【足音】
畳に敷いた布団の縁を四角に歩く足首が怖い。私以外誰もいない日に足音がする。めっちゃ怖い。
日記は今日も短文で涙で紙がガビガビ。このときはほんとにビビリ過ぎてトイレも妹か弟について行ってもらって、部屋の灯りをMaxにしないと寝れないくらい怖がっていた。
金縛りにあってからというもの、物音や気配にやたら敏感になり眠れなくて困っていた。
深夜まで意味のない夜ふかしをして、眠気が押し寄せるまで寝付けない。寝入る瞬間が幽霊が出そうで一番怖かった。
ある日の寝入る瞬間。水の中に突き落とされたようにだんだん音が遠くなって、真っ暗になって意識を手放すまでがいつものパターンだけど、今回はおかしかった。
和室だったので畳の上に布団を敷いて寝ていた。ぎしっ、ぎしっ、ぎしっと人の足音がする。
部屋には同じく隣に妹が寝ているけれど、凄く重い大人の足音がする。
歩く度にシャリンシャリンと何かを引きずる金属音がするし、足をずりながら踏みしめる音が私の布団を四角にぐるぐる回っている。今回も扉の開閉音が無い。
はい、これは父母じゃない。霊だ!
覚悟した私はたぬき寝入りを決め込む。いつ金縛りにあってもいいようにトイレは済ましてあるのだ。
早く何処かに行ってよ。怖いものは怖い。金縛りは来るか?とかまえていたが、一向に来ず。
ひたすらズリッ、シャリン、ズリッ、シャリン、何回も布団の縁をぐるぐる回る音が聞こえてきた。
何の儀式なの?何かを召喚するの?もういい加減私が飽きてきて。バレないようにドキドキしながら薄目をあけた。
ちょうど横向きに寝返る振りして目線の先に足音がしたから目を開けたら、びっくりしすぎて声が出そうになった。
土で汚れためちゃくちゃ汚い男の足首があった。足首から上は無い。ただ足首のみ。
足首って言ってもすねの途中でスパンと切れた足首だから、微妙にもじゃもじゃのすね毛が見える。
幽霊って足が無いんじゃ無かったの?逆とか有りなの?
しかも幽霊なのにすね毛とか、死んでるのにやたら生々しいじゃないか。
しかし、金属音は何なんだろう。鎧を揺すってぶつかり合う音のみたいな気がするし、この土地はあちこちに落ち武者伝説が多いみたいだし。やっぱり落ち武者説が有力か。
じっくり見たら気付かれそうなので寝た振りをずっとしていたら、そのまま寝落ちしたらしい。
朝、隣に寝ていた妹が不思議そうな顔をして首をかしげながら私に言った。
「お姉ちゃん、なんで夜中ぐるぐる回ってたの?」
妹には、私がぐるぐる部屋の中を回っていた事になったらしい。妹が、私に輪をかけて怖がりなので、真実を言うわけにはいかない。
「…寝ぼけてたみたい。ごめんね。」
無かったことにしておいた。
足音で思い出した。ある日の昼にひとり留守番していた。二階の部屋でMDに録音した音楽を少し小さめに鳴らして聞きながら友達に借りたマンガを読んでいた。
突然、階段を駆け上がる足音が聞こえた。
タッタッタって凄いダッシュ。
音楽を聞きながらでも聞こえてくる足音に、妹が忘れ物でもしたのかな?焦ってどうしたんだろうと思って扉を開けるのを待ってたが、足音が扉の前でピタリと止まった。
あれれ、おかしいな。なんで開けないのかな。と思っていて疑問に思っていると、
あれ?そういえば玄関開けると音がしなかった。鍵をガチャっと開けると音もしなかった。
マズイ、何かが扉の前に居る。
明るい真昼なのに、あったかい春の日なのに、背中がゾワゾワ悪寒がする。小さめに鳴らしてた音楽がひどく小さく聞こえる。代わりに心臓が耳の近くで鳴ってるみたいに大きく聞こえる。
これは絶対開けちゃダメなやつだ。
小学生の時に教室の本棚にあった、怪奇恐怖大全の本に書いてた気がする。
「ドラキュラなどの妖怪は自分で扉を開けられない。
人間が存在を認めて、扉を開けない限り入ってこれない。」
当時は、そんな謎ルールあるんだ。へえー。としか思ってなかったけれど、今、眼の前で起きている。
絶対開けるわけにはいかない。部屋の時計は昼の三時、何も音がしないまま十五分経った。
十分位待って開けてみようかとやたら遅く感じる時計の針を見つめていたら、鍵を開ける音が玄関からした。
「ただいまー。」って母親と妹弟の明るい声が聞こえた。
フッと扉の前の気配がきえた。私は胸をなでおろしたのだった。