11ページ目【クローゼットの霊】
11ページ目【クローゼットの霊】
子供部屋にはクローゼットがある。高さと奥行きがあって、長いコートは備え付けのバーにかけ、収納ケースや子ども箪笥などの中にそれ以外の衣類を入れていた。
クローゼットの蛇腹式の扉は新しいのに立て付けが悪く硬い。ぎいぎいと腕に力を込めて開けないとゆっくりとしかあかない。
ある時、ロングコートを取ろうとクローゼットを力ずくで開けると、男の子が座っていた。
頭に紺のベレー帽を被って、紺の学ラン、短パン、ランドセル姿の低学年くらいの男の子だ。どれも真新しくて、デザインが全体的に古く感じる。
頭を下げてうつむいてたから私はびっくりして飛び退いて尻もちをついた。驚きすぎたら声は意外とでない。
しゃがむつもりはなかったけど、尻もちついたからその子とスーッと目線が合う。霊なのは確実だから恐ろしい顔だったり血まみれだったらどうしようとおもったが、ものすごく白いだけの整った顔の少年だった。
「何だ普通の子か、どうしたの?」
拍子抜けしたのか、幽霊なのに普通に声をかけてしまった。
向こうも驚いた顔をして
「…死んじゃったの。」
会話が成立すると思わなかったから、返ってくると思わなくて。
「そうなの。」と普通に相槌打ってしまった。
それから、ぽつりぽつりと学校から帰ってきたらお話をするようになった。
妹や弟がいるときは全く現れない。自分がいるときだけひっそりそこに膝を抱えて座っているおとなしい子だった。
「他の霊は見えないの?」と聞くと
「会ったことない。」という。こんなにいろんな怪現象に出くわすのにこの子は他の霊に会ったことが無いという。不思議な話だ。
この家で住んでから初めてこんな穏やかな霊が居るんだと思ったし、気になる事も聞けば、この子は頭がいいのかスルスル答えてくれる。
友達になるのにそんなに時間はかからなかった。
仲良くなったからって言って、生気を吸い取られないし、カッパみたいに尻子玉を抜かれるわけでもない、人畜無害な子だった。
話を聞くと小学校には病気で数回しか行けなかったと言ってた。学校以外は、お家で休んだり通院したりがほとんどで、だんだん体調が悪くなり入院が長引いた後に亡くなったらしい。こんな小さい子も霊になってしまうなんて儚いなとおもった。
いない日もいる日もまちまちだけど、その子を見つけてからはクローゼットのなかに後向きにぶらさかってる別の霊をみなくなった。
怖い奴より怖くない奴の方がいいから、クローゼットの中に居るのはずっとこの子でいいと思った。
人間にも善人悪人がいるように、霊にも善人悪人が居るようだ。