10ページ目【一度だけ父が見たもの】
10ページ目【一度だけ父が見たもの】
霊を見ない、感じないお父さんが
「見えないものは怖くない。馬鹿げてる。」と得意げに言っていたけれど、ある日を境に何も言わなくなった。
私達が昨日の夜あんなのを見たこんなのを感じた。と言っても父は話に加わらずスルーするようになった。
しばらく様子がおかしかったので、母に聞いてみると夜中に霊を見たらしい。
ある日の真夜中の二時くらい、いきなりインターフォンがピーンポーンと鳴った。私達きょうだいは二階で寝ていたので気づかなかったようだが、母はチャイムの音で起きて、父をゆすって起こした。
霊も怖いけど、酔っぱらいや不審者、空き巣なんて人のほうが怖すぎるので父に対応してもらおうと起こしたようだ。
「ピーンポーン、ピーンポーン、ピーンポーン…」
それから数回のチャイムがなったとき、父が近所迷惑だししつこいなとインターフォンのモニターが光ったので見てみると画面が全面黄色だった。
最初壊れたかと思ったのだ。
モニターの黄色一色が縮んでいく。黄色い帽子だろうか、外のカメラのライトに照らされてぼんやり小学生の男の子がかぶるような学童帽子が浮かび上がる。
父が恐る恐る
「どちら様ですか?」と聞いたら、学童帽子の頭の天辺らへんから、だんだん帽子のつばの部分へ、それからつばのしたで陰っている顔の部分が次第にライトに照らされて、男の子の顔が照らされたと思ったら口がニターっと開いた。
子どものいたずらだと思った父は、走って玄関の戸を開けた。
説教をしようと外に出ると、そこには誰もいないただの暗闇だった。
モニターにつながっているカメラの前は真っ暗で、見渡しても遠くに街灯がぼんやり光るだけ。人っ子一人いない。
もし近所の子だとしたら、走り去る音も、家に帰って扉を閉める音すらしない静けさ。
父は怖くなってすぐ戸締まりして母に短く、
「誰もいなかった。」と言って布団にくるまって寝たそうだ。
次の朝、母が昨日詳しく話を聞くと件の話を真っ青な顔でぼそぼそとしたようだ。
父はそれ以来一度も変なものを見なくなったようだけど、怖がる私達を馬鹿にしなくなった。
それからだったかな、夜中になると空耳かそれとも実際になってるのか「ピーンポーン」って音が聞こえるようになった。
お父さんの話を聞いてから、もし外にでたら恐ろしいものに出くわしそうな気がして深夜のインターフォンには誰も出なくなった。出てもろくでもないはず。と。
毎晩のように聞こえるので耳が慣れてしまい、また来たかぁ〜。からの、そういや鳴ってたなーくらいの無関心の域に到達するまでそんなに時間がかからなかった。いや~慣れってすごいですね。インターフォン切ればいいじゃないと思うでしょう?切ったらまた毎日朝つけなきゃいけないでしょう?正直母はめんどくさかったみたいでした。