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第1話 突然の異世界はないもの尽し!?

 気がついたらそこに、森があった。


 少し前の記憶では、家に帰ってきて、大学の先輩や友達と週末に行くキャンプの道具をるんるんで鞄に詰めたりしていた。

 そして、いつも通り布団に入って電気を消して、スマホでキャンプとかの動画を探して、みているうちにだんだん眠くなってきて寝たんだけど……。

 気がつくと木漏れ日が少しだけ射している森の茂みの中に倒れている。

 上体を起こし、森の茂みの奥に目を向ける。

 木々には紫色の(こけ)(しげ)っている。

 茶色いツタのようなものがそこら中の木々からつり下がっている。

 キノコっぽいものあって、どれもぼんやりと光っているように見える。

 これが、これが異世界転生。

 見た目にもすぐにここが元居た世界ではないことはわかる。


 定番の誰かを助けるためにトラックに轢かれ、たりはしていない。

 神様のミスで死んだからセカンドチャンス!とかでもない。

 そもそも神様には会っていないもの。


「もしかして、忘れてしまった……とか?

 それか入れ替わった?」


 神様に会ったこと自体を忘れさせられたのだとしたら、まだ望みはあるかもしれない。

 それか、異世界人と魂や記憶が入れ替わってしまったとか。

 でも、それまでの記憶が一切ない。

 私がこの森に横になってるのはどうしてなのか全く分からない。

 当然スキルとか特性とか耐性とかその辺の何かが与えられているのか、そもそも与えられていないのかもわからない。

 聖なる力を持っているような神聖な感じも特にしない。

 女神様の声が聞こえたりもしない。

 本当に何の前触れもなかった。

 もしかしてただの夢?

 とりあえず、異世界っぽいし、"例のアレ"やってみようかな。


「ステータス オープン」


 ……。


「あ、れ?

 オープン ステータス?


 ビュー パラメータ?


 インベントリ?


 メニュー!


 アビリティ!鑑定!


 大賢者!


 ライブラリ!」


 ……。


「おかしい。

 異世界転生ってステータスとかスキルとか見れるんじゃなかった??

 鑑定スキルとかいろいろ持ち合わせているものかと思ってたんだけど。


 それとも、呪文とか何かが違うのかな?」


 でも、見えないものは見えない。

 見方が分からないのか、この世界にはないのか。

 自分のステータスがどんなものなのか、ちょっと興味があったんだけどなぁ……。

 ジョブとか適性とか、パッシブスキルとか……。


 ぐぐぅ~……。


 はしたないが、お腹が盛大に鳴ってしまった。

 どうやらお腹は空くらしい。

 お腹を(さす)りながら周囲を見回してみる。

 近くに誰かがいるような気配もないし、誰にも聞かれなくて良かったという羞恥心からくる安堵が半分。

 もう半分は、異世界に来たら異世界の住人が出迎えてくれて色々と物資をもらえる、という甘い期待を打ち砕いた落胆が占めている。

 食べ物や飲み水など、自分一人で探さないといけない。

 こんな未知の場所に独りなら、早く取りかからないとまずいかもしれない。

 これが夢なら、早く覚めてください。


 気を取り直して、昨日動画で見ていた人は、サバイバルならまずは水分を摂取する必要があって、なんでも24時間水分を口にしないと、判断力が低下して、精神も不安定になり、その後の状況判断能力も著しい悪影響が出て、ついでに幻覚もみてしまうと言っていた。


 それから火。

 肌寒くなってきたときに暖を取ることはもちろん、運よく食料を確保しても、火がなければ適切に調理ができないから、そのまま食べるしかなくなる。

 生のものを食べるのは危険極まりない。

 いくらお腹が減っていても、熱を通さずに不用意になんでも食べてしまうと、腹痛や下痢などに襲われたり、無毒化できてなくて最悪死んじゃうかもしれない。

 胃腸薬などもなく、何が安全かもわからない。

 せめて十分に焼いてから食べるのが、生き残るためには最善らしい。

 火があれば調理して安全な食事を行えるし、火があれば煙で虫が寄ってこないし、猛獣の類も鼻が利くので近寄らない。

 森や林で安心した寝床や安心した食料を確保するためには火が必須というわけだ。


 まずは水と火!

 を手に入れないとなんだけど……。


「ここ、異世界なんだよね……?


 火とか水とか、そもそもあるのかな?

 そこから確かめないと」


 アニメとか小説で出てくる異世界では、当たり前のように存在した水や火。

 しかし、今の自分がいる所に当たり前が通用するのかは、実際に確かめてみないことにはわからない。


 改めて周りをよく見てみる。

 木が生えているし、草も茂っている。

 色とか、光ってる感じとかは、ちょっと異世界感あるけど、一応植物だよね?

 そうとしか見えない。

 植物は水があるところに生えるはず。

 だから、探せば近くに水源があるのかもしれないし、地下水があるのかもしれない。

 もし地下水が豊富なら、井戸を掘ったら水が出てくるかもしれない。

 でも、今は地面を掘る道具は持っていない。

 地下水を探すのは無理。

 じゃあ、探せるのは水源の方。

 近くで水の音がしないか耳を澄ましてみる。


「近くに川とかはないのかな。

 風が木や茂みを揺らすような音しかしない……。


 あ、そうだ」


 そういえば忘れていた。

 草とか木とかに露がついていたりしないかな?

 それか、ストロー状の草とかがあれば、手折って水が垂れてくるかもしれない。

 飲み水にはならないけれど、水があるかないかくらいならそれで確かめられる。


 露は朝早くの時間とか寒暖差がある時に、植物表面と空気の温度差によって、大気中の水分が結露してつくものだって、学校の教科書に書いてあった。

 ざっと見たところ、露がついていそうな植物は、無さそうね。

 茎が円筒上の植物が周りにないかさらに見回して探してみる。


「これとかどうかな?

 茎が丸くて軽いから、もしかしたら中身が空洞かもしれない」


 円筒状の植物は乾燥しすぎていない所に生える。

 とくにストロー状の植物は乾燥に弱く、川や池、湖や湿地の近くに生えることが多い。

 それか、雨がよく降るところや、水はけの悪いところの近くだ。

 いずれにしても、ストロー状の植物があれば、水源を見つけたり、水の確保が簡単な場所を見分けられるということになる。

 稲とかススキとか葦、猫じゃらし、麦なんかが代表的だ。

 麦わら帽子が英語で| Straw Hat 《ストローハット》というのは、麦や(わら)がストローみたいな中身が空洞の細長い形状をしていることからきている。


 近くに生えていた細長い葉と茎の植物を手に取り、茎の部分を折ってみる。

 すると、中に空洞があり、根元の方は湿っていて、水分のようなものが確認できた。


「水はあるのね。


 じゃあ、次は火ね。

 それなら……」


 目を(つむ)り、精神を集中してイメージを固めて、手を前に突き出し、その先に球体をイメージする。

 イメージが完成し、目を見開き叫ぶ。


「ファイヤーボール!」


 ……。


「ファイヤーボルト!」


 ……。


「ファイヤーアロー!」


 ……。


「ふぁ、ファイヤー!」


 …………。


「我が魂の深淵より生まれし業火よ……

 我の呼びかけに応じ現世へ顕現せん!

 魂の煌めき!

 ()でよ!エクスプロージョン!」


 ……。


 …………。


 何も起こらない……。


 ……。


「……くぅぅっ!

 やっぱ魔法とかもないのね。

 それとも私が使えない系なだけかしら?

 こんなに異世界っぽい見た目なのになんでよぉ……。

 私も、片目の眼帯とかして高位爆炎魔法とか撃ちたかったなぁ……」


 自分に魔法的な何かが宿っていないことに、いつまでもショックを受けていてもしょうがない。

 もし爆炎魔法が撃てていたら撃てていたらで、大惨事な上に自身の魔力が尽きて動けなくなって万事休すである。

 できないものはできないと割り切って、火は原始的な方法を試すしかないみたい。

 幸い、ストロー状の植物と、小枝とかは沢山ありそうだから、小枝に植物の弦を編み付けて、弦式の発火器具を自作できそうだ。

 錐揉み式の発火方法よりも体力も使わないし、成功率も高い。

 火は何とかなりそうなので、あとは飲水を確保しなくちゃいけないから、水源を探しつつ、枝や乾燥した葉とかを拾って準備しよう。



 こうして、私の異世界での、魔法なし、道具なし、記憶なし、仲間なし、神様の加護なし、チートなし、ないもの尽しの過酷な暮らしが幕を開けたのだった。

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