家事男子の言葉に頷きながら。
※モラハラ・配偶者軽視発言が出てきます。
モラル・ハラスメントにトラウマを持っている方は、閲覧をお控え下さい。
作者にそれらの発言を、助長・擁護・推奨する意図は一切ありません(なので念のためR15)
※登場人物・お話はすべて架空のものです。
作中人物の名前は、作者とは一切関わりありません。
ふっふっふ……今日は休日なのにランチに来てしまったわ……。それもそうなる。
デスマ明けで、冷蔵庫が空っぽなのを忘れていた私は、デスマ乗り切りご褒美として、ランチに来てしまったのよ!
え? 冷蔵庫が空っぽならスーパーに行けって? うちの近所にそんな気が利いてる店は無い!
会社近くの方がスーパーあるから、会社が休みの日は食材のお買い物に行かないのが、私の方針である! いや、ごめん。めんどくさいだけ。
ゆーっくりとスマホ見ながら珈琲飲んで、くつろいだ後にカフェランチを堪能するため、お昼より早く来ているのだ。
「んで、相談ってなんだよ? わざわざ会社のない日に呼び出して……」
「いや、ごめん。実は嫁にブチギレられてさ、いま子供と実家に帰ってるんだ。電話も出てくれねーし、メッセージも未読」
カフェに来るといろんな話が、雑多に聞こえてくる。
相談ごとだったり恋バナだったり。
「お前が嫁にキレられるのなんて、いつもの事だろ」
「主任、もっとオキシドールに包みましょう!」
「それを言うならオブラートだ」
後ろの席は男性3人組かな?
オキシドールに包むと言うと、傷口を大事にしてるのか痛みを与えたいのか、わからないね。声的に若いから、オブラートが出てこなかったのかな?
周りが使っているから、なんとなーく語呂感だけ覚えちゃうアレ。
「んで、黒林くんは何をやらかしたー?」
声だけでもわかる。主任くんは、絶対ニヤニヤしながら訊いている。
「何もしてないから、困ってるんだよ」
「黒林先輩……。それ『何もしてないから』ブチギレられたんじゃないんです?」
お? オキシドール君なんかツッコミしたぞ? 先輩に物怖じせず発言できるってすごいね!
「は? どういうことだ? 何もしてないなら、何も起きないじゃんか?」
「先輩自身、家事してます?」
「してるよ。ゴミ出し」
あ、ゴミ出しが真っ先に出てくる時点で、ダメな予感がする。
「それって、ゴミ集積所に『運んでいる』だけですよね?」
「いや、ゴミ出しだから、そうだろ?」
「何言ってんスか。家中のゴミを、きちんと分別した状態で集めて、燃えるゴミの日は、排水溝や三角コーナにある生ごみも汁漏れがしない状態にして、かつ三角コーナや排水溝とかの掃除までやって、初めてゴミ出しの1から10までなんスよ」
「え? なにそれ……めんどくさくね?」
おぉ! オキシドール君わかってるねぇ。
そうそう。ゴミ出しは、出せる状態として出来上がった袋を運ぶだけじゃないんだよ。うんうん。
「そのめんどくさいを、奥さんにやらせてるのがお前だろ」
主任からもツッコミ! 主任も家事のわかる男なのかなぁ?
「いや、だって嫁、主婦じゃん。働いてるっつっても所詮パートだし。俺の方が稼いでいるし、養ってやってるんだから、家の事すんのはフツーだろ」
お、ここで来ました! モラハラ夫、伝家の宝刀『養ってやってる』です!
しかも『所詮パート』扱い!
これ、言われたこと無いし、言われる相手いないけど、言われたら、フルスイングびんたブチかます自信あるわぁ。
「お前なぁ……その『所詮』とか『養ってやってる』って考えやめろよ。奥さんは、お前の『生活の面倒見てやってる』んだから」
「いやいや、何言ってんだよ。金を稼いでるのは俺だ。金がなければ生活も出来ないだろ」
こいつ……バカなの? 千円札が動いて、ご飯作ってくれたり、洗濯物畳んでくれるわけじゃ無いのよ!
「先輩……『養ってやってる』ってのは、奥さんが家事をする必要がない状態で、初めて言っていい言葉ですよ?」
オキシドール君、声がちょっと低くなったぞ。イラッときたか?
「は? 何言って……」
「家の掃除やご飯を全て外注で済ませて、奥さんはパートに行く必要もない状態で、育児に専念できるなら、その言葉もアリかなと思いますが、家事のためのお手伝いさんを雇っているわけでもないっスよね」
おぉ、食い気味ワンブレスでガーッと伝えた! 何か思うところがあるのか?!
「家事なんて嫁がやれば良いやつじゃん。お手伝いさんなんて金の無駄だし、何のための嫁だって話だろ?」
かーーっ! 嫁を金を稼いでくる無料家政婦扱いかぁ? この黒林、マジでモラハラ夫じゃんか!
家事なんてって、かるーくみてるくせに、てめーはやってねぇだろーが! ハッ、熱くなっちゃった……。
「家事を担っているのが奥さんなのに、養ってやってるってドヤ顔で言うのは違いますよ。先輩のアホみたく散らかったデスク見ればわかりますけど、家の片付けしませんよね?」
オキシドール君、いけいけー! シラフでズバズバ言えるなんてすごいぞー!
後輩にアホみたくと言われるほど、デスク汚いのか……黒林よ……。
「デスクはアレだけど、仕事はちゃんとしてるじゃねぇか」
「お前なぁ……。だらしない奴に教えてもらっても、本当なのか疑わしいモンだぞ? だからコイツ、お前に仕事のこと聞かないだろ」
「え、そうなの?」
「あ、ハイ」
うん、だらしない状態が目につくと、他もそう思われるのよね。黒林の自業自得だわ。
「んで、そんなだらしなさマックスの先輩は、お家の細かな片付けもしてなさそうっスよね」
「それは、おれもそう思う」
オキシドール君と主任からダブルパンチきたー!
どうでる? モラハラ黒林!
「いや、ちゃんとしてるし……」
「ホントか?」
言葉尻がよわいぞ、黒林! そして主任から疑いの声! さぁ、次の一手はくるのか?!
「いや、先輩の片付けって片付けじゃないんですよ。『置いてる』だけなんス」
次の一手はオキシドール君からの追撃だぁ! って、何ワクワクしてんだろ、私。
いや、でもこれ、モラハラ野郎を成敗して欲しいって願望からか、つい耳を傾けちゃう。
「共有文具のハサミとかカッター、先輩は取り出した場所に戻さないですよね。い・つ・も!」
「は? 棚の中に戻してるだろ」
「ハサミの場所は棚の中の、左のボックスにある、上から2番目の引き出しですよ。先輩が使った時いつも、そこに戻ってる事ありません」
あ、ここがチャンスと言わんばかりに、普段の鬱憤晴らしてるのかな? 応援するぞ、オキシドール君!
「事務さんから注意されても、ヘラヘラ笑ってわりぃわりぃって言うだけで、全然覚えないし改めないっスよね」
「うぐ……」
あー、うちの会社にもいるなぁ。絶対に元の位置に戻さない人間。
元の位置に戻すと死ぬの? って訊きたくなるくらい、絶対に戻さない。あれ、何なんだろ。
「家でも食器とかを片付ける時、元あった場所ではなく、棚の空いているところに、置いているだけっぽいなぁと思いながら、元の位置に戻してるんスよ」
「いや、お前先輩に向かって――」
「お前が悪くて、注意を受けているんだぞ? そういうだらしない面に、奥さんが嫌気をさしたんじゃないかって事だ」
うわぁ、休日にも社内身分持ち出すとか、マジでクソだわ。
「いや、棚の中にあればわかるじゃん?!」
うわ、雑な発言! 片付けの意味わかってんの?
「それじゃあダメなんですよ。先輩ハサミ取り出す時、迷いなく引き出し開けますよね? なのに、その場所に戻さないのって、嫌がらせっスよ?」
オキシドール君、きっと被害にたくさん遭ってるな……。
「取り出しやすい位置や、片付けやすい位置を、普段片付ける人が決めているんスよ。それを崩してイイのは、片付けをする人間だけっス。そしてそういう人は、移動したらみんなに伝えるもんなんスよ。」
「だな。おれだって妻に家事をほぼ任せている分、自分が何かをする時は、知らない事・記憶が曖昧な時は確認するぞ。そうやって、家の中のものを把握していかないと、スムーズに手伝えないからな。妻も何かの場所変えたら、聞く前に教えてくれるし」
おぉ、主任の家庭仕事は、自称お手伝いとはいえ、協力している印象だ!
「ハサミと皿は関係ねぇだろ、嫁からそんなの言われたことねぇし!」
「奥さんは、きっと何度も言ってたと思うぞ。けど、お前が改めないから言っても無駄だなって『諦めた』はずだ」
うちのとーちゃんもそうだったなぁ。かーちゃんに言われても、その場で返事だけ。謝らないし繰り返す。
あぁ、黒林はとーちゃんに似ている面があるから、腹立つのか! うん、納得。
「それを『出来ている』と勘違いしてるのが、今のお前だ」
主任が言い聞かせている! 頑張れ、上司!
くーっ、黒林がどんな顔してるのか見えないのが、もやる〜〜!
「きっと、このままだと別居かつ、弁護士通じて離婚のお便りが来ると思うっス」
「おいおい、それは飛躍しすぎだろ! まず、話し合いするもんだろ!」
どのクチが言うか! どーせ、散々奥さんの訴えを無視し続けていたんだろ、お前ぇ!!
じゃなきゃ実家になんて帰らんわ!
「先輩にとってイキナリかもですが、奥さんにとっては散々積み重なった結果だと思うっスよ」
「つーか、お前、やけにウチの嫁の肩持つなぁ?」
「そりゃあ、家事をしないで威張り散らすだけの人間なんて、邪魔っスもん」
っぐ! 珈琲変なとこ入りかけた! ズバズバ言うなぁ、オキシドール君。
「僕は、実家暮らしですが、小さい頃から親が共働きだったので、姉と協力して家事をしてきたんです。掃除が好きだった姉が掃除スキルを磨いて、料理を覚えた僕は料理方面で。そして、覚えたことを教え合って、お互いしっかり家事を身につけました」
おぉ、すごい! お互い協力し合うって素敵だね!
しかも子供の頃からかぁ……。オキシドール姉弟(小学生)を勝手に妄想して、ほくほくしてるわ、私。
「まず、先輩がする事は、家事を『手伝えるレベル』まで上げるために、奥さんの話をきちんと聞いて『理解・記憶する』ところから、って感じっスね。離婚したくないなら」
「そりゃ、子供は可愛いし、離婚なんてしたくねぇよ」
あ、黒林……お前が今、聞かなきゃならないのは『手伝えるレベル』が、どういうモノなのかだぞ、離婚の方に食いつくな!
「黒林……お前、小学生の子供がする『お手伝い』のレベルも出来てない『家庭の足手纏い』だ、って言われた事気づいたか?」
ナイス、主任! 軌道修正ファインプレー!
「はぁ?! 何で稼いでる俺が足手纏いなんだよ、大黒柱だろ!」
「腐っている大黒柱なんて、ただのゴミっスよ」
オキシドォオォォォル!! マジですごいわ、あんた!!
「それに、現代建築では、大黒柱は必ずしも必要ってわけじゃないっス。大黒柱が無くても別のもので補えるんで、ほぼ飾りなんスよ、あれ」
オキシドール君の皮肉に気づくか、黒林!
「……今のお前の家庭には、今のままのお前は要らないって言われてるんだぞ、わかるか?」
主任!! 丁寧に傷をえぐって解説ぅうぅ!!
「いや、だってさ……!」
お? 黒林の反撃か?
「さっきから……!」
あ、オキシドール君、少し声が大きくなった。
「先輩の悪いとこ指摘してんのに、いっさい反省の態度や、謝罪の言葉出ないっスよね。相談って言いつつ、自分の正当化しかしようとしてなくて、マジでありえないっス」
そういやそうだね。会社でのだらしない点を言われても、ごめんすら言ってないし。
あ、オキシドール君が帰っちゃった……。
「お前さぁ、月曜になったら謝っとけよ?」
「え? なんか悪い事した?」
はぁあぁぁ?! こんだけ指摘されて、まだ自分の何が悪いかわかってないって正気なの?
人として終わってるわ……。
「お前、もしかして……本当に、自分は悪くないって思っていて、みんなで奥さんの罵倒大会になるとか思っていたのか?」
「え、だって、そうだろ? 俺に黙って実家へ帰るし、俺の飯どーすんだよ……。あっちが勝手に嫁としての務めを放棄してんだから、俺は何も悪くないだろ……」
あー……。ガチなモラハラだわ、コイツ。
自分が正しいって思い込んでるし、『自分が下に見ている人間』が、自分のために動かないのはおかしいって思っているタイプ。ほんと、とーちゃんみたい。
「はぁ……お前がそう思われてたら嫌じゃないのか?」
「いや、俺が稼いでるんだから偉いんだし、それなら俺より稼げばいいだけじゃん? そうしたら主夫にでも何でもなってやんよってカンジだし」
黒林ぃ……マジでモラハラやめれっつーの。
つーか、お前が主夫ったら家庭崩壊待ったなしだよ。あ、既に崩壊してるか。
「あのなぁ、家族間で偉いも何もないんだぞ? 役割分担した上で『支え合う』のが家族だろ」
うんうん、主任の言うとおりだ。私は支え合う人いないけど。
それから、稼いでいる方が偉いという主張を、黒林は決して崩す事なく、話は平行線なまま。
自分の味方をしてくれないとようやく理解したと思ったら、腹を立てた感じで足をドカドカ鳴らしながら出て行った。
あーあ、モラハラ聞いちゃったから、ランチの気分が台無しー。
「あ、すみません。耳障りなものをお聞かせしてしまって……」
「えっ、やばっ。声に出てた! す、すみません」
あちゃー、一人暮らししてると、独り言をつい言っちゃうクセがこんなとこに。主任が謝ってきたよ。なんか、ごめん。
「もう、モラハラ野郎は帰りましたので、これ以上気分を害させる事はないかと……」
「ホントにすみません。つい聞こえちゃった上に、聞き入ってしまい……その上失礼な事まで……」
「いえ、ご気分害されたのは事実でしょう。うるさかったですよね、すみません」
「いえ、大丈夫です」
すみません合戦をしたあと、主任は帰って行った。
あーっ、続きが気になるー!!
〜〜♪
あ、やば。スマホ、サイレントにし忘れていた。
友人からメッセージだ。離婚の相談に乗ってだと?
なんというシンクロ! 離婚秒読みシーンを目撃ならぬ耳撃して、別方面でも離婚系か。
相談と言いつつ愚痴である予感はしつつも、話を聞きに行こうか。言えばスッキリしたり、思い直したり、エンジンフルスロットルかましたりと、変化があるかもだしね。
いまから行けば、会える頃にはちょうどランチ時だね。せっかくだし、聞いたモラハラ話もネタになりそうだ。
モラハラ成敗が見れなかったのは、とても残念だけど。
いやぁ、黒林にイラッとさせられたり、オキシドールくんにほんわかしたり賛同したりと、今日のカフェタイムは濃ゆかった。
きっとこの後のランチも、濃ゆくなるだろう。