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第6話 異世界

「ふー、だんだんこの部屋に来たら落ち着くようになってきたよー」

「それはよろしゅうございました。なにかありましたら、いつでもお呼びください」

「はーい」


 今日は、はじめてお城を出て教会に行ってきた。賢者さんがついてきた。いや、ついていったのは私か。なんかこれからお城を出るときには、必ず一緒になるらしい。今日は睨まれたりとかはなかったけど、あの人たまに、こわい感じがするんだよね。まだちょっと、一緒にいると疲れちゃうかな。でもいろんなこと教えてくれるから楽しい。あーそういうところは、なんかあの先生に似てるんだなぁ。


 そう、先生のこと、みんなには言えなかった。勇者様だっけ? うちの世界に来てたんだよね。で、こっちに帰ってくるはずだったって。どうやって帰ってくるつもりなのかはみんな知らなくて、神様がどうにかしてくれることになってたんだって言ってた。そもそも勇者様が昔転生することになったのも、神様がそうしろって言ったからだって。


 そうしないと世界が滅ぶって。魔族ってただ強いだけじゃなくて、魔法を自由自在に操るから、一対一で戦うなんて、とてもできるような相手じゃないらしい。みんなで団結して、どうにかこうにか一体の魔族を撃退するのがやっとだって言ってた。束になって襲いかかってきたら逃げるしかないから、それで次から次へと町が潰されていって、あたりまえのことなんだ、って言われたときは、ただ唖然として言葉が出なかった。


 いつもそんなひどい状況が普通の日常なんだ。私はただ、異世界っていうのは剣と魔法の世界で、外には悪いモンスターがいるからそれを退治して、気が向いたら刺激あふれる冒険の旅に出て! 危険なとこに行かないならノンビリできる楽しい世界だって思ってたんだけどなぁ。実際にはこうなっちゃうんだね。まぁお城の中はワリとノンビリしてる人多い気がするけど。宰相さんとかいつものほほんとしてるよね。おはなししてて楽しかったのに、昨日でいったんお別れじゃって言われちゃった。せっかくなかよくなれたのになぁ、ざんねん。


 それにしても教会はキレイだったなぁ。お城のホールも王様がいたところも豪華な感じだったけど、教会は別格だったね。売店に置いてあった、教会がイイ感じにえがかれてた絵ハガキ、おもわず賢者さんにおねだりして買ってもらっちゃったもん。もうホントにコレ、何度みても――


「ゴージャス! オーびゅーてぃふる! ぐれーと荘厳なんたらかんたーら――」

「いかがなさいましたか? 勇者様」

「あ……なんでもないです。お騒がせしてスミマセン」


 ……うっかり叫んじゃった。この癖はやく直さないと、給仕さん、いくら優しくてもそのうちキレそうでこわい。でもそうやって叫んじゃうくらいにあの教会はホント美しくて、あぁ異世界、なんてスバラシイ! ってはじめて思えた気がする。中にいる人たちもなんだか神聖な感じがする呪文ぽいのをゴニョゴニョ言いあっていて、流れてた心地いい音楽とあわせて聞き入っちゃって、気がついたら熟睡してたもんね。アレそういえばなんか儀式があるって言ってたような気がしたけど、そんなのあったっけ? まぁ楽しめたからいっか。


 うーこういうの友達とかに話したいなぁ。ていうかぜんぜん話し足りないよ。こっちのみんなはなんか忙しそうにしてること多いし。給仕さんはいつもニコニコおはなしを聞いてくれるけど、今日はもう何時間も話しちゃってるからなぁ。時計チラチラ見てたから、これ以上はやめといたほうがいいんだろうし。うーん。やっぱ異世界は日帰りに限るのかなぁ。なんか行ったり来たり出来るドアとかあるといいね! そういうのなんとかならないの? 今度先生に聞いてみよう、って、ちがう。賢者さんか。


 あぁ、見た目ぜんぜん違うのに、賢者さんと先生がごっちゃになるなぁ。先生……なんで私なんかにあのおまじないを教えちゃったの? 冗談とか多かったから、アレもそうなんだって思ってたよ。いや、ちょっとは期待してた、ってのはあるよ? でもそんなことあるワケないじゃない。なんかいつにもましてモヤモヤしちゃって、もういっそのこと! ってちょっと本気になったらこのありさまだよ。アレ、異世界に飛んでくためのおまじないだよね絶対。先生がアレを知ってたってことは……ホントはみんなが待ち望んでいたのは……


 でも勇者様なんだったら、なんで自分がこっちに帰ってこないのさ。かわりに私を放り込むなんて、私になにを期待したの? なんにもできないって、先生にはバレてたと思ったんだけどなぁ。かわいい子には旅をさせろ、だっけ? そういうことなのかな? でもここはちょっと初心者向けじゃないと思うよ。せめてスーパーチートてんこもりで指先一つで魔王を爆破できるくらいの強さがあれば、私でもなんとかなるかなぁって思うんだ。それなのに、いくら指を鳴らしてもなんにも爆発しないし、指いたくなるし、もう最悪だよ。なんでできないの? 転生モノのお決まりじゃないの? 先生コレ教えなきゃいけないの忘れてた? 意外とミスが多い人だから、うっかりしてても不思議じゃないね。今度会ったら文句言わなきゃ。


 って、帰れなきゃ会えないよ! あーまたなんか帰りたくなってきた。今度こそうまくいくかなぁ。今日はまだやってないし、よし、帰りたい帰りたい――




「もうすこし音量を下げられませんか? けっこう響くんですよそれ。昨日もたまたま外の廊下を通りかかった人が耳にして、魔族が来たって勘違いされて騒ぎになったんですから」

「お騒がせしてスミマセン」


 またやっちゃった。みんな魔族の襲来にピリピリしすぎじゃない!? お城まで攻めてこられたことはないって言ってたのに、二日連続で大騒ぎになるなんて。しかも今日って魔族もお休みしてるはずなんじゃないの? うーん……それにしても、やっぱりダメか―。今回はためしに念を込めてみたんだけど、そういう問題じゃなかったのかー。発声は間違ってないはずなんだけどなぁ。どうしてあの時だけうまくいったんだろう……なんとなくだけど、このおまじないって神様を呼び出してるんだよね。ってことは、神様に無視されちゃってるのかな? 魔王をたおすまで話しかけてくるなってこと? ひどい……


 給仕さんだってひどいよ。うるさくしてるの別に私だけじゃないじゃん。今朝だってご飯っていうか、朝食のパンを食べてたらいきなりドカンって、ちょっと揺れたりしたし。私は音を出してただけなんだからそっちよりマシじゃん! まぁでもあの時もちょっとザワザワしてたね。どうしてあのカタブツが、とかなんとか聞こえてきたなぁ。いいんだよ、私は心が広いからね。まじめな人だってたまにはウサを晴らしたくなることもあるでしょ。そういう気持ちわかるよー。私も勇者様としてまじめに扱われるの、正直しんどいし。


 みんな私のこと勇者様勇者様って、拝んでくるくらいならまだマシで、涙流して鼻水たらしてぶっ倒れたりするんだもん、肩がこるとかそういう次元じゃないよ、まったく。今日だってせっかく外に出たんだから町の中を歩いてみたかったのに、群衆が集まって騒ぎになるとかなんとかで、ほとんど馬車の中だった。あの馬車、見た目はいいのに、すわってるとおしりが痛くなるんだよ。ガタンガタン揺れるからおちつかないしね。そんでもって外の景色は人、人、人……旗とか手とかでさえぎられて町がどういう感じなのかよく見えなかった。ホントひと多かったなー……私、勇者様なんかじゃないのに。私なんかに手を振ったって……


 そろそろ観念して身も心も勇者様になるしかないのかな。私は勇者様。みなのもの、ひかえおろうー。って、やっぱり自信ないや。さっきから魔王爆破ーとか言っちゃってるけど、今の私って魔族どころか、倒せるモンスターなんか一匹もいないでしょ絶対……そもそも剣でザックリとか、そんなのこわくて出来るわけないし。


 はぁー、もうこうなったら明日からの魔法の訓練をまじめにやって、なんとか魔王が爆発するようになるまでがんばるか! 学校みたいにみんなでワイワイってノリじゃないらしいけど、いろいろ教わってれば気もまぎれるから、たぶんおうちのこととかは忘れていられるだろうし、なにより魔法が使えるようになるんだよ! ついに念願がかなうんだ……ふ……ふふ……「ふふふ……」




「それでは本日より魔法の訓練をはじめます。初日ではありますが、いきなり風魔法の実践からやってみましょう。わたくしは風魔法を専門にしておりまして、普段から幅広い年齢層の方々に指導もしております。本日は大船に乗ったつもりで、たのしく魔法にふれていきましょう」

「はーい」


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