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第4話 絶望と希望

 もうやだ、あのこわい目。おうち帰りたい。


「試練の時が来る? そんなことを言われたのですか?」


 あ、そっちなの? よかったー。あとで検査とか言ってたから、あんまり心証を悪くしない方が身のためだよね。クワバラクワバラ……


「は、はい、まもなく、って。それでなんか神様アセってたみたいでウッカリ送る人を間違えちゃったんじゃないかなーなんて思ったりなんかしたりして――」

「宰相殿! 直ちに兵長を呼び戻すべきです! 何か良くない事態がおきるかもしれません」

「災いがついにやってくるというのか? まあそうじゃな、こうなってしまってはあのお方が今は一番頼りになるじゃろうて――よいな、調査団に至急連絡を取り、帰投するよう伝えよ」

「はっ」


 忍者っぽい人がアッという間にいなくなっちゃった。ドロンしなかった今? それはそうと、なんか置いてけぼりくらってる感がすごいなー。そして頼りにされてない感ー。まぁ頼られても困るんで別にいいんですけどー。


「うーむ、災いとなると此度の件とは別に、国として対策を練らねばならぬ。話も一段落したようじゃし、賢者殿と巫女の参加は此処までとしてもらおうかの。あーそれと――」


 あ、こっち向いた。


「お主もな。勇者殿」

「あ、はい」


 ん?


「はい?」

「さっきの賢者殿の話で、お主は記憶が戻ってないだけの勇者殿かもしれない、とあったからの。お主のノリからはとてもそうとは思えぬところではあるが、もともと勇者殿としてお呼ばれしたんじゃ、ならば勇者殿でよかろう。民も安心する。皆に希望を持たせるために、前世の記憶が無い勇者殿ということで決定じゃ」

「いやいやそういうの良くないです。オレオレ詐欺って知ってます?」

「知らん」

「お金をだまし取っちゃうんですよ。犯罪ですよ。捕まりたくないです!」

「そういう事をせねばよかろう」

「そういう問題かなぁー」

「そういう問題じゃ。まあ何をするかは追々決めようぞ。無理難題は押し付けぬから安心せい。ちょっくら魔王を倒して来いとかな、ほっほっ」


 ……笑えないんですけどー。


「という訳じゃ。巫女よ、お主はしっかりと勇者殿を再びこの世に降ろしたのじゃ。よくやった」

「……はい、お褒めにあずかり光栄です」

「賢者殿もそれでよろしいな」

「賢明なご判断だと思います」

「勇者殿、そういう訳じゃ、おつかれさん。気が利く給仕を付けるゆえ、身の回りの事はなんでも頼るがよい」

「……はーい」




 あー、やっと終わったー。賢者さんの検査長すぎだよー。なんかすごい執着っていうか、執念っていうか、怨念っていうか、ずっと鳥肌が立ちっぱなしだった。疲れたよもう。このベッドふかふかして気持ちいいー。


「給仕さん、この世界ってやっぱり魔王とかいるんですかー?」

「そう聞いていますよ。私たちは魔王率いる魔族にいつも脅かされて暮らしているのです」

「やっぱ異世界はそうなるのかー」

「勇者様がお過ごしになっていた世界には魔族っていないんですか?」

「マンガとかならいるけど、現実にはいないかなー。魔族っぽいヤバいのはいるかもだけど」

「魔族がいないなんて現実味が無くて想像できませんね。ここ最近は町の数が一年で一つずつ減っているんですよ。二つの町を復興させているうちに三つの町が魔族によって潰されてしまうのです」


 なにそれこわい。


「魔王が攻めてきてるの?」

「魔王みずからっていうのは聞いたことが無いですね。そもそも魔王は西の果ての魔王城から出てこないという噂ですよ」

「そこまで行かされるのかーイヤだなー」

「そんな、いくら勇者様でもいきなりは無理ですよ。そもそも魔界に踏み込んで生きて帰ってきたのって、伝説の勇者パーティー三人と我らが英雄の計四人だけですよ。それもちょっと入って出てくるくらいの事しかできていないそうですから。勇者様は前世の記憶が無いとのことでしたが、やはりこういったことも覚えていらっしゃらないのですか?」


 ええとこういう時は――


「記憶にございません」

「残念です。武勇伝とかいろいろお聞きしたかったのに」


 黒歴史ならいくつかありますが、おひろめはしたくないです。しんでしまいます。


「伝説のパーティーとか英雄とか気になるなぁ」

「勇者パーティーというのは、勇者様と賢者様と隠者様の、史上最強と謳われたパーティーの事です」

「賢者様ってあの賢者さん?」

「そうです。勇者様とは特に仲の良いお友達だったと聞いています」


 こわいんですけどあの人。


「隠者様は今はどうしてるの?」

「さあ、もともと人前に出てくるような方ではなかったそうですから、パーティーが解散した後はまた隠れちゃったんじゃないでしょうか」

「それで隠者様って言われてるの?」

「まあそうですね。魔族と魔法で張り合える唯一の方だったそうですよ」

「ふーん」


 魔法かー。さっき賢者さんから聞いたけど、いろんな魔法があるんだよね。使ってみたいなー。


「そして英雄というのは――この絶望の世界に忽然と現れた、魔界への挑戦をあきらめない我らが英雄様のことです! 今も魔界に遠征中なんですよ」

「一人で突撃してるの?」

「いえ、小隊を率いていくんですけど、いつも帰ってくるのは英雄様お一人だけなんですよね……」

「うえぇ」

「本当は英雄様も、はじめからお一人で魔界へ行きたいらしいんですけど、お国としてはちゃんとそれなりに成果をあげたいらしくて、結局無謀なことを毎回してしまう結果になってしまっているという――あ、これ宰相様には言わないでくださいね。怒られてしまいます」

「なんだかすさまじい世界に来ちゃったなぁ。やっていけるかなー……」

「なにをおっしゃいます。勇者様こそ最後の希望なんですから、弱気になってはいけませんよ」


 希望さんは絶望しています。もういい、ふて寝する。




「勇者様、閣議が行われるとのことで、出席するよう要請が来ております。準備できしだい閣議室までご案内します」

「はーい」




「昨日はよく眠れたかの?」

「お部屋キレイで広くてベッドもふかふかでパジャマもなんか着たことない感じので大満足でしたー。ありがとうございます」

「気にするでない。その衣装も似合っておるぞ」

「なんかいかにも勇者殿、って感じですねーこれ」

「なにせ勇者殿じゃからな、ほっほっ」

「ほっほっ」

「……そろそろ始めたいのですが、よろしいでしょうか」

「おおすまんな書記官長――勇者殿、昨日のドタバタしたのと違って、今日はちゃんとした閣議なんじゃ。少し堅苦しい思いをさせてしまうが辛抱してくだされ」

「はーい」

「それではただ今から、閣議を開催いたします」


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