第13話 氷魔法
「今日、私がお教えするのは、氷魔法です」
「えっ? なんか地味ですねー」
「そうでしょうか」
「賢者さんなんだったら、もっとこう、ズババーンって感じの魔法とか得意なんじゃないんですかー?」
「私が得意な魔法なんてありませんよ」
「えっ? そうなの?」
「はい、そこそこまんべんなくできるだけです」
あ、これ、ヤバいくらい頭いい人が言うやつだー。ほっとこ……
「なんで氷なの? 他でもよくないですか?」
「勇者は昨日、水魔法を習いましたね」
「うん」
「なので、そこから氷に話を繋げるのが良いか、と思っただけの事です」
「冷やしたら凍るとかそういうことですか?」
「はい、その冷やす行為を修得してもらいます」
「そーいうのも魔法でできるんだー」
「魔法では出来ないことなんてありませんよ」
「じゃあ魔王をドカーンってする魔法を教えてくださいよー」
「魔王に土管をぶつけたいのですか? 予定では最終日が土の日ですから、そちらでまずは土管の作り方をリクエストすると良いでしょう。私からも言っておきます」
「いやそういうことじゃなくって――」
「時間がもったいないので氷の話を進めますよ、いいですね」
「……はーい」
先生みたいに話に乗ってくれなくてツマンナイなぁ……
「氷は直接作ることもできますが、今回は水から変化させて氷にします。その変化させる仕組みを自由自在に操ることが、これに関わるテーマの最終的な目標となります」
「変化って変身でもするんですかー?」
「まずはそう捉えてもらってもかまいません。実際に変化させたい対象を正確に把握した上で、どの方向に変化させたいかを確定してから、対応する呪文を唱える。これが基本となります。これまでの実績がありますから、勇者ならできると思います」
「言ってることがムズかしくて、できる気がしませーん」
「とりあえず本日の訓練では、水と氷を行ったり来たりできるようになれば、それでいいです」
「それでいいの?」
「はい、このテーマは奥が深いので、私が教えるのはそこそこにして、あとは勇者自身で興味のある対象を選んで研鑽を深めてください」
「またムズかしいこと言ってる……」
「テキパキこなせば一時間もかからないで訓練は終わりますよ。あとは勇者が好きに時間を使ってください」
えっ? マジで!?
さて、準備はよろしいだろうか。ついにこの日がやって来た。思えはどれだけ長い間、辛酸をなめされられ続けてきたことだろうか。刻は今! 我は最強の力を手に入れる! ふ、ふふ――
「ふふふ……フフッフッフハーッ! ハッ! ハッ! ハッ! ハッ! ……」
おっと失礼。笑うのはまだ早かった。油断はできない。これまでもたびたび、数多の悪魔どもによって妨害をされてきたのだ。いやしかし! 神は我に味方した! ……今、我はこの地に立っている。魔法があたりまえのように存在するこの世界にて、我はついに解放されたのだ!
さきほど賢者さんから氷の極意を手に入れた。習っているうちに、ふと、気づいたのだ。これは使える、と。相談したら快く教えてくれた。向上心があるのは良いことです、と褒められた! 我こそは褒められれば伸びる子! この勢いで、念願を成就させようぞ! くらえ!
「えたーなるふぉーすぶりざーど!」
……なぜだ、どうしてまた邪魔をする! いまだなお妨害を仕掛けてくるとは、しぶといLとRめ! コイツだけはこの世界にまで執拗について来た……それほどまでに我が憎いか! よかろう、時間はたっぷりある。今日はとことん遊んでやるぞ、覚悟しろ!
「えたーなるふぉーすブリザード!」
「エターナルふぉーすぶりざーど!」
「えたーなるふぉーすぶりざーど!」
「エターナルフォースぶりざーど!」
「エターナルふぉーすブリザード!」
「えたーなるふぉーすブリザード!」
「エターナルフォースブリザード! おおお……」
悠久の時を経て、ついに発動した! 氷の粒が顔にかかって気持ちいい……あれ? これさっき習った氷結魔法と同じじゃない? ただ空気中の水分が凍っただけなような気が……そうだ「相手は? 死んでないだと!?」あ、そういえばそもそも相手がいなかった。でもこんなヨワヨワな感じじゃ、とても死にそうにないな。うぬぬ……究極魔法はまだ我の手に余るというのか? くちおしや……
いや、まだだ。先の究極魔法の魅力と比べれば多少は劣るものの、我にはまだ奥の手がある。幸いにして先程、賢者さんに究極の温度調節法を教わった。おお、なんというタイミング。天も我に味方したのだ。この機を逃すわけにはゆかぬ。しかもこの手であれば、あのにっくきLとRは手も足も出まい。……ふふふ、そこで歯ぎしりしながら、我の高らかなる呪文の詠唱をじっくりと聞いているがよい。ではゆくぞ――
「……我の心は冷え切った……世界よ我に同調せよ……絶対零度……!」
同調しなーい! 無視しないで―! 英語じゃないとダメな縛りとかあるのー? ……絶対零度がピンと来てないのがダメなのかな? そんなこと言われたって、マイナスにひゃくななじゅうさんてんいちごーど、だっけ? ゴチャゴチャしてて、よくわかんないじゃん。なんでそんなメンドクサイんだ、決めたやつ出てこーい! 小一時間説教してやるー!
はぁー……なんか今日はいける気がしたんだけどなぁ。またダメなのかー。せっかくこの世界に来たってのに、楽しい魔法がエアーキャノンだけってどういうことなんだろ……藁魔法も昨日ちょっと試してみたけどダメだったし……これもどうせダメなんでしょ……?
「……絶対に〇℃にしろ」
ん? なんか急に寒くなった! やだなにコレ、ちょっとオフトンおふとん……ふぅーおちついた……それにしても、いったい何が起きたの? ……まさか私の呪文が効いちゃった? こんなんで発動しちゃうの? もしかして魔法の神様ってバカなの!? ……まあいいけど。それより温度、ちゃんと〇℃になってるのかなぁ。けっこう寒くてそれっぽいけど……あ、そうだ。
「給仕さーん! 温度計ありますかー? あーあと防寒具も一式くださーい」
さて、準備はよろしいだろうか。気を取り直して再度、儀式を始めよう。ここに取り出したるはアナログ温度計、示す値は一七℃。ほどよい温度なはずだが、今はなぜかちょっと暑苦しい。まあよい、まずは先の呪文の確認からはじめるとしよう――
「絶対〇℃」
おお、いい感じになった。そして温度は――〇℃だ! これは間違いなく、魔法が正確に発動している! なんということだ! いいのかこれで! さすがの我も正気を疑うぞ!? れいど、っておま、そんなの呪文の文言に入れちゃって大丈夫? 先生とか怒り狂いそうなんだけど!? なんかここらへんいろいろ言ってたよねたしか? 忘れた!
まあよい、起きてしまったことは仕方がない。我の心は広い故、このくらい許してやろうぞ。ともかく、〇℃がいけるのであれば、これもいけるのであろうな……?
「絶対マイナス一〇〇℃」
……「コラーッ! なんなんだお前は! いいかげんにするのだ! 我をおちょくるのも大概にしろ!」なぜ発動せぬ! にひゃくななじゅうなんたらかんたらっていうのは勘弁してやったというのに! メンドクサイから!
あ、この温度計、マイナス三〇℃までしか対応してなかった。あぶないあぶない。えーと、上は五〇℃までかぁ。じゃあー……
「絶対四〇℃」
あっつ! えっ? こんなに暑かったっけ? この前の夏とか四〇℃いったことあったけど、ここまでキツくなかったと思うんだよなぁ。あっといけないいけない、温度計はーっと……四〇℃! 合ってるのかー、ふーん。まぁ、さすがに暑すぎてボーッとしてきたから、さっさと温度を下げよう。何度がいいかなー?
「絶対一℃」
あ、一℃になった。マイナスはダメってこと?
「絶対マイナス一℃」
マイナスになったなー。
「絶対マイナス一〇℃」
おーこれもいけるのか。
「絶対マイナス二〇℃」
あれー? ダメだ。むむむ……
ふぅ、ここまでか。それでは結果をまとめよう。下はマイナス一三℃、上は四一℃が限界だった。ちなみに下から試していったのだが、一〇℃の時に邪魔な防寒具を脱ぎ捨てた。大事な儀式を中断させるとは、あの役立たずめ……まあよい。そして細かいところでは途中で一回『絶対マイナス二・三六℃』を試してみたところ、ちゃんとマイナス二・三六℃を指していた……ように思う。それ以上の追及はメンドクサイのでやめた。これをもって本日の儀式は終了とする。みなの者、大儀であった。
あーつかれたー。でもすっごい楽しかったなー。誰にも見られないで一人でコッソリこういうことするのって、ドキドキワクワクしていいね!




