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第1話 プロローグ

「ああそうだ、聞いてくださいよ先生ー」


 またか。この子はいつも本当によく喋る。毎度飽きもせず、よくもまあ話のネタが尽きないものだ。


「……それがもう本当に信じれらなくて――聞いてます? 先生!」

「うんうん。前も言ったかもしれないけど、まあそんなもんだからあんまり気にしすぎない方がいいよ」

「えー、やだー」


 こっちがイヤだよ、まったく……


「それより、いつまでもダラダラしてないで、そろそろ進路の事とか決めないと」

「うー、それなんですけど……」

「ん? また悩み事?」

「悩みっていうかー、いっそのこと転生でもしたいなって」

「え?」

「異世界行ってみたいじゃないですか」


 いいえ。


「何言ってんの……」

「なんかこの先どうせパッとしそうにないし、それならパーッと異世界に船出してですね――」

「なにか嫌な事とかあるのかな?」

「特にはないですよ。どちらかというと恵まれてる方だとは思いますし、不満とかもないです」

「それでも全てを捨てて他の世界に行ってしまいたいと?」

「……」


 たまにこの話になるな。異世界転生とかそういうノリには詳しくないので、それとなく話を合わせている。まあ、この子の場合はいつも転生ではなく転移を希望している、程度のことは理解しているつもりだ。


「だいたい、異世界に行って何をするの?」

「そりゃあもう冒険ですよ」

「モンスターとかと戦えるの?」

「……強い人についていって守ってもらうからヘーキです」

「……その人嫌がるんじゃないかなー」

「ひどい」


 つい話に乗ってしまう。この癖を直さないといけないと思いつつ、なんとか軌道修正を試みてみる――


「冒険ってなると言葉の問題とか出てくるよね。英語が苦手なままで大丈夫なのかな?」

「異世界は日本語が通じるので問題ないですー」

「そんなこと言って、実際に行ったら駄目でした―じゃ話にならないよ。ほら、右って英語で言ってみなさいよ」

「らいと」

「……それじゃ光っちゃうよ」


 だめだこりゃ。


「いくら苦手だからって、少しは勉強していかないとねー」

「イヤなものはイヤなんです」

「必要に迫られればまあ自然と使えるようにはなるのかもしれないけど」

「必要ない世界で生きていきたいです」

「異世界なら必要無いから行きたいってことなのかな?」

「そう! それですよ! なんてすばらしい世界……」


「……そんなに行きたいなら、ちょっと発音が難しいけど」


 あれ? どうして――


「……こんな風にね。これ昔の電話の呼び出し音に近いんだよ。でもちょっと違う」


 こんなことを知って――


「LとRの使い分けができていないうちは難しいかもね。いい練習になるんじゃないかな」


 今何を言った? わからない。ただ、少し頭が痛い。


「ふーん」

「……普段からそういう真剣な態度をいつもしてくれると助かるなぁ」

「あ! これも話さなきゃ! 聞いてくださいよ先生ー」

「はぁ……」


 またか。この子はいつも本当によく喋る。毎度飽きもせず、よくもまあ話のネタが尽きないものだ。この感想は今日で何回目だろうか。




「それじゃ今日もありがとうございましたー」

「はいおつかれさまー」




 終わった。普段は軽くため息をつくところだが――なぜか胸騒ぎがする。


「……幸あれ(ゴッドスピード)


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