落日の墓場3
西の大陸。海のすぐ側にある等で、頭上に着いた獅子の耳を忙しなく動かす少年は、部屋にある唯一の窓から下の様子を見ていた。
「そんなに窓にへばりつかなくても、ルークなら客が来たかどうかなんて、すぐにわかるだろう」
少年の世話役をしている年老いたフクロウは、からだをしぼませながらため息を着いた。
今日の予定である、薔薇の魔女とその弟子の訪問は、少年がこの塔に住むようになってから定期的に行われている。
そして、少年が心待ちにしているのは、薔薇の魔女の弟子である海色の男だと言うのもわかっていた。
「この塔の中で、一日中勉強と鍛錬の繰り返しを、毎日させられる僕の気持ちなんて、オウルにはわかんないさ」
毎朝、獣の魔女が丁寧にブラッシングして根元にリボンを結ぶ虎の尻尾が、力強く床を叩く。
少年のために用意された部屋は、獣の魔女が集めた彼のための品で溢れている。それは彼への愛情が可視化されているのではないか、とオウルが思うほどだ。
「あぁ、わからないね。アガット様の寵愛は、今やお前一人に向けられている。お前が逃げない限りは、この塔の中じゃ、お前が王様さ」
少年がもう一度、強く床を尻尾で叩くが、今度こそフクロウは少年を無視して止まり木から飛び立った。
オウルのために開けられた出入口から廊下に出た彼は、これからのことを思ってため息を着く。
獣の魔女の塔には、人間が居ない。家事や炊事は、道具自体に魔法をかけているから道具が勝手に行うし、使い魔や召喚獣の類いは、獣の魔女に呼ばれない限りは基本的に好きに過ごしている。
しかし、客人が来るとすれば別だ。まして、彼女が招待した魔女が来る時は。
「ホラホラ若いの、お前たちはテラスから外に出て今日中は帰ってくるんじゃないぞ。あ? 飯が無い? 何言ってんだ、不興を買ったら命が無くなるぞ。そうなりたくないならさっさと出てきな。……道具どもはさっさと茶会の準備を! いくらサメの坊主の方が美味く茶をいれるとはいえ、ホストはうちの魔女様だ。絶対に、恥を書かせるんじゃないぞ」
しゃがれた声が、塔を上から下へ飛びながら指示を出す。慌ただしく出ていく仲間たちの毛や羽を片付けて、もう一度少年の部屋に戻ってくる頃には、出ていった時よりもからだがしぼんでいるように見えた。
「オウル、そろそろ来るよ」
しかし、部屋に戻ったフクロウにかけられたのは、労りの言葉ではなく、少年の楽しそうな声だ。
まだきっと、下の階には若い仲間がバタバタと森に飛んでいく途中だし、道具たちも定位置に着いたかどうかと言うところ。
薔薇の魔女は、慌ただしい従僕たちを不快に思うに違いない!
――終わった。長く獣の魔女様に使えてきたけど、今日こそ俺は薔薇の魔女様に殺されるんだ。
「じゃ、僕はイスルスと薔薇の魔女さんのお迎えに行ってくるね」
内心で辞世の句を読み上げかけた時、少年が嬉しそうな声を上げて窓から飛び降りた。
見開いた眼で、落ちていく少年を追った後、オウルは慌てて飛び出す。
「こら! そういう時は階段を使えって教えたでしょうが!」
だが、うまい事少年が時間を稼いでくれたら、仲間たち含め自分もきっと生き残れるのではないか。フクロウは、なんだかんだ算段を頭の中でつけた。――だってまだ、死にたくなんてなかったので。




