落日の墓場2
人間と獣神の血を引いた王子が、平和の証として王座に就いたのは、夕日の思い出から5年が経ってからだった。
南の国を治める獅子の獣人らしい豊かな黒髪に、母と同じくこの国の夕日と同じ色をした青年は、純血種である虎の女性を王妃に迎える。
二人の間に産まれたのは、純血の獣人らしい獅子の獣頭を持った王子と、虎の獣頭を持った王女。――そして、王様と同じように人の顔に獣の耳と尻尾を持った王子の三子だった。
しかし、王様の腕に抱かれたのは最初に産まれた王子と2番目の王女だけ。
3番目に産まれた王子は、産婆を務めた侍女の手によって、獣の魔女の使い魔であるフクロウが用意したカゴの中に寝かされた。
「うふふ、王子様……いえ、今は王様でしたか。あなたは、詰めが甘いですわ。国の利益を引き合いに出せば、あなたが頷かなくても、勝手に国民が子供を生贄に差し出すのですから」
友人から貰った香の煙を、王宮のそこら中にまきながら、獣の魔女は笑顔でカゴの中を覗き込んだ。
「あは! 白い紙に、赤い瞳。獅子の耳に虎の尻尾。手足が大きいし、あなたはきっと私の理想の男になるわ」
海の魔女謹製の、魔女の存在を人々の記憶から消し去る香の煙を吸い込んだ人々は、何も知らずに新たな王族の誕生を喜んでいる。
魔女がかけた魔法もしっかりと効果を発揮しているため、この国の王族には、二度と王様や手元にいる子供のような存在は産まれない。
「私は、きっとあなたを愛するわ! 名前、名前もあげなくてはね。――ルーク、そう、ルークがいいわ! お前の名前はルーク。いつか、私の愛する男になるモノ」
王宮の大きな門から、赤子の入ったカゴを掲げて、堂々とメインストリートを歩く獣の魔女の姿を誰も振り返って見ようとはしない。
獲物を見つけた獣のごとく、にんまりと舌なめずりする魔女に、カゴの中の赤子は、欠伸をひとつ返すだけだった。




