落日の墓場5
サメの人魚であるはずのイスルスが、海を捨てるほど惚れ込むりくに住む薔薇の魔女。
中途半端な獣人である自分を、赤子から育て上げる獣の魔女。
どうして獣の魔女に恋ができないのか、寄宿舎に通っていた頃からルークは考え続けていた。
「僕も寄宿舎で運命に出会ってから気がついたんだけどさ」
彼は、起き上がることができなかった。飲まされた薬の副作用と言うよりは、魔女の差し出した対価と、その呪いのせいだろう。
「恋は相手から求めるもので、愛は相手に与えるものなんだって」
南の大陸では当たり前の赤い、紅い夕日があたりを染め上げている。彼の白髪も赤く染まり、紅玉の目は普段以上に輝いていた。
「もう、もういいわ。喋らないで頂戴。私は……聞きたくないの」
獣の魔女のケープも、ルークの色が移っていくように、赤く染まる。
「アガット、君は与えるのは得意だけど、求めるのはヘタクソだったんだね。……長いこと、一緒にいたはずなのに、全然気が付かなかった」
大きく成長したルークの、男らしく節くれだった手が、獣の魔女の柔らかな頬に添えられた。
「ルーク、今のあなた生意気よ、とっても。小さい頃は、もっと素直だったじゃない」
抱えられた彼は、彼女の目から落ちる雫を掬いとろうとするが、上手くできずに苦笑する。
「僕はさ、君のこと、わすれたくなかったんだよ。それこそ、家族として愛しても、恋人になりたいだなんて絶対思わないって。君の、対価の話を聞いてから話を聞いてからずっと……考えて来たんだ」
赤い色の光は、もう消えかかっていた。それと同じように、彼の目も閉じられようとしている。
「だったら、だったら今までどおり傍にいてちょうだい! あなたは、私に恋なんてしなかった! そう言って明日も同じように私の元へおいでなさい!」
獣の魔女は、必死に呪いを紡ぐ。彼女の目を見て頷けば、間違いなく成立したはずの呪いは金色の煙となってルークの周りを漂った。
「ごめんね」
頷いた彼の言葉と共に、赤い光と金色の煙は夜の闇に溶けて消えた。
魔女の手から、空の瓶が零れ落ちた。
「またダメなの?」
やわらかい、少年の頃から変わらない毛並みのいい彼の頭を撫でる。恋の霊薬によって、ルークは確かに獣の魔女に対して、恋心を抱いた。
――そうしてまた、彼女に対する恋心をなくしたのだ。
獣の魔女は、自分が魔女になるために差し出した対価を後悔していない。そう思って、長い時間を過ごしてきた。
何度、恋しい相手から自分の記憶が消えようとも、力さえあればいつかきっと、理想の男を見つけられると思っていたからだ。
「意外ときついわ……。ド好みの男の子で、何度でも挑戦できてお得! なんて思うんじゃなかった」
健やかに眠るルークの鼻を、腹いせにつまむ。寝苦しそうなその姿に、少しの笑顔を零して、腰につけたポーチから新しい小瓶を取り出した。
「けど、魔法の耐性があるおかげで、私に向けた恋心だけが消える程度で済んでいるし、そこだけはマシよね!」
中に入っている薬を口に少量含み、寝ているルークの口に流し込む。そして、彼が飲み込んだ後も、魔女自信が満足するまで口を合わせた。
「うふふ、あなたは、明日もいつも通り私に接するわ。今日の記憶を、すっかり綺麗に無くしたあなたの相手をするのは、少し憂鬱だけど、私はあなたを愛してあげているのだから――それくらいは当然よね?」
清々しい笑顔を浮かべ、魔女は杖を振るった。ルークの体が浮かび上がり、彼のいつも使っている寝台へと運び出される。
そこに残ったのは、おびただしい数の空の小瓶。
――恋心の残骸だけだった。
この後の話でルークくんの想い人の話きますんでちょっとお待ちくださいね……書いてあるヤツのデータが闇に消えて今書き直してるで……1部書き直したりして時間かかってんすよね




