落日の墓場4
木漏れ日のさす、獣の魔女の塔のガーデンテラスで行われるお茶会。
招待された薔薇の魔女は、濃紫の帽子とマントを椅子に掛け、弟子の青年が入れた紅茶を飲んだ。
「本日は招かれてやったぞ、獣の魔女。お前が、未来の旦那だと赤子を差し出してきた時はどうなる事かと思ったが、無事に育っているようで何よりだ」
「えぇ、ルークは、本当に可愛いの。理想的な男に育ちそうで私はとても満足しているわ。今だから言うけど……貴女がイスルス君を育てたように、私も理想を育ててみようと思ったのよ?」
それに対して、獣の魔女は黄金のケープを羽織ったまま用意した焼き菓子に口をつける。
話題に出された少年は、少し離れたところで、薔薇の魔女の弟子である青年が振るう杖に合わせて動く蝶を追いかけていた。
塔という限られた世界に生きる少年にとって、たまに他所から来る同性の青年は、得難い友人だ。そして同じように青年も思っているからこそ、あまり仲の良くない魔女たちもたまに会うようになったのだ。
「……今度の夏に、イスルスを寄宿舎に送る予定だ。お前もあのチビに魔法を教えているんだし、同じタイミングにした方がいいだろう」
少年たちの交流を見ながら、薔薇の魔女は今後の予定を告げる。寄宿舎で、成果を出せば正式に魔法協会から魔法使いを名乗る資格を得ることができる。そうすれば、大体的に理を外れた自分たちと同じ時間を過ごすことが認められるのだから。それは、薔薇の魔女にとって当然の選択だった。
「そうねぇ、あの子たちが、私たちと同じ時間を過ごせなきゃ、手元に置いておく意味がないわね。うふふ、あの王様には悪いけれど、あの子は私のものだもの。仕方ないわ」
うららかな陽気、もうすぐ雨の季節がやってくる、そんな時期。
――あんまりにもあっさりと、魔女の寵愛を受けた彼らの人生の選択が行われたのだった。
「イスルスも苦労しているね。けど、一緒の学校に行けるのは嬉しいな」
細かく動く少年の耳は、しっかりと魔女たちの言葉を拾っていた。やわらかい尻尾は、青年の腕に絡められ、目に満ちるのは友愛の感情と同族に向ける同情だ。
「俺も、ルークと一緒に寄宿舎へ行けるのは嬉しい。だが、俺は魔女様から貰うものを迷惑だって思ったことはないさ」
魔女について語った青年の目が、なんとも言えない感情を湛えた。
それは、少年を見つめる獣の魔女と同質のものだ。つまり、彼は薔薇の魔女のことを。
「――イスルス、君のこと大好きだけど、それは理解できないや」
「最近、自覚したばかりなんだけどな」
水晶玉を見てね、なんて言う青年の話を聞きながら、少年はガラス玉のような赤い目で獣の魔女を見る。
少年を、赤子の頃から自分好みにするために、杖と鞭と贈り物を片手に教育を施す彼女。
不思議な匂いと、夕日を背負った獣の魔女が、少年の始まり。
「……僕は、彼女の手をつかもうとは思えない」
そう口の中で呟いて、もう一度青年の話に集中し直す。
何故なら、彼と話すことはこの退屈な塔の生活の中で、唯一心から楽しめる娯楽なのだから。




