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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

(多分)恋愛系

とある令嬢の先

作者:

スマホ打ちの練習で。


今回は少し長めに。

後ろの両腕から尊き青の血を滲ませる忌々しい縄の痛み。


凹凸が激しく、ろくに調えられてない雑な石階段と壇上。


周囲一帯に溢れ、野卑な騒音を吐き散らかす下賎で高貴な血に飢えた浅学な民衆。


全てが忌々しいなか、顔を隠した官吏によってどこぞの医者が憐れみと義侠心から造った吊り刃の処刑具の前に連れてこられた。


「膝をつけ」


何の感情も滲ませず、官吏が私に命ずる。


逆らっても、その手に持つ鈍器で足を殴り、無理矢理その体勢を取らせるにくるだけ。


官吏は大人しく膝をついた私の両手首から縄をほどき、手荒く首と両手首を処刑具の拘束部に通して固定する。


今の私は客観的に見て滑稽の意味をそのまま形にした姿だろう。


大罪を犯したという烙印を押され、生きる価値無しと宣告された敗残者。


そう、私は負けた。


ありもしない、空虚な感情を信じて時間を浪費している間、私が信じていた人は己の欲求の為に全力を注いだ結果。


あの全てを狂わせた平民は、王宮で私の立ち位置に立って後に得る身分に相応しくなるように、かつて私が受けた教育を受けている。


捨てられた私があの人から最後に与えられたのは、民衆の鬱憤晴らしの道化としての仕事。


ああ、なんて忌々しい事か。愚かしい事か。滑稽な事か。気色の悪い事か。屈辱的な事か。退屈な事か。


なんて、悲しい事か。


「最後に言い残す事は?」


官吏が聞く。


罪人の命乞いや怨み言を吐かして上の刃を切り落とす。


そして首が宙を舞う時こそ、回りの民衆の熱狂は最高潮を迎える。


正に道化仕事だ。


なら、せめて道化として上げられた者として望まれたままの仕事をしよう。


静かに息を吸い、


「法と罪を玩具とする愚かな王国よ!肉欲のまま道義を侵し、正義を掲げる愚者達を奉ずる者共よ!青き血の義務としての諫言を疎い、己の欲を満たさんと偽りを振るい、最も尊き一族の名誉に泥を塗った愚か者に導かれるこの国は必ずや汚辱の沼へと沈みゆくだろう!マリーナ・シェン・アーゼウスの言葉を忘れるな!この報いは何百、何千と太陽と月が巡ろうとも、必ず訪れる!その時こそ、貴様等の愚行を――――――!」


鈍く響く音と同時に、民衆が映っていた私の視界が蒼い空で覆われ、声も止まってしまう。


それが何を意味するか、理解する間もなく私の意識は暗転した。











「うっ」


「お嬢様!」


椅子からずり落ちそうになった私を、側に控えていたメイドが支えてくれて難を逃れた。


その様子を顔も隠れる深いローブを纏う老婆が静かに見ている。


心配そうにするメイドを下がらせ、目の前にいる老婆に訪ねる。


「…………あれが私の未来と?」


「左様です」


屋敷の応接室、貴族の間で話題になっている占い師を喚びつけ占わせた結果がアレ。


そこで老婆の持つ水晶玉を言われるがままに覗き込んだら、白昼夢の様に見た絶望の風景。


「アーゼウス侯爵家の長女であり第一王子殿下の婚約者たる私が、ただの平民の女に遅れをとるか」


「この水晶が見せるは、もっとも世に近き未来。ただ座するままなら、その未来は貴女様を捕まえに現れる事でしょう」


「あれが奇術の類いでなければ道理か」


喉を潤そうとグラスを手に取ると、流れる仕草でメイドが水を注いでくれる。


その様子を見ていると、フと白昼夢の事を思い出す。


多くの者が手のひらを反すなかで、この歳の近いメイドを含めた何人かは捕まる最期まで見方でいてくれた。


あの私に味方した事で彼女達の立場はかなり苦しいモノになったはず。


……彼女達は、逆境に負けず壮健でいてくれるのだろうか?


「お嬢様?」


「え?あ、ありがとう。下がっていい」


呆けすぎた。


気を取り直す為に、水を仰ぐ。


果実の甘味をほんのり感じさせる冷えた水は、喉を癒すだけでなく、頭にも活を入れてくれる。


「先を知れば自ずと取るべき方法と手に加えるべき札も見える。そして、捨てるべき札も」


あの人は、あの平民の事が無くとも自分に都合が悪ければ躊躇い無く私を捨てるだろう。


あの人にとって、私の価値はただ家柄だけ。


それも絶対的な価値は無く。


民衆もそうだ。


嗜虐心を満たせれば、生贄は何でもいい。


なら、私もそうしよう。


ただ私の大事なモノだけが残ればいい。


「ご苦労だった。報酬は家宰より受けるといい」


「ありがとうございます」


私は席を立ち、メイドに付き添われながら部屋を出る。


これからやることは山程ある。


ここでは、必ず私が勝ってみせる。


そんな私を、ただただ見つめる占い師の眼を、私は気付かなかった。






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