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第3話


「は、速い・・・アイラが整備してくれてGに耐えられるギリギリまでボディを軽量化してくれたのに」


クロードの目の前には、シュナイデルのシップが行く手を塞いでいる。クロードは、準決勝まではぶっちぎりで勝利していた。


それは、他の選手とは圧倒的にスタートから加速するまでのレスポンスの差にあった。


このエアーレースに使用されている競技用のシップはエンジンや魔導供給は全て一緒なので、シップを支給されてからレースするまでの期間にどれだけメンテナンスするかの整備士の腕の差が勝敗を左右すると言っても良いのだ。


クロードの妹、アイラの整備士の腕は世界最高峰の技術と言っても良い。実際、準決勝までは他の選手を寄せ付けない程圧勝だった。


更に、クロードの操作技術とペイント弾を最高速度で一発で仕留める技術は観ている観客を驚かせた。


しかしーー、


「シュナイデルとの差が縮まらない・・・このままシュナイデルのシップに前を取られていたらチェックポイントの的を狙えない」


シュナイデルのシップがブラインドになっていて目標が正確に把握出来ないでいるクロード。


一歩退がり目標を見定めるか、あるいは自分のシップを上下左右にズラすしか方法はないが、


「このスピードでハンドルを切るのは、かなり危険だ・・・どーする?」


チェックポイントで的にペイント弾を当てることが出来なければ再び旋回し当たるまでやり直さなければならない。


一度外したら負けたも同然である。


その為、目標物を確認したら大抵の選手はややスピードを落とし、目標物を撃ち抜くことに集中するのだ。


「シュナイデルが一瞬でもスピードを落とした瞬間に抜き去り、目標物を撃ち抜く」


トップスピードを保ったまま二機のシップは目標物があるチェックポイントに差し掛かった。


「ーーまだ、落とさないのか?」


このままシュナイデルがスピードを落とさずペイント弾を的に当てたら・・・


クロードは、首を横に振り、


「嫌、絶対にスピードを落とす筈だ。必ず失敗を恐れる」


クロードの予想は的中しシュナイデルはスピードを緩めた。


それと同時にシュナイデルの少し上空からほぼトップスピードで目標物に向かってペイント弾を放つクロード。


クロードは、目標物の距離と位置を一瞬で把握しペイント弾を放ったのだ。


シュナイデルのシップを抜き去り前を走るクロード。


「くっ、どーなってる?」


完全に抜き去り、突き放したつもりがほぼ差がなくシュナイデルのシップは付いて来ている。


残り通過ポイント地点は二箇所とペイントチェックポイントは一箇所だ。


「何か方法は無いか・・・」


ペイントチェックポイントは、確実に突き放せる自信はあるがラストゴールまでの直線で確実に追いつかれ抜かれる危険がある。


ラストゴールまでの直線に出来るだけ多くのアドバンテージが必要なのだ。


山間の険しい崖の間を縫うように進む二機のシップ。時速二百キロオーバーで進んでいる。一歩操作ミスをすれば命すら危ない。


チェックポイントを通過し、拓けた見通しの良い荒野に出た。


再びフルスロットルのトップスピードに機体を乗せるクロード。その背後をピッタリとシュナイデルのシップが付いてくる。


「加速のレスポンスもほぼ一緒・・・か」


クロードは、ふと周りを見渡した。


「下は、砂漠?」


クロードの脳裏にある作戦が浮かんだ。




シュナイデルは、前方を飛ぶシップをピッタリとマークする。


「下民の割には、素晴らしい整備士の腕だ。このまま下民で働かせておくのは勿体無い」


貴族の最高レベルの技術者に整備を依頼していたシュナイデルを驚かせるアイラの整備士としての腕。それ以上にシュナイデルを驚かせたのは、


「あのトップスピードで的を射抜くとは・・・ん?」


シュナイデルの前方を飛ぶシップの高度が極端に下がっているのに気付いた。


「故障か?このまま下がり続けたら危ないぞ。大丈夫か?」


シュナイデルは、前方のシップに気を配るが決してスピードを緩める事はなく目標ポイント地点を目指す。


シュナイデルの前にペイントチェックポイントが見え始めた。


「目標との距離残り・・・」


次の瞬間ーー砂ぼこりが辺り一面を覆う。


「くっ、前が見えない。なぜ急にーー」


シュナイデルは減速を余儀なくされる。


そして、シュナイデルの頭に先ほどのクロードの低空飛行が思い出された。


「クソ! 奴にやられた」


地面は砂漠なので砂が舞い上がり易い。クロードは地面スレスレまで高度を下げ、そこから一気に急上昇させ砂ぼこりを舞い上がらせたのだ。


世界に配信されている映像には、砂ぼこりだけが永遠と映し出されていた。


会場で見守るギャラリーにも、中継で配信されている映像を観ている貴族たちにも現在、どーなっているか全くわからない状況だった。


「お兄ちゃん・・・」


アイラは、天に祈るように両手を握り締め目を閉じていた。

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