第2話
ーー遂に、ここまで辿り着いた。
ずっと思い描いていた夢まであと一歩だ。
クロードは、空を見上げた。透き通るような青と眩しい太陽。
「僕は、この空を飛ぶためにここまで来たんだ! 絶対に操縦士の権利を獲得してやる!」
競技用の飛行機のエンジンのスイッチを入れ、操縦桿を握るクロード。メインパネルに映る各部位の状況を確認する。
「エンジン出力・回転数オッケー。水温、魔力供給オッケー・・・いつでも行ける!」
クロードの乗っているシップは、競技用のシップなので魔力供給は予め最初からされていて相手も同じ状況だ。
本来のシップは、二人乗りで操縦士とサポーターの二人組でないと空は飛べない。特に、サポーターの魔道士による魔力供給がなければシップは動かないのだ。シップは魔力によりエンジンを動かしている。優秀な魔道士になればなるほどシップの本来持つ潜在能力を発揮できるのだ。
また、サポーターが優秀でもそのシップを操る操縦士がレベルが低いとシップが暴れてしまい、操りきれないのだ。
そのため、優秀なパイロットを年に一回世界中から集めてスカウトする大会、【エアーレース】が開催されているのだ。
今、まさに決勝戦が始まろうとしているーー。
☆ ☆ ☆
自由に飛びたいーー果てしなく続く空の彼方まで行って見たい。空と海の境界線の先に何があるのか見てみたい。
幼い頃から空ばかり見て来た。貴族しか住むことを許されない空中都市。貴族なら簡単に乗ることが出来る飛行機。
全てが憧れたーー。
下界の一般市民が飛行機に乗ることが許され更にパイロットになるのはただ一つ。
志願兵になる事だけだ。
それは死を覚悟する事を意味している。
他国と戦争になれば間違いなく一番最初に戦場に行かされるのは志願兵だ。
志願兵を希望する人間はほとんどがお金に困っているスラムの貧困の人々だ。仕事がなく生活が困難な家庭を持っている人が自分の命と引き換えに家族を養う。志願兵を希望すれば子供が成人するまでの間ほどの生活費が手に入る。一時の金欲しさに志願兵になる人もかなりいる。
下界の市民の働き口は大きく分けて三つ。
一つは、飛行機整備工場・飛行機生産工場・魔導武器工場の町工場。
二つ目は、志願兵のパイロット。
三つ目は、小売業だ。
一つ目の町工場は、大体が町全体で一つの工場を運営している。その町で生まれたら大人になったらその町の町工場で働くのが当たり前のようになっていて、倒産する時は町の人たち全員一緒のような感じだ。
三つ目の小売業もある意味で同じ。
新たに小売業を始めようなんて人はほとんどいない。昔から家業でやっているからそのまま引き継いでやっている人がほんとんだ。下界の市民相手の客商売なので生活するのがやっとだ。貴族が下界で買物をする訳がない。
そうなると察しの通り、志願兵のパイロットに仕事を求めて流れて行くのだ。
クロードもこのエアーレースで敗北した際は、空中都市アストレア帝国に志願兵を希望するつもりでいる。
明るい栗毛色の短髪で背は百七十センチあるか無いか。痩せ型で大人しい性格をしている。その性格が仇になることが多く、嫌な事を押し付けられても断れない性格だ。
幼い頃から空に憧れていたクロードは、実家の飛行機工事の仕事の手伝いをする傍ら、飛行機を独学で学んできた。また、仕事の手伝いで仲良くなったパイロットに内緒で飛行機に乗せてもらったりもしてその技術を身につけた。
この決勝進出も決してマグレではなくこれまでの独学の経験を活かした結果だったのだ。
☆ ☆ ☆
世界最高峰の操縦士を集め年に一度、各国の首脳陣や企業の代表などが集まり自分の欲しい人材を評価し獲得する。
エアーレースは、操縦士の飛行操縦技術・知力・体力・精神力の限りを尽くし戦う。
最高速度、三百キロで各チェックポイントを通過し更に目標物の的にペイント弾を当てなければならない。
この戦いは、全世界に配信されており順々決勝よりオッズが用意され賭博の対象となっている。この大会だけで何億という巨大な金額が動く事になる。
貴族たちにとってはお祭りだが、一般庶民にとっては年に一度の操縦士になる為の貴重なチャンスなのだ。
クロードも覚悟を持ってここまで戦い抜いて来たのだ。
『さあ、決勝戦間も無くスタートです。決勝進出者は、アストレア出身のシュナイデル・スチュワート選手。そしてもう一人、今回のダークホースな存在ウルカニア出身のクロード選手だ!』
割れんばかりの大歓声に包まれる会場。
決勝戦に開幕に合わせて花火の音が国中に響き渡るーーその音にビックリして白い鳩が飛び立つ。
今、スタートのシグナルが青に変わり銅羅の音が会場に響き渡ったーー。




