第1話
真っ白な世界が広がっているーー
視界にはただ白だけが飛び込んでくるだけだ。
辺り一面霧に覆われて何も見えない中を小型飛行船で飛行している。
「クロード、何か見えるます? 」
「嫌、霧が凄くて何も見えないシャルルしっかりレーダーで前方の確認を頼むよ」
操縦桿を握りながら辺りを見回すクロード。
しかしーーこの霧では何も見えてこない。
「任せて下さい。 クロードは操縦することだけに集中して、きっとこの霧の中にあるはずです」
後部席のサブパネルのレーダーを確認するシャルル。
けたたましく鳴り響く通信機ーー。
「ハイ、 シャルルですーーっ」
雑音とノイズが酷く上手く聞き取れないーー
「シャ・・・今・・・無理・・・」
「ノイズが酷くて聞き取れないです。 もう一度お願いします」
「シャルルどうした? 通信か」
前方の操縦席からクロードの声が響いたーー。
「母船基地戦艦からの通信だったけどノイズと雑音が酷くて聞き取れませんでした」
「ラグーナから通信・・・今のところレーダー異常ないよな?」
心配そうに通話口に向かって眉をへの字にしてるクロード。
「問題無いです。 敵船も障害物もありませんわ」
「単なる現状を把握したかっただけなのか?」
深まる通信の謎ーークロードが黙っているとーー
「前方に障害物反応あり!! 目視確認出来ますか?」
観測レーダーを覗き込みながらクロードに指示を出すシャルル。
「駄目だーー霧が邪魔で確認出来ない」
辺りを見回すが、後方や左右は霧が晴れているのかどうか確認しようと後方を振り返るとーー、
「敵小型船だ!! 」
霧の中をまるで見えているかの様にドルフィンに迫り来るオルカーー、
「シャルル追い付かれる! 全速前進だーー」
後方から迫り来るオルカとの距離を測りながら後部席のシャルルに指示を出すクロード。
「前方の障害物の確認も出来てないのにーー何なのよ。 全速前進!」
シャルルは魔力供給テーブルに両手を翳すと、エンジンがフル回転する。
一定の距離を保ったままオルガを引き連れ障害物ポイントに近づくーー
「そろそろポイントよ。 目標確認出来た」
「ーーーー」
クロードからの反応がない・・・
「クロード聞いてます? 応答してください。目標確認出来ましたか?」
「ああーー僕たちの考えは正しかったここにオーパーツが眠っているかも知れない」
クロードは霧の合間から見える景色を見つめてシャルルに話しかける。
「じゃあ、遂に見つけられたのですね」
シャルルも満遍の笑みを浮かべた。
「ああ、スモーカーズクラウドの中にあると言われているバベルの塔」
その時ーーオルガからの砲弾攻撃を受けるドルフィン。
凄まじい爆発音と揺れる艦内ーー
「ーーぐっ」
警報が鳴り響く船内ーー
「ーーシャルル被害状況は」
「・・・・・・」
「シャルル? どうした」
再び砲撃を受けるドルフィンーー
砲弾はドルフィンのボディを撃ち抜き、煙を上げて明らかに高度を下げ堕ちてゆくーー
「シャルル、シャルル、シャルルぅぅぅ」
オルガはゆっくりと速度を落とし堕ちてゆくドルフィンを見下しているようだった。
「覚えてろよ! 必ずまたこの空に戻って来るからな」
霧の中に煙を上げ消えていったドルフィンを確認してオルガはバベルの塔へと向かった。
その後を霧の中から敵母船基地がゆっくりと姿を現わせオルガの後をついて行ったーーーー。
クロードの目の前は真っ暗になり記憶が消えたーーーー
ーー
* * * * * * * * * * * * *
可愛らしい声が聞こえた。
「お兄ちゃん起きて」
ハッと目が覚めた。ーーーー最後の瞬間まで手の温もりと感触はあってそれは現実だったんだと思う程だ。
ベッドから体を起こし震える自分の手を見つめるクロード。
「ゆ、夢? だけど何でだろ・・・涙が、涙が止まらない」
クロードの目からは止めどなく涙が溢れる。
「お兄ちゃん、何で泣いてるの?」
鮮明に脳裏に焼き付いていて目を閉じれば先ほどの場面を思い出す事が出来るほどだ。
しかし、その場面は思い浮かぶが肝心の中身が思い出せない。もしその事を思い出さなければこのまま大事な何かを忘れてしまう気がしていた。
夢の女の子は誰だろう?
「分からない、分からないけど悲しいんだ」
アイラは、不思議そうにクロードの顔を覗き込む。大きな瞳がクロードを見つめる。
「お兄ちゃん、今日は大事な決勝戦よ。ここまで来たんだから絶対に優勝しよーね」
パチンとクロードの顔を両手で挟んだ。
「って。 そーだね!優勝しよーな!」
アイラは、クロードの義理の妹だ。血の繋がっていない事は二人とも知っている。それでも本当の兄妹のようにここまで過ごして来た。
ショートカットの茶色の髪に大きな瞳、背が小柄なので目がとても印象的に見える。
「お兄ちゃん、先に行ってシップのチェックしてるわよ」
「うん、ありがとう。いつも助かるよ」
「何言ってるのよ。お兄ちゃんの手助けがしたくてここまで一緒に来たんだから」
アイラは、そう言うと部屋を出て行った。
クロードはアイラの出て行ったドアを見つめていたーー。
夢なのか、現在なのか、分からない記憶がある。
地獄の様な世界の記憶と、真っ白な世界で撃ち落とされた記憶。
幼い頃からずっと見てきた二つの夢。
そして、一つ覚えている名前がある。
「・・・シャルル」
記憶の中にある知らない女の子の名前を空に叫んだ。