第11話
ーーアストレア帝国議会ーー
「どーゆー事じゃ、シュナイデルがバルティカなんぞに奪われるとは」
「前代未聞の出来事だぞ!」
「なぜすぐに契約しなかったのだ?」
「誰の責任だ?」
「シュナイデルほどの腕の操縦士は他にはいないぞ」
アストレア中の貴族が集まり口々に言いたい事を言い合っていると、木槌の乾いた音が議会室に響き渡ったーー。
「静粛に、マリーアントワネット様の御登壇だ」
先程までとは打って変わって静まり返る会場。人々は呼吸すらしていないんじゃ無いかと思ってしまうほどの静けさだ。
その中を颯爽と現れる煌びやかな宝石を身に纏い、アストレアを彷彿させる血のような真っ赤なドレスを着飾っている。頭には金の宝石が散りばめられたティアラを付けている。
何よりもその自身に満ち溢れた顔付きがまさに皇帝という名に相応しい。
「何じゃ小童共、世をこんな処に呼び出して何の騒ぎじゃ?」
マリーアントワネットは面倒臭そうに赤い羽根で出来た扇子を仰いでいる。
「はい、実は大事件が有りましてーー」
黒いスーツに身を包んだ役人の男性が恐る恐る話を切り出す、
「事件じゃと?ーー申してみ」
「実は・・・我が国の操縦士シュナイデルがーー」
役人が説明をしようと話してる最中にマリーアントワネットが口を挟む。
「シュナイデルとな、彼は素晴らしい操縦士だそうじゃな。何でも何十年に一人の操縦士と聞いておる。今日はここに来ておるのか?」
「・・・・・・」
凍りつく会場ーーこの場から全員が逃げ出したいと思っていた。何名かは死にたいとすら思ったに違いない。
「何じゃ、来ておらんのか?」
「えっーーあの、その」
言葉に詰まる役人にーーマリーアントワネットから扇子が飛び役人の額に直撃する。
「余の質問に答えよ!!二度と同じ事を言わすな!」
「は、はい。申し訳ございません」
地面に頭を擦り付け謝罪する役人。
「貴様は今すぐ余の前から消えよ!そして二度とその面を見せるな!!地上へ墜ちよ」
「そ、それだけはどうか御勘弁をーー」
マリーアントワネットが指をパチンと鳴らすと会議場の外から数名の黒づくめの男達が現れ地面に頭を擦り付けている役人を抱え強制的に外に連れ出して行った。
「シュナイデルはどこじゃ?誰か答えよ」
その質問に対しての答えを皆言えずに沈黙だけが過ぎて行く。マリーアントワネットの顔付きが豹変するーー。
「貴様らは余に辱めを晒す為に呼んだのか!!」
マリーアントワネットの魔力が増大し会議場地響きが起こる。その恐ろしいまでの魔力に会議場の人々は肩を震わせていた。その時ーー、会議場の扉が音を立てて開かれる。
「いやあ、遅れてすまないねえ」
この状況下でも何の御構い無しに平然と会議場に入って来る。
オールバックに髪を決め、サイドを刈り上げ赤と金のラインの入ったアストレアの紅い操縦服。更にアストレアの貴族が所有する金の家紋が入ったマントを身に纏った男性が笑顔で登場した。
その瞬間、みんなが助かったと安堵の表情を浮かべた。
「オーウェン」
先ほどは打って変わって笑顔になるマリーアントワネット。
「おお!マリー、何怒ってたの?」
笑顔でマリーアントワネットに近寄るオーウェン。この男こそ現アストレア帝国航空魔道隊隊長にしてこの世界最強の撃墜王、オーウェン・ファン・ハンプスブルクだ。
「オーウェン聞いてくれ。皆、余の質問に答えてくれんのじゃ」
顔を赤く染めオーウェンに抱き付き甘え声を出す。そのマリーアントワネットの髪を撫でながら、
「それは良くないな、マリーも怒るよな。何て質問したの?」
「余はあ、余はあーーシュナイデルはどこじゃと聞いたのじゃ」
その瞬間、オーウェンの顔が一瞬で真っ赤になる。マリーアントワネットも固まるほどのオーウェンの豹変振りにガタガタと震え出す。
「あ、あ、・・・お、オーウェン?」
マリーアントワネットの撫でていた髪を力一杯握り締め、
「アイツは許さない!!シュナイデルるるるぅぅぅ!!!」
マリーアントワネットの髪を思いっきり引っ張るオーウェン。
「痛い、痛い、痛い、痛い、辞めてオーウェン、ごめんなさい、ごめんなさい」
涙を浮かべ必死で謝るマリーアントワネット。
ハッと我に返って涙を流すマリーアントワネットを抱き寄せるオーウェン。
「ゴメンよ、痛かっただろ?」
そっと頭を撫でるオーウェン。
「うん・・・」
「部屋に戻って紅茶を一緒に飲もうよ」
「うん」
オーウェンの腕にしがみつくマリーアントワネット。二人はそのまま会議場を出て行くのであった。
この間、会議場にいる役二百人ほどの貴族達はこの二人のやり取りを無言でみせられていたのだったーー。
ーー マリーを虜にしたオーウェンとは ーー