第10話
ーーレムリア航空養成所整備室ーー
「ーー良くこんな旧式のドルフィンで優勝したなあ、改めて関心するぜ」
同じ飛行部隊班のベクターがまじまじとクロードの飛行船を眺めていた。
「親父の形見の飛行船なんだ。見た目はボロだけど、妹がチューニングしてくれてるからそれなりのパワーは出るよ」
「確かにエンジンルームは、配線からギアまで手が行き届いてるのはすぐ分かったよ。旧式のドルフィンでここまで手が込んでいるのは見た事ないぜ」
「えへへ、凄いでしょ?」
「ああ、大したお嬢ちゃんだぜ」
ベクターはアイラの頭をわしわしと撫でた。
「そう言えば」と、思い出したようにクロードに、
「お前らあのラグーナに搭乗させてもらえるんだってな」
「ああ。まあ、シャルルのおかげだけどね」
苦笑いを浮かべ頬を掻くクロード。
「そんなことないぞ。エアーレースの決勝を観てたが、お前の操縦テクニックと空中でのバランス感覚は天才的だった。それが認められんだ。もっと胸を張って良いぜ!」
「そ、そーかな?」
「ああ!何せあのシュナイデルに勝ったんだからな」
ガハハハと大声で笑うベクターだったが、更に「そう言えば」と、付け加える。
「シュナイデルと言えば、何やら噂ではアストレアを裏切ったらしいぜ。今アストレア帝国中で大騒ぎになっているらしいぞ」
「シュナイデルが・・・なぜ?」
「アストレア生まれで貴族育ちの優秀な操縦士。その中でも何十年に一人と言われてる天才。天才の考えている事は凡人には理解出来ないぜ」
「シュナイデルさんが・・・」
アイラはシュナイデルとエアーレースの会場での出来事を思い出していた。その時のシュナイデルがアストレア帝国を裏切るとは到底思えなかった。
兄のクロードもそうだが、操縦士は皆、アストレア帝国の赤に金色のラインが入った操縦服に憧れる。ドルフィンもやはり赤。一部の人間からは紅い悪魔とも呼ばれているが、アストレア帝国の操縦士は正に英雄扱いされるほどの人気と実力を兼ね備えている。
そのエリートコースにいて、アストレア帝国のエース候補であったシュナイデルがなぜ、その座を捨ててまで他国に行くのか今のクロードとアイラには分からなかった。
☆ ☆ ☆
シュナイデルの裏切りになぜ国中が騒ぐ程のニュースになるのか?
ただ、一人の操縦士が他の国に移籍しただけだと思うが、優秀な操縦士は一人で国一つ消し去る程の実力を兼ね備えているのだ。
優秀なサポートとコンビを組めば一撃で小国の母船を破壊することも可能なのだ。
サポートは魔道能力を持った女性で、航空機を動かす魔力供給源となる。航空機を飛ばすには彼女たちがいないと動かないのだ。
操縦士は、航空機を動かすのと敵機撃退を担当している。敵機撃退には、航空機に装備されている魔導砲が使われる。操縦士が操縦桿を握った時にサポートの魔力が操縦桿に伝わり操縦士の力量により魔導砲の威力が変化するのだ。
いくら、優秀なサポートがいて莫大な魔力量を供給しても操縦士の力量が乏しいと魔導砲の威力は減少してしまう。
また、操縦士が優秀でもサポートの魔力量が少なければ航空機のスピードも魔導砲の威力も性能を十分に発揮することが出来ないのだ。
アストレア帝国が恐れているのは、世界最高レベルの操縦士が他国にいると言う恐怖なのだ。サポート次第では、あのゼノギアスを破壊することも不可能では無いかもしれないのだ。
シュナイデルという最高の武器を失った代償は国家レベルでの大打撃だった・・・。
この世は航空時代、空を制した国が世界を制するのだ。
ーアストレア帝国が緊急の総会を開催したー