プロローグ
爆発音が轟いて、また轟くーー絶え間なく降り注ぐ弾丸の雨。
地上はすでに火の海と化している。
人々は物陰からそっと空を見上げている。
空中に浮ぶ巨大な城と無数の戦闘機がまるで害虫を駆除するかのように町を破壊する。
空からの脅威に怯える民衆たち。
その光景を物陰から見ている少年がいた。
少年の憧れていた空とは違った。
この空の果てにはまだ見た事のない世界があり夢や無限の可能性があると思っていた。
突き付けられた現実は余りにも残酷だった。
この残酷な世界から抜け出したい。空も陸も全てアストレア帝国が支配している。
少年の周りには傷付いた沢山の兵士が横たわっている。包帯をぐるぐる巻きになって血は滲んでいる。沢山の兵士に混じり小さな子供や女の子も同じように倒れている。
もし、あの時違う選択をしたならばこの戦争は終わったのか?
違う道を進んだらその先には違った未来が待っていたのだろうか?
少年は空を見上げたーー
憧れていた青と白のグラデーション。信じていた空に希望はなかったーー。
「・・・やりなおせたらな」
唇を噛み締めながら思わず口から溢れた言葉。
「その選択やりなおしてみる?」
「ーー誰?」
少年の目の前に一人の少女が立っていた。
服も髪も汚れていないし乱れていない。
今のこの残酷な戦場とは無縁と思えるような姿だった。
「今の人生をやりなおしたいんでしょ?」
少女は表情一つ変えずに少年を真っ直ぐ見つめていた。
そして、少年は気付いたーー時間が止まっていることに。正確に言えばまわりの景色が止まっているのか。自分と少女以外の全ての人や物がその場で停止しているのだ。
「・・・本当にそんなこと出来るの?」
まわりの止まっている現象を確かめるかのように少年は周りを見渡す。
少女は頷き、
「ただし、今までの記憶は全て消去されるわ」
「ーーーー」
少年は空を見上げた。止まっている空間の空にはあの巨大な城と無数の戦闘機が埋め尽くしていた。
「記憶を全て消去する代わりに君の今現在の記憶を三つ呼び起こすことが出来るのはどうだろうか?」
少女は表情さえ変えてはいないが腕を前に突き出して指を三本立てて見せた。
「ーー記憶を三つ過去に」
少年は腕を組み顎に手を当て考えていると、
「覚悟が決まったら過去に持って行きたい記憶を三つイメージして」
少女は少年を急かすように少し強引に話を進めた。
少年は覚悟が決まったのか、目を閉じたーー
「この先、明るい未来なんて待っていない。なら僕が未来を変えてみせる」
「新しい選択で、未来が変わるといいですね。私も楽しみよーーーー」
次の瞬間ーー目の前が真っ暗になった。
ーーシャルル待っていてくれ、今すぐ君に逢いに行くよ。
そして、今度こそは君を守ってみせる。
クロードの記憶は消され新たな人生がリスタートした。