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異世界での新たなスタート

1ヶ月以上待たせてごめんなさい。中々文が思いつかずにダラダラしてました…



「ひゃっほう!」



二階から端末を使って着替えを召喚した俺は、テンションが上がったまま宿の風呂に飛び込んだ。

日本人たるもの、この世界でもちゃんと全身浸かれる風呂の存在はとてもありがたい。この宿の風呂の仕組みは、水の張った浴槽の下に熱を持たせた魔石を敷き詰めた、鍋みたいな造りをしているそうだ。



湯船に入る前に俺は体を洗うため、風呂桶を使い体についた汚れを落とす。湯加減は少し熱いくらいだが、丁度いい。

この世界にはシャワーといった物はなく、体を洗う際は浴槽の両側に備え付けられた洗い場を使うスタイルで、直ぐにお湯が掬えるようになっている。



俺は備え付けの石鹸で体を洗うのだが、1つだけ不便と感じた事が体用と頭髪用の石鹸が同じ物のため、今まで慣れ親しんだシャンプーというものがない部分だ。そのお陰で髪は洗ったにも関わらずコワゴワになってしまった。



「今度シャンプーでも出すか……」



体を洗い終えた俺は、お待ちかねの湯船に浸かる。軽く泳げるくらいの広さのある浴槽で貸切状態の湯船で抜ける力は全て抜いて伸びる。この瞬間だけは異世界転生したことも忘れ去れるくらいにくつろげる。

因みにかつて海外派遣された自衛隊だが、派遣後真っ先に建てられて保養施設が風呂だった辺り、日本人にとって温泉というものは偉大な存在である。



「……ふわぁぁぁ……」



転生してから妙な緊張感や疲労で疲れた俺は自我を忘れ、意識が飛んだ事すら気付かないまま眠りについてしまった……。



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「……さん……どうさん……!」



「ん?あぁ……?」



「士道さん!」



「うわっ!」



「もう、風呂で寝たら危ないよ!」



そう言って俺を起こしてくれたのはルクスとマフトだった。どうやら気持ちよさに負けて小一時間寝ていたらしい。

二人はギルドにゴブリン討伐の件を報告しに行った帰りにここで立ち寄って疲れを癒しに来たらしい。この町にはちゃんとした公衆浴場があるそうだが、ギルドで合流したフィーナからここが貸切状態だった事を聞き付けて立ち寄ったそうだ。



「それにしても気持ちよさそうに寝てたねぇ」



「ああ。お陰で疲れが取れたよ」



「そういえば、士道さんのいた所にも温泉はあったんですか?」



「勿論。俺のいた地域の人間は殆どこうした風呂の入り方をするかな、むしろココでこんな立派な風呂に入れる事が驚きだよ」



「へぇ、アクアポルトの習慣が士道さんの住んでいた所にもあったんだね!」



ルクス曰く、この国の温泉の歴史はアクアポルトから発祥したらしく、冬に町の噴水に子供が火の魔石を投入してから温かくなったお湯に体をつけていた事が始まりらしい。

そしてこの宿に温泉があるのも、看板娘のエティがアクアポルト出身という事と客に対するサービス向上も兼ねて改築されたとの事だ。



「みなさ~ん!そろそろ交代の時間ですよ~」



「わかったよエティさん!」



俺が長湯し過ぎて女性との交代時間がきてしまったようだ。上がろうとして湯船から出たはいいが、やはりというべきか、俺の体は長湯のせいで真っ赤に染まっていた。



「あははは!士道さん体がゆでダコみたいになってるよ!」



「ははっ、見事にゆで上がりましたね」



「うるせー。しっかし、ホントに茹で上がってるみたいだ……」



「それと上手い具合に出汁がとれた感じですね」



「鍋みたいな造りしてる風呂釜だから尚更そう感じるよ……」



風呂から上がり、体を拭いてから予め用意していた下着を着る。戦車にせよ、俺が普段から然り気無く着ている服もこの異世界では珍しい物らしく、二人とも興味津々だ。とくに中世時代を彷彿とさせるこの世界のパンツは、両側を固定する為の紐が付いており、ゴムが入って自在に伸びる現代の下着は未知なる代物だ。



「すごいや!そのパンツって伸びるの!?」



「まぁな、俺らは大体こんな下着をつけてる」



「これがあれば着替えるのが面倒じゃないですね」



俺達が着替えを済ませて風呂場から出ると宿の受付にエティとフィーナが楽しそうに話している光景が目に映った。俺らが上がるのを待っていたのだろう。



「士道殿……、ってなんだ真っ赤なその手足は?」



「風呂の中でも寝てしまってな、この二人が助けてくれなきゃ危なかったわ」



「はぁ……しかし、綺麗に茹で上がったな」



「まるで日に焼けた気分だ。それより、フィーナはもうギルドの用事は終わったのか?」



「そうだ。帰り道にエティさんと会ってな、風呂に誘われたんだ」



「士道さん、お部屋にお水用意してますので寝る前にでも飲んで下さいね」



「ありがとうございます」



俺は風呂に向かうフィーナ達や家に帰るルクス達を見送ってから部屋に戻る。部屋に用意されていた水を飲み干してから窓の外の風景を見る。暗闇の町並は建物の外壁に掛かったランタンが道を照らし、落ち着いた雰囲気を演出している目に優しい光景だ。



ベッドに横たわり今日1日おきた事を振り返る。目が覚めたらゴブリンに襲われそうになり、熱中症で倒れてるフィーナに首を絞められて殺されそうになってから異世界で戦車砲をぶっ放し異世界の町に泊まる。初めて尽くしで脳が処理しきれてないのか、一度寝たにも関わらず俺は直ぐに眠りにつく事ができた。




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「士道殿、朝だぞ」



「ん……あ? ああ、フィーナか……」



朝、ベッドで寝ている俺をフィーナが起こしに来た。初めて会った時の鎧姿とは違い、今日はかなりラフな格好で来ているが、愛用の剣を持ち歩いている限りこれが本来の格好なのだろう。



「ふぁーっ、おはよう……」



エティが朝食を用意しているというので、俺はフィーナに案内されるがままに着替えを済ませて食堂へと向かう。

用意されていた朝食は、目玉焼きとサラダとパンという、日本でもよく見かけたものだった。朝食を済まし、エティに礼を言ってからフィーナと一緒に外に出る。



まだ朝早い時間だが、町の大通りには露店を開く準備をしている人々で賑やかだ。露店には野菜などの食材や魔石と思われる石が置かれている。まずはギルドに向かい、冒険者手帳とやらを発行するために必要な費用や話を聞く予定だ。



「着いたぞ、ここだ」



宿から大体10分ほど歩いた場所にある冒険者ギルドは街中の建物より大型で、門の両サイドには馬に跨がった剣士の石像が立っていた。扉を開けてから中に入ると、広間に受付カウンターの様なものがあり、壁には依頼を提示するための掲示板がある。

だが、今の時期は魔物の出現率が低いのか、かなり閑散としており、数枚の貼り紙と地元の冒険者がいるくらいだ。



「あら、フィーナさん、おはようございます」



「おはよう。リュカさん、こちらの方が冒険者に登録したいとの事だ。よかったら冒険者について説明してあげて欲しい」



「分かりました。では、こちらへ」



受付嬢のリュカに案内された俺は、普段このギルドの食堂で使われているであろうテーブルに案内され、この世界の冒険者について説明された。主な内容は依頼の受領と報告についてと戦闘スタイルによって分かれる、いわば職業のようなものについてだ。



前者は町のギルドに貼られているポスターを提示してから依頼の受領を行い、魔物の討伐なら打倒した魔物の体に一部、人対人の例えば移動の護衛等の仕事を受ける際は必要書類に依頼のサインを貰い初めて報酬が貰えるとのこと。そして、冒険者には専用の指輪が渡されるらしく、これは嘘発見器としての役割を持っているという、魔法のある世界ならではのオーパーツだ。

当然、冒険者としての登録を済ませているフィーナは指に例の指輪をはめている。



「へぇ、その指輪にそんな機能があったんだな、てっきり婚約指輪かと思った」



「士道殿のいた地域では婚約者は指輪をはめるのか?」



「まぁな。こっちでは違うのか?」



この世界では指輪の代わりにペンダントを相手に贈ることが慣わしのようだ。

次は冒険者の種類についてだが、大きく分けて2つの分類があり、直接敵と戦う戦闘職、仲間の支援を行う援護職に分かれるらしく、戦闘職には剣や弓のような物理攻撃主体のタイプと魔法で攻撃するタイプがあるそうだ。



援護職は仲間の回復を行ったり、敵の視界や聴力を妨害し、戦闘職の魔法使いの味方に魔力供給を行うといった役割である。そのため仕事の都合上、援護職は魔法使い主体で構成されるそうだ。

そしてフィーナは剣士であるため、戦闘職に分類される。

この場合、俺は戦車に乗って戦うため、登録する際には戦闘職として登場することになるだろう。



「えーっと、お名前を伺ってもいいですか?」



「はい、川端士道と申します」



「では、士道さんはどちらの職業につかれますか?」



「戦闘職で。ただ、今はお金が無いため説明を聞くだけになりますが……。 なので冒険者になるためには幾ら用意しなければいけないのか教えてもらえれば……」



「はい、登場手数料は1万ラリとなります。今のシーズンなら混んでないので直ぐに登録できますよ」



「ありがとうございます」



ギルドを後にした俺は登録までの資金繰りについて悩んだ。1万ラリはこの世界の物価から計算して日本円に換算しておよそ100万円だ。



「うーむ、いきなり摘んだな」



「何にだ?」



「恥ずかしい話、俺はこの国でどうやって金を稼ぐか詳しくは知らない。冒険者稼業をしたくても支度金がないからな、何か金を稼げる手段はないのか?」



「それなら町の仲介所で仕事を探してはどうだ? 魔物の数と反比例して今の時期はかなり仕事がある。この辺の事について知らないことが多い士道殿にも何か出来るものがあるのはずだ」



フィーナが言うには、この町には冒険者以外の人々に仕事の紹介をする、地球上で言うところのアルバイトの仲介人がいるらしい。報酬金も即日支払うとの事と報酬の受け取りをギルドで行う関係上、ここから距離も離れていない。俺はフィーナに仲介所まで案内しらい、仕事を探しに行った。



(まるで就活生になった気分だ……)



ギルドのすぐ近くに交番くらいの小さな建物に一人の若い男性が入っていた。ここが仲介所みたいだ。



「おはようございます。おや?見慣れない顔ですね」



「はじめまして、川端士道といいます。こちらで仕事の仲介をしていると聞いたのですが……」



「はい、そうですよ。ですが今の季節だとあまり仕事はありませんが……」



そう言って男性は仕事内容が書かれた紙を机の引き出しから取り出した。というものの、フィーナや仲介人曰く今ある仕事は将来冒険者になろうと考えている子供向けに用意された仕事が多い。確かに内容を見る限りギルドのトイレ掃除や皿洗いなど子供にも出来そうな仕事もある。何より手伝いの報酬金が思ったよりも高い。1日働いたら150ラリくらい貰えると書いてあり、これは日本で平均的なアルバイトをするより高額だ。



「何かいい仕事はあったか?」



「俺の基準では皿洗いだのトイレ掃除だのの仕事でここまで稼げるってのが驚きだ」



「だが基本的にこれは子ども向けの仕事だ。いい大人が子供に混じって皿洗いするのか?」



確かにそんなしたら凄い浮きそうな絵面は簡単に想像できるし、なにより大人げない。なら他の仕事を探すしかなく依頼リストを眺めてゆき、ある仕事が目についた。それは荷物配達の仕事なのだが、報酬が10~20ラリと少ない。俺が他より少ない報酬金の表記に疑問を感じた俺の気持ちを悟ったのか、仲介人が少ない理由を説明してくれた。



「荷物の配達は届けた回数によって報酬金が増えるシステムです。例えば10回配達すれば100ラリになります。基本的に時間の余った冒険者や仕事帰りの人が家までの導線に合わせて受けるパターンが多いです」



その話を聞いて俺の中で1つのアイデアが浮かんだ。この仕事は何か一気に荷物を運べる手段があれば稼げる。そして俺の知識やスキルがあればそれは可能だ。俺は仲介人にこの仕事を受けると伝え、一度仲介所を後にする。



「何をするつもりだ?」



「まぁ見てな」



俺は召喚スキルを使い、端末からある物を2つ取り出す。まず最初に取り出したのは、日本人には馴染み深いバイクである、スーパーカブだ。新聞配達でお馴染みのこのバイクは雑な扱いや荒い乗り方をしても壊れない事を前提に設計されており、世界一頑丈なバイクの名をほしいままにしている。

この世界で荷物配達の仕事をするには最適な選択だ。そしてもう1つ、今度は自衛隊でお馴染みの半公式非公式装備であるリヤカーを召喚した。



「な、なんだこれは!?」



「バイクって言う俺がいた国で多く使われていた乗り物だ」



そして召喚したリヤカーとバイクを繋ぐための金具と工具を召喚して連結させる。これでこの異世界で初めての配達マシンを製作した俺はこのバイク一体型リヤカーに安易なネーミングをつける。



「うーん、昔チャリにリヤカーを引かせるチャリカーってのがあったよな。よしならコイツはバイクに引かせるからバイカーだ」



こうして俺の異世界ライフの小さな一歩がスタートしたのだった。


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