スプリング・イン
お待たせしました。
中々戦闘シーンに突入しませんが、恐らく次の次くらいで入れると思います。
町の城門が開くと目の前には中世風味の街並みが 広がっており、やっぱり俺は異世界に来たんだとさ実感する。
城門を開いた先には大通りが通っており、両サイドに露店が展開されていが、時間的には夕方になっていた為、店じまいをしている人々が多かった。
「士道殿、こっちじゃ」
ガリアンに案内され、俺は戦車を町の城壁に沿って停車させる。武器の類いはあらかじめ携帯しないようにと言われた為、車内にP90を入れて物の召喚端末だけ取り出して戦車から降りる。
「すまないな、士道殿。 この武器は誰かに取られぬよう、我々がしっかりと警護させてもらうからの」
「ありがとうございます。危険な武器ですので、そう言って貰えると助かります」
「ところで、士道殿はこれからどうするつもりだ?」
「あ……」
しまった。冊子の言われるがままにココまで来てしまったが、町に着いてからの予定なんて一切考えてなかった。当然この世界の通貨なんて持ち合わせていないため宿代なんてない。最悪戦車で寝泊まりするしかないか……。
「……その様子じゃと、決まってないようじゃな」
「はい……。お金自体は持っているのですが、この町で使えるとは思えませんし……。」
実際、旅行に行く途中で死んで、転生時に持っていた所有物は身につけていたので財布には10万程入ってはいたが、この世界では「ラリ」という単位の通貨が使われているとの事なので言わば無一文状態だ。
「通貨の単位まで違うとは、一体どれだけ離れた遠方から来たと言うのじゃ。しかも紙の通貨とはな、しかし、物凄く精巧に作られておる」
日本の紙幣は世界でも随一のクオリティを誇っているものの、外貨を両替できる手段なんて存在しないため只の紙切れでしかない。
ガリアンは悩んだ後、俺に宿屋の斡旋をしてくれた。しかも代金は無料で泊めてくれるように手配するとまで言ってきたのだ。
「いやいや! そんな迷惑掛けれませんって!」
「構わん。それに士道殿にはフィーナを助けてくれた礼もある。それにあれほどのゴブリンを倒してくれたのじゃ、宿代なんぞ安いモンぞ」
行き場のない俺は素直にガリアンの厚意に甘える事にした。弟の経営する宿に泊まってもらうとの事で場所は指定されるが、俺はこの異世界の宿、もとい住居の造りがどうなっているのかという好奇心が湧いてくる。
「ワシは宿に話をしに行ってくる。フィーナ、士道殿にこの街を案内しておくれ。マフトらはギルドにこの一件について報告するように」
「「はっ!」」
「士道さん、今度色々話を聞かせてね!」
フィーナの友人だと言うエルナは元気よく別れの挨拶を告げてから町のギルドがあるであろう方向へと向かってゆく。
瞬く間にフィーナと二人きりにされた俺は彼女の案内に従う。
彼女から話された主な内容は、この町の主要施設、東西に位置する街について、そしてこのウィスカの簡単な歴史についてだ。
元々この町は東西に位置している、アクアポルトとコールマンからやってきた行商人や冒険者らが小さな休息拠点として利用していた事が始まりとなっていたらしく、次第にお互いの街の特産品や資材などの交易が盛んになり町として発展したそうだ。
また、町の建物の外見もお互いの町の建築様式を真似しているらしく、炭鉱都市としてさかえたコールマンは石で出来た武骨な建築物が並んでおり、アクアポルトにはギリシャのサントリーニ島のような、白を基調としたオシャレな建物が並んでいる。
これらの建築物は町の大通りを境に仕分けされるような形で建てられているため、綺麗に色が別れている。
町の建物も最初は小さな小屋がある程度だったが、今では町の外周を大きな壁で囲い、中には立派な建物が並ぶ町のに発展している。
城壁は町の近くで俺が出てきた森に魔物が群生しており、町に魔物を侵入させないようにするための物で城壁の上には大型のバリスタが設置されており、これで魔物を撃退するそうだ。
そして元々この町は他の街からの移住者で成り立っており、魔物のという共通の敵が居て、尚且つ少ない人間で町を守るという環境下で、互いに協力し合う関係が成り立っている。そのため種族や肌の色の違いでイザコザが起こらず町の雰囲気は良好だそうだ。
転生後、真っ先にこの町を目指すように誘導してくれた女神、アリアスには感謝しかないな。
次に町の主要施設だが、やはり俺みたいな戦闘職に就いている人間が一番世話になるのが冒険者ギルドらしい。
この施設は冒険者として魔物の打倒や他の町へ出向く行商人や輸送部隊の援護といった町の住人の依頼を受けるための仲介所としての役割が主になるが、新規の希望者を冒険者として登録してくれるらしい。
武器の召喚能力に縛りのある俺のとりあえずの目標は、この世界で冒険者として登録することだ。
冒険者として登録しなければ能力の強化をすることは勿論、この世界で生活するための資金すら確保できない。
他にも話したいことが色々あったそうだが、これ以上話していると夜になってしまうため、フィーナは話を切り上げて俺を宿まで案内してくれる。
服が地球上の物のため、道行く人々に毎回視線を向けられるが、そんなこと気にしてはいられない。むしろ、長い耳や尻尾の生えている人間以外の種族の住人に俺の視線が行ってしまう。やっぱりここは異世界なんだな……。
「ついたぞ、ここだ」
石畳の大通りを少し外れた所にガリアンが斡旋してくれた宿泊先の宿に着いた。建物には異世界の言葉で「スプリング・イン」と書かれた看板が掛けられており、白を基調とした色をしている造りのため、アクアポルト側の建築様式だろう。建物の前にも花を植えたプランターが置いてあり、洒落た作りをしている。
「ん?どうした?緊張してるのか?」
「まぁな、この国は俺のいた国とは色々と違いすぎる」
「心配しなくていい。この宿のガルフさんとエティさんは親切な人だ。安心してくれ」
フィーナについてゆく形で宿屋の扉を開けると宿のカウンターに中世風味の服を纏った兎耳の女性が立っていた。見た感じの年齢は俺と同じくらいで、清楚感のある白髪のロングヘアーをしており目は多少つり目だが、優しい表情をしている。
「いらっしゃいませ!」
清楚感のある女性というのが第一印象だが、俺を迎える際には元気のある声だしており、お姉さんじみた見た目の彼女は可愛いらしくも見える。
だが、それ以上にピョコピョコ動く彼女の耳が気になって仕方ない。
「おや? フィーナさんも一緒と言うことは、ガリアンさんの言ってた川端士道様ですか?」
「はい。この度はお世話になります」
「ガリアンさんにお話は伺っております♪ お部屋の用意も出来てますので、こちらへ……」
「こらこら、待たんかエティ」
「うう……」
清楚な見た目とは裏腹に元気のあるエティは外部からの来客が少ない今の時期、久しぶりの客相手に嬉しくなった彼女は早く部屋に案内しようと昂っているのだろう。
そんな彼女を止めるべくカウンターの奥から一人の男性が出てきた。見た目はガリアンに似ており、事前に弟の経営している宿屋だと聞いていた俺は、彼がガリアンの弟であると察しがついた。
「お初にお目にかかります、川端様。 私は当スプリング・インの経営をしておりますガルフと申します」
「はじめまして、私は川端士道と申します。この度は部屋の手配をして頂きありがとうございます」
「ほっほっほ、今は誰もおらぬ、御安いものです。 それよりも兄から聞きましたぞ、色々と大変だったそうですな、ゆっくりしていきなされ。エティ、彼に部屋と宿について案内頼みますぞ」
「ご親切にありがとうございます」
「では川端様、まずはお部屋にご案内しますね」
俺はガルフに礼を言ってエティに案内された部屋へと着く。部屋の造りは目に負担を掛けない色合いの茶色が使われており、アクアポルトの建築様式である白色の外壁の色のある箇所はあまりないため、木目の内張りが張られている。
木製の窓枠に埋め込まれたガラスもいい具合に部屋を飾っており、部屋の真ん中には大きめのダブルベッドが置かれていた。
「しかし、こんな綺麗な部屋を使ってもいいんですか?」
「ええ。ガリアンさんからの依頼ですし、部屋を褒めて貰って嬉しいです。毎日綺麗にした甲斐がありました♪」
部屋に荷物……といっても召喚端末くらいしかないが、荷物を置き、今度はこの宿の施設について案内してもらう。部屋があるのは二階だった為、今度は一階に案内され、最初は食堂と思える場所に案内された。
「ここは食堂です。時期的な関係ですべてのメニューはお出し出来ませんが、お腹がすいたらここへ来て下さい」
「ここの食事は美味しいぞ、私も時々来ることもある」
「ありがとうございま……」
話を聞いて返事をしようとすると、俺の腹の虫が唸り、エティと俺の取り巻きと化していたフィーナに目を向けられる。
「はは、すみません、昨日から何も食べてないので……」
「あら、だったら何かお作りしますね」
「でも、俺お金持ってないですよ」
「いいんです、それに今はお出し出来るメニューが少なくてお金なんて取れません。あとフィーナさんも一緒にどうです?」
「ああ、頂こう」
そう言ってエティは厨房へと駆け抜けて行き、店のメニューを取りに行ってから戻ってきた。俺はメニューを開き、どのような料理が見て一通り吟味した後に豚肉の塩胡椒焼きなる料理があった為、それを注文する。フィーナも特に何を食べるか決めていないのか、俺と同じ物を頼んでいた。
「しかし驚いたな、胡椒が民間レベルに出回っているなんて」
「そうか? 士道殿の国では高級品なのか?」
「俺が産まれた時代ではそうでもなかったが、この国の文明レベルくらいの時代では戦争して奪い取るぐらいの貴重品だったらしい」
町中を歩いた時に薄々と気付いていたが、町並みはとても清潔であり、変な匂いはしなかった。見た限り中世ヨーロッパレベル文明レベルみたいなこの町の路上には排泄物を始めとする汚物が無かった。地球でこのくらいの文明レベルの時代のヨーロッパの町並みは汚物で汚れていたと聞いたことのある俺は戦車から降りるときに少し身構えたが、いい意味で裏切られた。
「なあ、胡椒だけでなく、この町の清潔さにも驚いたんだが、汚水や汚物の処理はどしてるんだ?」
フィーナに聞いた所、飲み水は井戸から汲まなければいけないが、町には下水道が通っており、汚水を処理出来る設備も整っているそうだ。どうも地球上の歴史だけでこの異世界の文明レベルを見てはいけないそうだ。
そしてエティが奥で肉を焼き始たのか、塩胡椒と肉の焼けるいい匂いがしてきた。
「お待たせしました~」
大きめの焼かれた豚肉とパンが一緒に出され、フィーナと一緒に食事にありつく。この料理は所謂「トンテキ」ってやつだが、俺のイメージではこの上にソースがかかっている印象でイメージとは少し違う。だが、塩胡椒だけでも十分に味付けしれており、肉も柔らかくて美味しい。
どうやらこの世界の食事事情は地球上の中世とは比較にならないくらい豊かなものらしい。
「美味しいです。今度何かお返しさせて下さい」
「気に入って貰えて良かったです。でも本当はサラダも付けなくてはいけないのですが、今冷蔵庫から在庫を切らしておりまして……」
「冷蔵庫ぉ!?」
「ど、どうした?」
俺はいかにも中世な世界の住人が冷蔵庫なんて言う近代文明の利器を知っていることに驚いた。だが、実態はかなり違っており、この世界の冷蔵庫は魔石と呼ばれる魔法を宿した石を使用する物であり、使用すると熱を持つ魔石や逆に一気に低温に下がる魔石もあるそうだ。
そしてこの世界の冷蔵庫は低温になる魔石を箱に入れて、その冷気で箱内を冷やしてそこに食料を保存するものらしい。だが、この装置のお陰でこの異世界の食事事情が保てていることは間違いないだろう。
「ふう、ご馳走様でした」
「士道殿、私はこれからギルドに向かわなければならない。すまないがここで失礼する」
「ああ、色々ありがとうな」
「明日の朝方にまた訪れる。今度はゆっくり町中を案内してやる」
「おう、頼んだぞ」
そう言ってフィーナは宿屋から出て行き、ギルドへと向かって行った。俺は食器を下げてからエティに宿の案内を再開してもらう。
「次に案内するのは当宿自慢の温泉です」
「温泉!?」
まさかこの世界にも温泉が有るなんてな……。俺は少しテンションが上がりながらもエティについて行き、温泉のある部屋まで案内された。ちゃんと男湯と女湯で仕分けされており、脱衣場を抜けた先には立派な温泉が広がっていた。
「お湯も丁度沸いたばかりです。いかがなさいますか?」
「入らせて貰います!」
俺は身軽な足取りで二階の部屋に置いている端末から着替えを召喚させるのであった。