戦車の轟声
前回から少し間が空いて申し訳ありません。
スマホで投稿しているのですが、そのスマホを落としてしまい機種変更も兼ねて使えなかったのでしばらく凍結してました…。
「な、何なんだこの武器は!?」
驚くフィーナを尻目に俺は武装切り替えダイヤルを主砲に合わせる。目の前にはゴブリンの大群が戦車目指して一直線に突っ込んで来ている。敵の防御力的には機銃でオーバーキル出来る為、機銃掃射で蹂躙できるが、既に200発以上は撃ってしまったため、召喚可能な弾薬に限りがあるため、弾は節約しなければならない。
そこで対ソフトスキン用の砲弾を装填し、砲弾の持つ加害力で敵を一掃しようと考えたのだ。
しかし、現在戦車の閉鎖機に入っている砲弾はAPFSDSだ。これは対装甲弾であり、貫通力重視の砲弾であるため面制圧能力は低い。俺は閉鎖機のロックレバーを下げて砲弾を取り出す。
本来なら自動装填装置を搭載しているこの戦車だが、非常時や車内の予備砲弾を手動で装填出来るようになっている。
砲弾を抜いた後に戦車のコントロールパネルで弾薬選択スイッチを押して、照準用のHUDが弾に対応したものへと切り替わるり、俺はキャニスター弾を選択し、戦車に装填を命じる。ガシャガシャと後ろで砲弾ラックのベルトが回り、再び閉鎖機中に弾が装填された。
ゴブリンは散開しながらも密集して突っ込んでくるため、横に面制圧をし、散回した歩兵一個分隊をこの砲弾ならば一度で一掃出来る攻撃力のあるこの弾なら大多数の敵を掃討できるだろう。
集団の真ん中に照準を合わせ、主砲の安全装置を解除するダイヤルを回して発射スイッチを押す。
ガゴシャン!
車内の閉鎖機が後退し、主砲から派手な発砲炎が出る。戦車から放たれた1000を超える散弾は毎秒1300mという凄まじい速さで広がりながらゴブリン目指して飛んで行く。
散弾するという性質上、他の砲弾と比べて射程が著しく短いという欠点のあるキャニスター弾だが、有効射程内の掃討力は今ある砲弾の中では随一だ。
音速を超える速さの砲弾、しかも小さい豆粒みたいな散弾は目に見えない速さで飛んでく為、ゴブリンは目の前で何が起こっているか解らぬまま絶命してゆく。
散弾が地面に刺さり派手な煙を上げながらも散弾の直撃を食らったゴブリン原型を留めるどころか、霧状になるまでバラバラとなる。
生身の目標に対しては情け容赦無く、目標の胴体を貫通するため、前列の後ろにいた集団も纏めて吹っ飛ばされ、草原の一部が巨大な血まだらが出来た。
目の前で仲間が蒸発するような光景を見たゴブリンらは森に逃げ帰ろうと。散々になりながら背中を向けて走り出した。
「逃がすかよ……!」
俺は戦車を前進させ、フルスロットルでゴブリン目指して突撃する。残りの数的に体当たりで仕留めた方が弾の節約に繋がるため、背中を向けて走るゴブリンの小さな群に目掛けて突撃した。
背の小さなゴブリンはこの戦車の正面に付けられたドーザーブレードに頭を割られ、その場で倒れて行く。
結局何匹か逃してしまったが、これで少しはフィーナ達の町の住人の手助けは出来たはずだ。
「今のは何だ!? あの大群を一瞬で仕留るなんて、どんな魔法を使ったのだ!?」
「これは魔法じゃない。火薬という……そうだな、爆発する粉で小さな弾を大量に飛ばす矢だと思ってくれればいい」
「へ、平然と言ってくれるが……。こんな威力のある飛び道具なんて見たことがない……」
「それより、これで少しは片付いたか?」
「ああ。感謝する。だが今の季節、ゴブリンがここまで出てくるのは珍しい。今年は恐らく逆転の刻だろう」
「逆転の刻?」
この世界の魔物は本来暑さを嫌う性質があり、夏場はネストという巣にて休息に入るため、中々人里に現れる事はなく、涼しくなる春秋及び種類にもよるが冬季に多く現れるそうだが、十数年に一度夏場にも多く現れる時があり、その現象のことを逆転の刻と呼ぶらしい。
フィーナからこの世界の事の知識を教わりながら話を聞いていると、丘陵から人影が見えてきた。フィーナに話を聞いた所、彼等はフィーナの所属する自警団の仲間だという。おおかた単身囮となったフィーナを迎えに来たのだろう、馬に跨がった初老の男性と若い騎士の様な格好をした3人が護衛に付くような型でこちらに向かってきていた。
だが、ゴブリンの血で染まった大地と俺の戦車を見た途端にその場で彼等は足を止め、ロングボウみたいな矢を持っている自警団のメンバーが戦車に向かって矢を放った。どうやらこの戦車を魔物と勘違いしてしまったようだ。レンジファインダーを覗くと彼等までは大体300メートル程離れており、ロングボウの矢の有効射程と言われている150メートルを超える距離で発射したにも関わらず、戦車に着弾したのだが、有効射程を超えた矢の着弾した音とは思えない接触音に俺は驚く。
「なんだこの威力は!?」
「それは弓矢なんだからこれくらいの威力はあるのは当然だ」
「弓矢射程って100メートルくらいでしょ!? どう見ても人が千切れそうな当たり方したぞ!」
「それは魔法で筋力を強化しているからな、普通はあんな硬い矢を引くことは出来ない」
矢を持った男性は再び矢を構えて戦車に放つ。戦車の防御力の前には無力な攻撃だが、生身で食らうのはひとたまりも無い威力だ。俺は遠目ではあるものの、この世界には魔法が存在するのだと意識せざるおえなかった。
「しかし、このセンシャ?とやらが新手の魔物と思われているらしいな。すまないが少し前に進めてくれないか? 私が外に出て話をする」
「構わんが、撃たれはしないか?」
「アイツが矢を放ったら直ぐに外へと出れば問題ない」
俺は分かったと返事をすると戦車を前進させる。目の前の鉄の塊が動き出した、と自警団の面々は慌てはじめ、馬に乗っていた男性含め、残りのメンバーが剣を引き抜く。矢を持った男性は装填速度を上げようと必死になり、次々と矢を撃つが戦車相手には全くの無力である。目視で誰か解るくらいの距離まで差を詰めた俺は戦車を停止させ、矢が戦車に着弾した途端にフィーナは戦車から半身を乗り出した。
「ありゃフィーナじゃないか!」
「マフトさん! フィーナさんです! 矢をさげて!」
「皆、心配かけたな。それと、これは魔物ではない。センシャという武器だ!」
「なんと!こんな巨大な鉄が武器というのか!しかし、そんな物を何処で見つけた?」
「これは私が発見したものではない。ここに居る、川端士道殿の持ち物だ。……すまない、士道殿降りて来てはくれないか?」
フィーナに降りる様に言われ、俺は外に出る。ハッチから身を乗り出し、戦車から飛び降りると皆の視線は俺に集まる。 よくよく考えてみれば、死ぬ前に着ていた服なため、いかにも目の前のファンタジー世界の住人の服装とは思えない場違いな服装で更に注目が集まる。
「あー、私は川端士道と申します。 いきなり見慣れない物を見せて混乱させてしまい申し訳ありません……」
変に緊張してしまい、ぎこちない自己紹介をする。すると、馬に跨がった初老の男性が話かけてきた。
「ほう、変わった名前じゃの。ワシはガリアンと申す。色々と見る限りこの辺の人間ではないのじゃろう。さて、士道殿申したな、そこのフィーナとどの様な経緯で会った? その娘は無闇に見たことも無い人間と一緒に行動するようなヤツではないのじゃがな」
ガリアンと名乗った男に事の経緯を話す。フィーナが熱中症で倒れていた所を俺が通りがかり、応急措置を施してからゴブリンを打倒し今に至ると説明した。フィーナの鎧に打刻されていたエンブレムと同じ物を服に付けていたガリアンは、馬から降りて俺と視線を合わせてから頭を下げて礼を言ってきた。
「なんと、そのような事が……。この度は我が自警団の仲間を救って頂き感謝する!」
「いえいえ、そんな畏まらないで下さい!」
「ありがとう、士道殿。 こら、お前らも挨拶せんか」
ガリアンは後ろにいる三人の自警団員に自己紹介をさせる。三人の容姿は、弓矢を放った人物が金髪のイケメンでフィーナより少し年上で俺と同じくらいの年齢の男性と15歳くらいのまだ顔に幼さの残る美少年、短髪で赤みがかった頭髪の活発そうな少女が一人だ。
「私はマフトと申します。先ほどは私の勘違いで矢を放ってしまい申し訳ありません」
「ボクはルクス! よろしくね、士道さん!」
「私はエルナよ! フィーナちゃんとは新米の時からの友達なの」
もはや完全に警戒の解けた彼等はフランクに話かけてくる。俺は好奇心旺盛な彼等から質問攻めにあったが、別に不快な物ではない。それどころか、ガリアンも俺について色々と質問してくる始末だ。威風堂々とした見た目とは裏腹に彼もまた好奇心旺盛な人物らしい。
「所で士道殿、あのセンシャとかいう武器はどの様な使い方をするのだ?」
「あれは砲弾という、爆発する火薬と呼ばれる粉で矢を飛ばす仕組みの武器となっています。ほかにも機銃という小さな矢を飛ばす武器も備わっていますね、重いのが難点ですが……」
「と言われてもサッパリ構造が読めない。して、一発でどれ程の威力があるのじゃ?」
「うーん、私はこの辺の常識や基準というのが全く解らないので何とも言えないのですが……」
戦車の話題で持ちきりになった状態だが、このままだと埒がないと察したフィーナが話題を切り替える。
話題が切り替わると、ガリアン等はやはりフィーナの援軍として駆けつけたそうだ。だが、既に戦闘は終了しており、俺は確認の為に現場を見たいと言ってきた彼等を案内する。
戦闘現場は戦車によって駆逐されたゴブリンの死骸で溢れており、その光景を見たガリアン達は絶句していた。
キャニスター弾を放った所はゴブリンの血の海と化しており、機銃掃射で倒れたゴブリンも所々に転がっている。
「あれだけの量のゴブリンを無傷で倒すなんて……」
「驚いた……、ワシも長いことこの仕事しておるが、こんな光景は見たことがない」
「私は士道殿の戦いを見ていたが、彼が敵ではなくて本当に良かったと思う」
しばらく呆気に取られていたガリアンだが、一度にこれ程の魔物を倒した事については、逆転の刻という町の戦力不足の時期にこの量の魔物を打倒してくれたことへの感謝を述べ始めた。
いかにも偉そうな身分の人間に頭を下げられては逆に気まずい為、タイミングを見計らって、これからウィスカに向かう主旨を伝えた。
ガリアンは快くウィスカへ向かう俺を受け入れてくれ、彼の乗る馬に先導されながら町へと戦車を走らせる。この際にガリアンの取り巻きだった自警団員を戦車の上に乗せて走る。皆好奇心旺盛な為、動く戦車に乗れることに大興奮でまるで駐屯地祭りの戦車体験搭乗の操縦士をしている気分だ。
しかし、馬が歩く位の速度で走っているため、速度調節に気を遣うが車体上部に人を乗せている為、振り落とさない為にもこれでいい。
そしてかなりの距離を走り、丘陵を超えると城壁に囲まれた町が見えてきた。
「フィーナ、あれがウィスカの町なのか?」
「ああ。恐らく入る前に団長が門番に話を付ける筈だ。すまないが少し待ってくれ」
「分かった」
町に近付き、戦車を門の前に止め、ガリアンはフィーナの言った通りに戦車を見て困惑する門番に事情の説明を行い、俺はこの間に先の戦闘で消耗した弾薬の補充を行う為に車外へ出る。
端末を開き機銃の弾と主砲弾をそれぞれ出してから補充を行い、車内に戻ってちゃんと補充されたかの確認を行っていると、門番とのやり取りを終えたガリアンが向かってきた。
「士道殿、すまぬが出て来てくれぬか?」
「はい、どうしましたか?」
「この町では初めて入る者に対して冒険者手帳の確認を行っているのじゃ。すまんが士道殿の冒険者手帳を預けてくれぬか」
「え……?冒険者手帳?」
「実は団長……」
フィーナがこの世界について何にも知らない俺に対してフォローを入れてくれる。俺が遥か遠い国からやってきて、この世界について何も知らないと伝えた。
ガリアンは俺のこの世界の知識の無さに驚きはしたものの、戦車を始めとする装備品の非凡さからも特に詮索することは無かった。
結局、俺の扱いは冒険者ではなく民間人として処理される事となり、本来の町のルールで民間人は武器を携帯しないことを条件に入場出来るのだが、戦車という場違いな装備を持った俺は町の外周に戦車を止めるという条件で入場可能となった。
「士道殿、私たちの町、ウィスカへようこそ!」
俺が辿り着いたウィスカという町は、日本の風景とはかけ離れた中世風味の町だった。